ハランド編10 51階
僕らはついにこのダンジョンの最下層、50階をクリアした。
キキラが落ち着いた後に宝箱に目を向ける。
小さな宝箱、それと思ったよりも大きな宝箱の2つがあった。
キキラが小さな宝箱を開ける。
中には魔石が入っていた。
「これは...どうやら武器の強化に使う物のようですね。
ダンジョンを出たらスミスさんの工房で強化してもらいましょう」
一方大きな宝箱。
宝箱というには少し無理のある大きさだ。
リリスと僕の二人がかりで押し開ける。
空っぽ。
何も入っていない。
「ちょっと!これだけ大きな物を用意して何もなし?」
リリスが悪態をついた。
突如宝箱が光りだす。
宝箱はかき消え、足元に転移陣が現れた。
どういうことだ?ダンジョンは50階までのはず。
「ダンジョンはそれなりの数を攻略してきましたが、これは初めて見ます。
うかつには近づかないほうがよいでしょう」
キキラが制止する。
ダンジョンの報酬はその者の強く願うもの。
僕とリリスの願いはアキの回復。
もしかしたらこの先に手掛かりがあるかもしれない。
「僕はこの先に進んでみようと思う。
ダンジョンが願いをかなえる場所なら、きっと何かあるはずだ」
「わたしも賛成!ここまできて手ぶらでなんか帰れないわ」
僕たち一行は先に進むことにした。
だが先ほどの戦闘で消耗し、スキルポイントも枯渇している。
とりあえず休眠をとることにした。
≫
「準備はいい?」
「いつでもオッケー!」
「私もです」
転移陣を起動する。
まばゆい光に包まれる。
目を開けるとひと際大きな扉があった。
朱塗りの豪華な装飾がされている。
目配せをした後、慎重に開ける。
明かりが灯る。
≫
首を3つ持つドラゴンに似た巨体。
ヒュドラだ。
凶暴な牙、太いしっぽ。
鋭い眼光で6つの目がにらんでくる。
「私も話を聞いたことしかありませんが、あの魔物は再生力が異常です。
首をはねてもすぐに再生します。
倒すには体内の核を壊す必要があります」
攻撃をかわしながら胴体に大ダメージを与えるのは難しそうだ。
とりあえず様子見だ。
「グレネード!」
胴体の近くに着弾し爆発する。
肉を焦がしたが傷は浅い。
火力不足のようだ。
「相手は首が3本。こっちも3人だ。
1人1本を相手取っていこう」
駆け出していく。
ヒュドラが首を振るった。
盾で受け止める。
重い。
身体が吹き飛びそうになる。
これではパリィは無理そうだ。
リリスとキキラは器用に攻撃をかわしながら斬撃を見舞っている。
僕も負けじと銃を撃つ。
これは効果があるようだ。
ヒュドラがひるんだ。
確実にダメージを与えていく。
「スキル・居合い斬り!」
首が1本跳ね飛んだ。
途端、切れ目がうねうねと動き出す。
あっという間に首が再生した。
「ちょっと!再生早すぎない?これじゃきりがないわ」
「ヒュドラの再生力にも限界はあります。
攻撃していけばおのずと再生にかかる時間も長くなります。
その隙に核を壊しましょう」
キキラの指示に従う。
銃弾で傷ついた箇所を狙ってグレネードを投げる。
首がはじけ飛ぶ。
これで2本目。
だがすぐさま再生する。
たしかに嘆きたくもなる。
僕らはヒュドラの猛攻をかいくぐりながら攻撃を続ける。
こちらの体力にも限界がある。
なるべく早く再生力を落としたい。
長い攻防戦。
比較的大ぶりな攻撃だが一撃が重い。
外傷がなくても体内が悲鳴をあげている。
「スキル・ヒール!」
内臓が軽くなった。
きしんでいた骨も整う。
「ありがとう、キキラ」
「当然のことです。
ですが、このまま戦闘が長引くのはまずいですね。
私のスキルポイントが尽きるのが先か、ヒュドラの再生が止まるのが先か」
じわじわとだが再生力が落ちてきている。
再生までに数十秒を要するまでになってきた。
いける。
僕は胴体への攻撃を決行する。
その時、ヒュドラが回転した。
太く強靭なしっぽが僕を吹き飛ばす。
一瞬意識が飛ぶ。
気が付くとキキラのヒールを受けていた。
「動いてはいけません。あばら骨が折れて内臓に突き刺さっています」
リリスが俊敏さをいかして一人でヒュドラを相手取っている。
歯がゆい。
このままではリリスが危ない。
そんな心配をよそにリリスは首をはね続けていく。
≫
1本。2本。3本。
もうどれだけ首を落としただろうか。
――ザザッ
リリスの頭にノイズが走る。
こんな時に何?
嚙みつきを避け、また首をはねる。
――ザザッ
再びノイズが走る。
頭がふらつく。
ヒュドラの体当たり。
なんとか身をよじってかわす。
その間隙を縫って2つの首が襲ってくる。
リリスは妖刀を抜いた。
スキルポイントは残り少ない。
だがキョウとキキラが動けない以上、私が足止めをするしかない。
「キョウと同じ、身を捨てた戦い方はいやなんだけどな」
そうつぶやきつつ切り刻んでいく。
首の根元に飛び込みスキルを放つ。
「スキル・円陣斬!」
一気に3本の首をはねた。
さすがのヒュドラも同時の再生は難しいらしい。
好機。
胴体へ攻撃を仕掛ける。
≫
キキラは胴体に核があり、それを破壊することでヒュドラを倒せると言っていた。
ならばそこまで切り刻むのみ。
「スキル・居合い斬り!」
ぱっくりと大きな傷ができた。
「スキル・刺突!」
突撃のスキルで傷を大きくする。
あった。核だ。
まだ奥にあるが光を放っているのがわかる。
あと少し。
その時、再生を終えた首がリリスを襲った。
胴体に意識を持っていかれていたリリスは吹き飛ばされる。
壁に激突し血を吐く。
しくじった。内臓をやられたようだ。
だがまだ動ける。
キョウとキキラを見る。
まだ回復には時間がかかりそうだ。
ギリッと奥歯をかみしめて、苦痛に耐えながら戦線に復帰する。
スキルの多用。
妖刀によるスキルポイントの消費。
リリスのスキルポイントは三分の一を切っている。
だが二人を守るためにも止まるわけにはいかない。
3本の首の噛みつきをなんとかかわし、再び首元で円陣斬を放つ。
首が全部吹き飛んだ。
――ザザッ、ザザザッ、ツー...
一番大きなノイズ。
リリスは頭を抱えて膝をついた。




