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※突っ込みは必ず入れておきましょう。

 吠えるように喚くセミの声がうざったい。

 嫁探しするために騒音を撒き散らすとか、リア充死ねという言葉はこういうときに使うべきだ。

 と、わたしはクラスメイトの怨念メッセージに返信しながらため息をついた。


 ロッドが帰って、一週間。

 夏休みも、あと少しで終わる。


 あれから家に帰ってスマホを確認したら、驚いた。

 なんと、あんなトークを披露したというのに、恋人選手権でわたしたちが優勝したというのだ。


 理由は、

「あの熱烈なメッセージに感動した」

「イケメンと付き合うって、大変なんですね!」

「なんで過去形なのか不思議だったけど、いろいろ大変だと思った」

「お姫様抱っこで退場なんて、憧れすぎる」

「リア充死ね」

 などなど――完璧に、ロッドへのメッセージだと勘違いされたらしい。


 委員長からは、あのあとどこに消えたのか不思議がられたが、「本当は二人っきりでいたかっただろうに、無理に参加させてごめん」と言われてしまった。

 ついでに、「よいイケメンでございました。ありがとう!」と追記されていた。

 うん、委員長にとって、良い思い出になったらしい。

 なんだか、良い方向に勘違いされすぎて、逆に気持ち悪い気がしないでもない。


 博也は結局、連れていた女の子と付き合うことになったらしい。

 彼だけは、わたしのメッセージを正確に受け取っていたが、誰にも言わないでおいてくれている。


 あのときは、博也の顔を見るだけで辛くなったのに、今は普通にメールも出来る。

 こんな気持ちになれたのも、全部、あの場で正直な気持ちを言えたからだ。


 わたしはカップ麺にお湯を注ぎ、鼻歌を口ずさみながら居間に持っていく。


 ロッドは今頃なにをしているだろう?

 ちゃんと世界を救っているのかな?

 勇者は強いのかな?

 また誰かに邪魔をされて、どこかの世界へ行っていなければいいけれど。


 イケメンすぎるのに、面倒で残念な男だったけれど、今ではそれなりに楽しかったと思う。

 この夏に体験したことは一生忘れないだろう。

 きっと、わたしの中で思い出として残り続ける。


「ん――?」

 なんだか、不意に周囲が明るくなった気がして、わたしは眉を寄せる。


 ものすごい既視感を覚え、わたしは急いでカップ麺の中を覗き込んだ。

 だが、そこにはなにもない。スープに浮いた脂が光を照り返しているだけだ。

「セーフ!」

 はっはっはっ! あんな奇跡的偶然が何度も起こってはたまらない。

 残念だったな!


「ひゃぁっ!?」

 騙された、下だった!


 自分の足元に奇怪な模様の魔法陣が浮かんでいることに気づいて、わたしは悲鳴を上げた。

 けれども、とき既に遅し。

 次の刹那には、視界は真っ白に塗り潰されてしまっていた。

 そのまま、身体が浮き上がるような奇妙な感覚に囚われ、――。


「――ったあ」

 気がついたときには、全身が水浸しになっていた。

 頭の上から、なにかが垂れていると思ったら、カップ麺。

 恐らく、上に放り投げてしまったのだろう。

 頭から麺を被るという、どこかで見たシチュエーションを体験して、わたしは唇を引きつらせた。


「よく来た、待ち侘びていたぞ」

 なに、これ?

 背後から聞き覚えのある声が投げられるが、わたしは必死で無視を敢行した。


 全身ずぶ濡れの状態で座っていたのは、小さな泉の中。

 足元から、冷たい水がこんこんと湧きあがっている。

 ここに浸かっているお陰で、カップ麺を被っても熱くなかったのだろう。

 よく見ると、近くに容器が浮いている。


 周囲を見回すと、静かな森のようだった。

 木漏れ日が柔らかく射し込み、泉を清らかに照らしている。


「こら、サナ。無視するな」

「……どういうことなの、これ」

 憤怒のようなもので顔を引きつらせながら、わたしはゆっくりと後ろを振り返る。

 すると、ロッドが嬉しそうな笑みを浮かべて立っていた。

 少し子犬みたいで可愛い表情だと思ってしまったが、今はそんな場合ではない。


「喜べ、お前を勇者として召喚してやった。これから、私と共に世界を救う旅をするのだ!」

「はあ!? なんで!? なんで、わたし!」

「王族の血筋を引く者なら勇者として民にも認めてもらいやすいからな。お前は、あの世界の姫なのだろう?」

 抗議して叫ぶと、ロッドがサラッと言い放った。

「アンタが勝手に勘違いしてるだけで、別にお姫様じゃないし!」

「隠さなくとも良い」

「隠してるわけじゃない!」

 失敗した……面倒くさがって否定しなかったのが仇になって、大変なことになってしまった。


 わたしは慌てて泉に潜ったが、湧き水が全身を冷やすだけで、少しも元の世界に戻れない。

「なにをしている? お前は私が召喚したんだ。望み通りに、魔王を倒して世界を救うまで元には帰れないぞ?」

 水底にしがみつこうとするわたしを引っ張りあげながら、ロッドが説く。

 その表情に悪意など見えず、相変わらず、本気で言っていることがうかがえてゾッとした。


 世界を救う?

 魔王を倒す?

 わたしが勇者!?

 あり得ない!

「よろしい。ならば、冒険だ」とはならない。なってたまるか!


「大丈夫だ。ちゃんと私が守ってやる。だから、世界を救え」

「それ、すごく矛盾してる気がするんだけど!」

 守られる立場の勇者が世界を救うとか、意味不明なんですけど。


 けれども、召喚されてしまった以上、世界を救うまで帰ることが出来ない。


「さあ、行くぞ。まずは、その貧相な装備からなんとかしなければな!」

 逃げるわたしを無理やりお姫様抱っこで捕まえ、ロッドが高らかに宣言する。


 この夏の思い出は、まだ終わりそうにない――。



≪続かないよ!!≫

おわり


 最後までお読みいただき、ありがとうございます!

 某所企画にて別名義別タイトルで出品した作品を加筆改稿したものです。

 最初は異世界の勇者を海釣りする構想で考えていましたが、やがて、勇者がイルカに乗ってやってきて、蛇口を捻ったら王子様が出てくる話に変わり、最終的に魔術師がカップ麺を頭から被る構想で落ち着きました。

 蛇口王子はハードル高すぎて無理でした!(笑)


 いつもカップ麺を食べながら、良いイケ麺が出てきてくれたら良いなぁと願っております。


 読者の皆さまに感謝しつつ、イケメン妄想に励みます。

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