009●聖域
巫女の後に続き、石段を登る。
澄んだ緑の中に、小高い丘の頂に、伽藍と呼ぶべき建物が姿を現した。
九龍山高宮寺。
その名を聞くだけで、古代の霊気が立ちのぼる。
大神 新三郎は、胸の奥でその歴史を思い起こす。
神話の時代、初代の王が統一王朝を築こうとしたとき、
龍神が棲むこの山を聖域と定めた。
王を諭し、無用な争いを避けるように、と諌めた者がいたのである。
それを起源として、祭祀がここで始まった。
無幻斎の祖先は、その祭祀を担った者たちだった。
山に籠り、神と語り、人々を護る秘儀を継承する一族。
彼ら彼女らは「神も仏も、人を救う道である」と信じ、
時代が移ろうごとに新しい教えを取り込んだ。
この国に仏教が渡来すると、九龍山はその光を受け入れた。
修験道が生まれ、山岳信仰と仏法が交わる。
平安の頃には密教が加わり、
大日如来と龍神、そして天照大神が同じ殿に祀られる・・・神仏習合である。
戦国の乱世、寺社の多くが焼かれ、荒れ果てた。
だが九龍山は違った。
険しい山と堅固な伽藍、
そして歴代の無幻斎が率いる神兵たちの武力により、侵略を退けた。
彼ら彼女らは祈りだけでなく剣をも取り、聖域を守り抜いた。
九龍山高宮寺は、神仏一体の理念を掲げながら、
戦火を免れた数少ない聖地としてその威容を保ち続けた。
神兵たちの闘いの息吹は、今も石段に残る苔の奥に深く潜んでいる。
武士の支配が始まると、幕府は宗教を統制し、神仏分離の風が吹き始める。
だが高宮寺は例外だった。
表向きは寺、奥殿には神殿。古
代王権成立の秘儀を守り続ける最後の砦。
それが九龍山高宮寺であり、無幻斎が率いる者たちの存在だった。
「神も仏も、人を救う道である」
無幻斎の言葉が、山風に乗って新三郎の耳に響いた気がした。




