063⚫️契約とは関係なく
ブリッツは相変わらず、宿の二階で寝起きしている。
キャサリンは夜陰に紛れ、階段の軋みを殺して部屋へ向かった。
扉の前で、一つ息を整える。
静かにノックをした。返事はない。いつものことだ。
「わたしだ。キャサリンだ。入るぞ。」
ゆっくりとドアを開けると、
僅かなランプの光の中で、ブリッツがベッドに腰掛けていた。
光を弾く銃口が、来訪者を迎えている。
ブリッツは、キャサリンが独りであること、
武器を帯びていないことを確認すると、ゆっくりと銃を下ろした。
「夜分にすまない。相談があってきたんだ。契約の更新についてだ。」
ブリッツは短く頷き、顎で椅子を示した。
キャサリンは促されるまま、硬い木椅子に腰を下ろす。
「端的に言う。これが今、うちが出せる上限だ。見てくれ。」
彼女は、数枚の銀貨と銅貨が寂しく鳴る布袋を開けて見せた。
「足りないのは、わかっている。・・・だから、もし報酬の不足を補うために、わたしができる別の支援があるなら、何でも言ってほしい。戦力としてでも、後方の仕事でも、任務の補助でも・・・できる限りのことをする。」
キャサリンは拳を握りしめた。
何度も死線を越えてきたはずなのに、
この場面だけは、胸の奥がざわついて落ち着かない。
ブリッツが低い声で言った。
「俺は、報酬を’人の好意’で受け取るつもりはない。」
「・・・だろうな。」
キャサリンは顔を上げ、ブリッツの眼をまっすぐ見つめた。
「・・・それじゃあ。契約とは関係なく・・・少しだけ・・・もう少しだけ・・・ここにいてもいいか?」
ブリッツは応えなかった。
ただ、ランプの火を少し弱め、
部屋には静かな暗がりと、互いの呼吸だけが残った。*
(この話には、別の世界線としての“完全版”があります。詳細は次話 063−02⚫️アキラの奮闘 をごらんください。)




