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第13話:2002年1月26日


第11話から1年程が経過したころの話です。

2人の付き合いたての日々は割愛です(笑)



あれから、正式に交際を始めた美菜と雅典。


新幹線で2時間弱という距離に負けることなく、順調に愛を育んでいた。

既にお互いの親にも認められ、美菜も頻繁に東京へ行ったし、雅典も月に1度は美菜の実家に泊まりに来ていた。





そうして、いつのまにか1年以上の時が過ぎていた。



美菜は高校3年生の1月を迎え、東京の大学を受験している。

以前は悠馬のいる土地の大学を志望していたが、それはそもそも悠馬が希望したからだ。

そのため、美菜は別れてすぐに志望大学を変更した。

高校の教師も、もっと上を狙えと以前から言っていたため、美菜の意見は歓迎された。


センター試験を終えた美菜は今、来月に控えた本命の国立H大学の2次試験に向けて勉強している。

しかし、東京行きは既に確実なものとなっていた。一足先に滑り止めの私立に合格しているのだ。



そして今日、雅典は今後の話をするために、美菜の実家へとやって来ているのだった。





「それにしても、雅典くんのおかげで、花木先生大喜びしてるわよ。」

美菜の家族と、雅典の4人で夕食を囲みながら、母の朝子がにこやかに言った。


「先生たちがどれだけ言ってもやる気にならなかったミナが、急に進路変更したかと思ったら。

みるみるうちに成績が伸びて、最終的にH大学ですものね。」


そう言う朝子の横で、父の(まこと)も笑っている。


「いえ、それは美菜の本来の力ですよ。俺は何もしてません。」


雅典が、とんでもない、という風に首を振って否定した。


「ちょっと。みんなそんなこと言ってるけど、私まだ受かったわけじゃないよ?」


まるで受験を終えたかのように、気の早い話をする3人に、美菜が突っ込みを入れた。


「あら、受かろうが落ちようが関係ないのよ。

ミナのやる気を引き出したのがすごいって言っているの。

別にお母さん達は、ミナがどこの大学行こうと、気にしないわよ。」


淡白な母の答えに、美菜と雅典は目を合わせて、苦笑した。



朝子が言うように実際、美菜の親は勉強しろなどとうるさく言うタイプではなかった。

美菜自身もあまり熱心に勉強することはなく、秀才というよりは天才型なのだ。

学校での好成績も、美菜が必死でキープしているわけではないのに、一度も下がることがなかった。

だからこそ、教師達は美菜をたきつけようと必死になっていたのだが。


そんな教師の言葉に一切耳を貸さなかった美菜が、それなりに勉強するようになったのだから、それはやはり雅典のおかげに違いなかった。











夕食を終え、リビングに場所を移して4人は向かい合っていた。


「今日は、4月からの話をしにきたんだったな?」


普段は妻に主導権を奪われ、あまり会話のリーダーシップを取ることのない誠が、めずらしく口火を切った。



「はい、そうです。本命の試験はまだですけど、私立には合格してますし、そろそろ住む場所とか具体的に決めた方がいいと思いまして。」


「そうねえ。住むところね。でも、どっちの大学に行くのかで、住む場所も多少違ってくるんじゃないのかしら?ねえ、まこっちゃん?」


朝子が、大学時代に東京で一人暮らし経験のある夫に、話を振った。

44歳にもなって、まこっちゃん、などと呼ばれた誠は、最初こそ客の前でそう呼ばれることに抵抗していたが、もう慣れてしまった。


「そうだなあ。でもあのあたりの大学は同じ地区に密集しているし。

だいたい雅典くんの家との位置関係も考えた方がいいんじゃないのか?」


「それもそうね。私は東京なんてちっともわからないから、雅典くんにお任せするわ。」




美菜は、自分の話のはずなのに、誰も自分の意見を求めてこないことに驚いていた。

そして次の話に、更に驚かされることとなった。




「あの、美菜には俺のマンションに来てもらいたいと思っているんですけど、駄目でしょうか。」


「同棲ってこと?雅典くんが迷惑じゃないなら、構わないわよ。まこっちゃんは?」


「ああ。その方が色々と便利なこともあるだろうしな。」


「ありがとうございます!」




唖然としていた美菜は、いつのまにか話が終わろうとしていることに気付き、慌てて口を出した。



「あの、ちょっと待ってよ!」


6つの目が、一斉に美菜のほうを向いた。

その6つの目が、何か問題でも、と語っている。




「私、一人暮らしがしたいんだけど。」



「なんでだよ美菜?」

「あら、そうなの?」

「そうか。」


三者三様の反応が返ってきた。





まず、あからさまに傷ついた顔をする雅典に顔を向けた。

そのあと他の2人も見て話し出す。



「このタイミングで雅と暮らすと、大学生としての生活に力を注げないような気がするの。

なんて言ったらいいのかわからないけど、同棲することに浮かれちゃって、他のことに気持ちが向かないって言うのか、…」


美菜は自分の気持ちをうまく表現することが出来ずにもどかしかった。

朝子がそんな美菜をなだめるかのように遮る。


「それはそうよねえ。なんたって、今まで離れ離れだったんだから。浮かれるなっていうほうが無理じゃない。

でも別に、それでもいいんじゃないの?さすがに、さぼりすぎて留年とかになるのは困るけれどねえ。」


誠も、大した問題ではないと考えているようで、朝子と一緒に笑っていた。





雅典だけは、美菜の表情から真剣な気持ちを読み取って、尋ねた。


「…どうしても、一人暮らしがいい?」



美菜は、すぐ横にいる雅典のほうに体を動かして、しっかりと向き合った。


「うん。ずっととは言わないけど、とりあえず最初は別々がいい。」





その力強い目に、雅典は自分が折れることにした。


「そっか。わかったよ。でも、なるべく俺の家の近くにしろよ?」


「それはもちろんだよ!私だってすぐ会える距離じゃなきゃ嫌。」


美菜があからさまに嬉しそうに、満面の笑みで答えた。

それを見た朝子と誠も、呆れつつ承諾をした。


「だから一緒に住めばいいって言ってるのに、本当に変なところで頑固なんだから。」


「こんな娘ですまんな、雅典くん。」




「いえ、同じ都内に住めるだけでも、今に比べたらずっとましですから。

欲張りすぎるのは良くないってことですね。

まあ、今からこの調子だと、将来尻に敷かれるのは…覚悟しておきますよ。」



仕方がない、という口調とは裏腹の嬉しそうな表情で、美菜の頭を愛おしそうに撫でながら、雅典は言ったのだった。













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