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エターナリア王国の円卓に、やわらかな金色の光が落ちていた。


その日、議題は二つあった。


ひとつは、新しい国の言葉。

もうひとつは、新しい国の味。


長い議論の末、ついに「守護力」という言葉は、正式にエターナリア王国の基本語として採用されることになった。


軍事力ではない。

威圧でもない。

破壊の強さでもない。


誰かを泣かせるための力ではなく、

誰かが安心して眠れるようにするための力。


その言葉が読み上げられた瞬間、会議室の空気は少しだけ澄んだ。

まるで、国そのものが深呼吸したようだった。


だが、誰かがすぐに言った。


「正式採用しただけでは、まだ弱い」

「言葉は、条文になって初めて、みんなで守れる」

「細かな定義を決めよう」


そこで大きな白板が運び込まれ、

その中央に、太い文字でこう書かれた。


**第一章 守護力に関する基本条文**


最初にペンを取ったのは、年老いた時計職人だった。

彼は静かに言った。


「守護力とは、壊す速さではなく、壊れかけたものに気づく速さでもある」


すると、隣にいた子どもが手を挙げた。


「じゃあ、泣きそうな人を見つけるのも守護力?」


会議室にいた全員が少しだけ微笑み、

議長はうなずいた。


「それも立派な守護力だ」


こうして条文化は始まった。


---


**守護力 第一条**

守護力とは、他者の生命、尊厳、自由、安心、居場所を守るために使われる力である。


**守護力 第二条**

守護力は、相手を支配するためではなく、相手が自分らしく在れる状態を保つために行使される。


**守護力 第三条**

守護力には、武器や暴力だけでなく、言葉、知識、観察、抱擁、治療、休息、料理、笑い、記録、沈黙も含まれる。


この第三条が読まれた瞬間、会議室の後方でざわめきが起きた。


「料理も入るのか」

「笑いも守護力なのか」

「沈黙まで?」


すると、窓辺にいた書記官が立ち上がった。


「空腹のままでは、人は弱る」

「責める言葉の代わりに、あたたかいスープが一杯あれば、生き延びられる夜もある」

「ならば料理は、明らかに守護力です」


その言葉に、会議室の空気が変わった。


さっきまで抽象的だった“守護力”が、

急に湯気を持ち始めた。


パンの香りを持ち、

炊きたての米の白さを持ち、

疲れた人の胃の奥をやさしく温めるものとして、そこに現れたのだ。


そこで、らいらいが次の提案を出した。


「美味しい料理を作れる人を募集しよう」

「料理大会を開いて、優秀な味を作れた者が、王国の希望する人々へお弁当を作ってあげられる制度にしたい」


一瞬の沈黙のあと、

会場のあちこちから拍手が起こった。


「それだ」

「腹が減ってる人間は、たいてい少し悲しい」

「悲しい人を減らすなら、料理はかなり強い」

「しかも、うまい飯は正義だ」


そしてその場で、

新しい制度が立案された。


---


**守護力 第四条**

人を元気づけ、安心させ、生きる力を支える料理は、守護力の実践とみなす。


**守護力 第五条**

王国は、優れた料理人を広く募り、その技術と真心を正式に保護する。


**守護力 第六条**

料理大会において特に優れた味を示した者は、「守護弁当師」として任命されることがある。


**守護力 第七条**

守護弁当師は、王国が希望を届けたい相手――疲れた者、傷ついた者、祝いの日を迎える者、ひとりで食事をしている者、もう一度元気を出したい者――へ、特別なお弁当を作る資格を持つ。


この第七条が読み上げられた時、

なぜか何人かが少し泣いた。


それはたぶん、

「戦う資格」ではなく

「弁当を作る資格」が国の重要な役目になったからだった。


そんな国は、あまりにも妙で、

あまりにも優しかった。


その日のうちに、城前広場には大きな布看板が立てられた。


**第一回 エターナリア王国 守護料理大会 開催決定**


応募条件は、ただ一つ。


**食べた人の心が少しでも軽くなる料理を作れること。**


高級さは問わない。

珍しさも問わない。

見た目が完璧でなくてもいい。


大事なのは、

ひと口食べたときに、

「まだ生きてみようかな」と少し思えることだった。


応募はすぐに殺到した。


・泣いた子どもが黙って食べる玉子焼きの名人

・三日寝込んだ大人を起こすおかゆの達人

・失恋した人間に妙に効くスパイスカレーの研究者

・噛んだ瞬間に故郷の景色が浮かぶおにぎり職人

・寒い日にだけ本気を出す豚汁の天才

・見た目は地味なのに、食べると異常に勇気が出る煮物の怪物


広場は数日で、ものすごい匂いに包まれた。

湯気、醤油、焼き目、バター、出汁、炊飯の甘い蒸気。

風そのものが食欲を持ち始めているみたいだった。


審査方法も、少し変わっていた。


味だけではない。

食べた後、その人の表情がどう変わるか。

会話が増えるか。

背中が少し伸びるか。

眠れそうな顔になるか。

誰かに分けたくなるか。


つまり、料理の“美味しさ”だけではなく、

料理が生み出す“守護の波”までを見るのだった。


やがて、大会初日。

黄金の鐘が鳴り、

最初の料理が運ばれてくる。


それは、見た目はとても簡素な弁当だった。

白いごはん。

梅干し。

だし巻き卵。

焼き鮭。

ほうれん草のおひたし。

そして、小さな紙切れが添えられていた。


**ちゃんと食べたら、今日は少し勝ち。**


その一文を見ただけで、

会場の何人かは、もう負けていた。

優しさに。


議長がひと口食べ、

しばらく黙り込んだあと、

ぽつりとつぶやいた。


「これは……派手じゃない」

「だが、帰りたくなる味だ」


その言葉に、会場中が静かにうなずいた。


守護力とは、たぶんこういうものなのだ。

目立たない。

叫ばない。

だが、確実に人を生き延びさせる。


そして白板の下に、新しく最後の一文が書き加えられた。


**守護力 第八条**

真に優れた守護とは、相手に恩を着せることなく、自然に明日へ送り出すことである。


その条文の墨が乾くころ、

大会会場の奥で、さらに新しいざわめきが起きた。


どうやら、ある料理人が

「食べると昔の大切な記憶が一瞬だけ鮮やかに戻るスープ」を持ち込んできたらしい。


しかも別の一角では、

「空腹だけでなく、孤独にも効くお弁当とは何か」という即席討論まで始まっていた。


守護力の条文化はまだ終わらない。

料理大会も、まだ始まったばかりだ。


エターナリア王国はその日、

剣ではなく弁当箱を掲げて、

少しだけ未来に強くなった。


1. 「守護力」の条文をさらに増やし、「嘘をついて人を守ること」は許されるのかまで議論する

2. 料理大会をさらに本格化させ、「孤独に効くお弁当」部門を新設して審査を始める

3. 記憶を少しだけ鮮やかに戻すという不思議なスープの正体を調べ、その料理人に話を聞きにいく


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