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第14話:2002年3月16日

「おつかれー!」

「おつかれさま。」

「おつかれ。ありがとうございました!」


それぞれが持った缶ジュースを、勢い良く飲む。



「っぷはー!やっと終わったなー。なんか俺、もう年かも。」


「ハルが年なら俺はどうなるんだよ。」


「でも、ハルのほうが絶対体力ないよね。全く運動してないもん。」


美菜が、「絶対」の部分に力をこめて言った。

反論したい気持ちはあるものの、自分でも認めざるを得ない事実のようで、晴彦はため息をついた。


「俺もナベさん見習って、ジム通いするべきかねえ?」


「やめたほうがいいよ?ハル絶対に長続きしないから。」


何も言い返せない晴彦の隣で、雅典が笑った。







今日は、美菜の引越しの日。


晴彦が東京まで手伝いに来ており、美菜と雅典と3人で部屋の片づけをした。

それがようやく終わり、労をねぎらっているところだ。




「ミナもついに東京か。」


「ハル、さては寂しいんでしょ。」


美菜がすかさず、からかいだした。


「違えよ。ま、道代は寂しがってたけどな。」


そんなことを言いつつも、やはりどこか寂しいと感じてしまう晴彦。

それを理解しているとばかりに雅典が言う。

美菜の手を取って。



「悪いなハル。でも、もう美菜は帰せないから。」



美菜の手が、雅典のそれを握り返すのを見た晴彦は、わかってますよ、と苦笑した。







「それにしても、ミナがH大とはな。お前ほんとに頭良かったんだな?」


「なにそれ。信じてなかったの?」


「そういうわけじゃないけど。

お前がまともに勉強してる姿とか見たことなかったし。」


「んー、人より少ない努力で、結果を出したのは間違いないかもしれない。

でも私が人に誇れるのって、勉強しかないからね。

天は二物を与えずってやつだよ。」


晴彦は、そう言い切る美菜の、整った容姿を上から下まで見た。

雅典も、同じ動作をしているのが視界の端に感じられた。


それでも何も言わない雅典を見て、晴彦は言った。


「…お前がそれ言うと、嫌味にしか聞こえないからやめておいたほうがいいぞ?」


美菜は、そういうことではない、と思った。


「私が言いたいのは、運動オンチだし、芸術的な才能もないからっていう話!」


「でも。勉強も運動もダメで、おまけにブスっていう人も世の中には結構いるぞ?

お前、世間一般の評価ではキレイな部類に入るんだから、それで十分だろ。

まあ俺からしたら、ミナなんて大したことないけどな!」



「…ねえ雅。今のって、褒められたの?けなされたの?」


どう反応したらいいのか決めかねる美菜が、雅典に尋ねた。

雅典は笑いながら、答えた。


「間違いなく、褒められたんだよ。ハルは照れ屋だからな。」


「そっか。じゃあ今ハルは照れてるんだね。かーわいー!」


「…はあ。

なんかナベさんのせいで、ミナがどんどん憎ったらしいやつになっていく気がするんすけど。」



3人でつるむようになってから、晴彦が一方的にいじられるのがいつものスタイルになっている。

以前はここまでひどくなかったのに、と晴彦は心の中で嘆いた。



「気のせいだろ。こんなにかわいいのに。」


「ほんとに?

ちょっとハル、聞いた?かわいいって!」


「はい?ミナほどかわいいっていう言葉が似合わないやつはいないと思うけど?」


「…失礼だな。人がせっかくいい気分に浸ってるのに。

それくらい、言われなくてもわかってます。」


不貞腐れた美菜の髪に触れながら、雅典が言い聞かせた。


「まあまあ。美菜はキレイなんだから、いいんだよ。」


「私はキレイより、かわいいって言われたいんだけどな。」


「だから俺にとっては、美菜はキレイでかわいいって言ってるだろ?」


「えー、なんか違うんだけど。

…ま、いっか!」


うまく言いくるめられた美菜に、晴彦が一言。


「うわっ、単純。」


「うるさいよー。そこの照れ屋さんは黙ってくださーい。」


「はははっ。ドンマイ、照れ屋さん?」



やはり、この2人には勝てない晴彦だった。











缶ジュースも飲み終えたころ、話もひと段落した。


設置したばかりの真新しい時計を見て、美菜が言う。



「そろそろ夜ご飯の時間だね。何食べる?」


「やっぱ蕎麦じゃねえ?」


「やっぱり?ハルがそういうと思って、ちゃんと買っておいたんだ。ね?雅。」


「そうそう。ハルの言いそうなことくらい、美菜にはお見通しらしいぞ。」


「さすがみーすけ!キッチンすぐ使えるのか?」


「うん。今から使う分には困らないはずだよ。

でも蕎麦はあるけど、具は買いに行かなきゃ。」



すると、雅典が外食を提案した。


「え、でもせっかくお蕎麦買ったのに。」


「別に蕎麦なんて腐るものでもないし。それに、美菜も今日は疲れてるだろ?」


「まあ、疲れたけど…」


「はい、じゃあ決定。」


美菜の頭にポンと手を乗せ、雅典は強引に結論を出した。



それを見た晴彦が、ポツリと呟いた。


「…なんか俺、来ない方が良かったかもなー。」


「なんでよ?」


美菜は突然そんなことを言い出した晴彦に、訳が分からないといった風だった。


「だって明らかに邪魔者っぽいし。」


「どこがだよ?だいたい、いつも3人で遊んでるだろ。」


雅典も同じように、疑問を投げかける。


「いつもとは話が違うって。

今日は、新婚さんの初夜みたいなもんでしょ?」



それを聞いた美菜と雅典は、そろってあっけにとられた。


「晩飯だけならまだしも俺、今日ナベさんの家に泊まるんすよ?

どうせ疲れて寝るだけだろうと思ってたけど、どうやらナベさんは体力残ってるみたいだし。」


にやつきながら2人に向かって言う晴彦。





ようやく我に返った美菜が、眉間に皺を寄せて言い放った。


「何言ってんの?ハル、下品。」


「下品ってなんだよ。切実な問題だろ?俺が気使ってやってるのに。」


放っておくと言い争いをはじめそうな2人に、雅典が口を挟んだ。


「ハルも美菜も、ストップ。」


そう言った後に、晴彦に向かって得意げに言った。



「いいんだよ。今日を逃したって、これからは好きなだけ時間はあるからな。」



大げさに笑う晴彦とは対照的に、美菜は余計に眉間の皺を深くした。


「だって。良かったな、みーすけ!」


笑いながら、美菜の肩をたたく晴彦。




「もう2人とも黙って!さっさとご飯食べに行くよ!」


そう言って美菜はさっさと玄関に向かって歩き出した。




晴彦と雅典は、声には出さないように笑いながら、その後をついていったのだった。










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