しっかりしろよ!
7月も終盤。これからまだ残暑を乗り切らねばならないと思うと、それだけでげんなりしてくる。
もうすぐ70歳になるが、この歳になっても容赦なく襲いかかる近年の猛暑は、さすがに身にこたえる。基本的には家に籠もる日々だが、時折窓から吹き込む風にわずかな期待を寄せるのがせいぜいだ。
そんなある日、毎年お中元を送ってくれる友人の江岸からハムが届いた。ありがたくいただき、さっそく夕食の食卓に並べる。
ハムが大好物の桂子は、心底嬉しそうに目を細めた。
「江岸さん、本当に優しい方ね。いつも助かるわ。……ねえ昭夫さん、お返しには何を贈るの?」
「あぁ、あいつはいいんだよ。『いつも気を配ってもらっているから、お返しは気にしないでくれ』って言われているからな」
桂子は少し納得がいかないような顔をした。
「昭夫さん、それでも毎年いただいてばかりじゃ申し訳ないわ。今年くらい何かお返ししたら?」
「いや、あいつは本当に受け取らないんだ」
俺はここぞとばかりに、日頃から気になっていた桂子の悪癖に触れてみることにした。
「だいたい、桂子だって何かにつけて人に物を贈るだろう? あれだって、相手にしてみれば心の負担になるんだぞ。このハムの件で少しはわかっただろう?」
すると桂子は、しおしおとした様子でうなずいた。
「そうね、昭夫さん……そうなのよ。自分でも良くないとは分かっているの。分かってはいるんだけど、どうしてか止められないのよ。本当に困ったわね」
桂子のプレゼント癖は、もはや病的と言っていいレベルだ。一度、専門の医師に相談すべきだろうか……。
「桂子、一体どうしてそんなに人に贈り物をしたがるんだ?」
「これをあげたら喜んでくれるかしらって考えると、もうそれだけで嬉しくて浮き浮きしてきちゃうの。本当に、自分でも抑えが利かなくなっちゃうのよ」
「つまり、自分が人を喜ばせているという事実が快感なんだな。でもな、桂子が思っているほど人は単純じゃないぞ。一歩間違えれば、押し付けがましくて失礼になることだってあるんだ」
「……分かる気はするわ。でもね、中には本当に嬉しそうにしてくれる人がいて。その笑顔を見ちゃうと、もう止められなくなるのよ」
まったく、先が思いやられる。
『しっかりしろよ、桂子……いや、俺もだ』
やはり一度、心療内科かどこかに相談してみるべきかもしれない。不安定な妻を抱え、この先どんなトラブルが待ち受けているのか。心配は尽きなかった。




