024●一枚の写真
家老は目覚めた。深夜である。
明日は大神新三郎とその兄の一家が、
何者かに殺害されたという報を、驚いて聞かねばならぬ。
寝床から身を起こし、少しばかり新三郎を呪った。
腕が立つがゆえに暗殺を命じたが、
仕損じたばかりか、のうのうと帰参しおった。
無幻斎を取り除かなければ、藩の財政は潤わぬ。
家老自身の懐具合に大いに影響があるのだ。
「こんばんは、ご家老様。」
全身が凍り付く。何だ、今のは。
空耳か。女の声。柔らかだが、底知れぬ響き。
「そんなに怖がらないでね。少しお伝えしたいことがあるの。」
眼を凝らすと足元に立つ者がいる。
一体、どうやってここまで来たのか。
家老は声を上げようとした。しかし、それは叶わなかった。
身を起こしたまま、動けない。
荒い呼吸をしながら、目玉だけを動かす。
「・・・というわけで、この事はお終いにしましょう。上に立つご身分なのですから、民を飢えさせてはなりませんよ。あと、新三郎様に手出しは無用。何か仕掛けるなら、即座にあなたの動きを、今のように止めてしまいますからね。’わかりましたよね’。」
その言葉を最後に、彼女は闇に溶けた。
そのままの姿勢で、家老は朝を迎えた。
朝日が差し込むと共に、呪縛が解かれたことを知る。
家人が来る。夢か・・・。
そう思って立ち上がった時、彼は身を置いていた場に一枚の紙を見つけた。
それは絵である。だが、単なる絵ではなかった。
上半身を起こした自分の姿があまりに鮮明に描かれている。
筆では到底描けぬ、異界の精緻さを宿していた。
光沢がある紙質も見たことがない。
裏を返すと文字がある。
‘わかりましたよね’
その文言を見て、家老は喉の奥から叫びを絞り出した。
朝の静寂が、破られた。




