シロクマのことを決して考えないで下さい。
おれはガン無視することにした。
「くっそー、JKめ」
思わずつぶやくと、それを聞いたルエルが首を傾げた。
「JK? あいつはJKというのか?」
「JKというのは女子高生のことなんだよ。女子高生って言っても分かんないと思うけど、その頭文字をとったものだ。おれの生きていた時代の一部の女の子たちの呼び方だ」
「ふーん。略してJKということだな!」
「そだね」
「私ならジョーカーを略すとJKだな!」
「ああ、外国ではそうなのか」
綴りは確かJOKERだったはずだ。
ジョーカーというとトランプの絵柄を思い出すが、あれも悪魔っぽい恰好をしていた。
と、今度は。
おれたちの行く手に待ち構えていたのは、そのジョーカーだった。
白塗りの顔に真っ赤な唇。
白いぼたっとした服を着ている、少女のジョーカーだった。
彼女は切り株の上で踊っていた。
「あ、なるほどね」
おれは理解した。彼女の……JKの秘術を。
「おい、JK。分かったぞ」
「なにがですかー♪」と踊りながらJKが言う。「そんな怖い顔をしていないで、踊りませんか〜♪」
「なにやら楽しそうですね」
お萌がわくわくしたような顔でおれを見る。
「JK! お前は人の思念を読み取って姿を変えるんだろう!」
「大当たり〜♪」
「殿。お見事。さすがですね」
お萌が呑気な声を出しているのは、JKを脅威だと思っていないからだろう。
しかしこんな風にずっとつきまとわれては気分が落ち着かないのも事実だ。
それに、もし「JK」から危険なものをイメージしたら、そえが具現化してしまうのだ。
例えば……あ、やめろ。考えるな。
と言っても、無理だった。
人には考えてはいけないと思ったことを考えてしまう傾向がある。
「みなさんに一つだけお願いをします。シロクマのことを決して考えないで下さい」
と言われるとシロクマのことが頭から離れなくなるという心理実験が示す通りだ。
おれは「JK」に関係する危険なものを考えまいとし、逆に当てはまるものを頭に蘇らせてしまった。




