014⚫️真剣勝負の果て
「では、真剣での勝負をお望みか。」
「左様です。是非、お願いしたい。」
「ならば、庭に出ましょう。」
新三郎は剣を取り、無幻斎の後に続いた。
障子の外では、草花が柔らかに揺れている。
静けさが、かえって胸を締めつけた。
ふたりが対峙する。新三郎が抜き、無幻斎も抜刀した。
両者、中段に構え、間合いを詰める。
新三郎に迷いはない。
藩命であるなしに関わらず、己の剣技がどこまで通じるかを見極めたい。
その眼は、無幻斎の全身を捉えていた。
流派が違えば、予想外の太刀が来る。
奇策を卑怯と呼ぶのは、命のやり取りでは言い訳に過ぎぬ。
相手はひとり。戰場ではあり得ぬ状況だ。
それでも、無幻斎が正面から立ち会っている。
・・・その事実が、なぜか無性に嬉しかった。
呼吸は読めない。隙があるようで、ない。
不思議だ。その不思議さの中で、剣が自然に動く。
一閃、頭部へ落ちる刃。刹那、空を切った。
無幻斎が左に躱したのだ。
止まらぬ。流れを断たず、慣性が次の斬撃を誘う。
横一文字に薙ぐ。
しかし、またも空を裂くだけである。
新三郎は構え直す。
技が尽きれば、反撃される。
だから、力まぬ。己の会得した理を信じるのみ。
無幻斎が踏み込む。喉元へ突き。
新三郎は左に受け、そのまま剣筋に沿って斬り返す。
無幻斎は剣を巻き込み、右肩に担ぐように転じ、一閃、首を狙う。
新三郎は身を屈め、頭上一寸でかわす。左から胴へ切り返す。
無幻斎は体を投げ出し、脇へ滑り込み、前転で立ち上がった。
三度、両者は対峙する。
見事な躱し、即座の反撃。
これこそ実戦だ。
小細工などない。
ただ、気と剣と体が一致して動くだけ。
その時、無幻斎の背後から殺意を帯びた斬撃が迫った。検分役だ。
太刀が一直線に無幻斎を狙う。
無幻斎は舞うように身を翻し、影のように背後へ回り込む。
勢い余った突きが、新三郎を襲う。
反射的に剛刃流の理が働く。
流刃、一刀。
刃は太刀筋を返し、検分役の胸を裂いた。
声もなく、男は崩れ落ちる。
風は、何事もなかったかのように草花を揺らしていた。




