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らいらいは、エターナリア王国の中央広場に立っていた。


頭上の空は、まだ普通の青だった。

けれどその青は、どこか落ち着かなかった。まるで空そのものが、

「今日は決めてもらう日なんだろ」

と、静かに待っているみたいだった。


広場の真ん中には、半透明の円卓が浮かんでいた。

椅子はない。誰もが立ったまま話すための会議だった。

座ってしまうと、言葉が重くなりすぎるからだと、昔だれかが決めたらしい。


円卓の表面には、今夜の議題が虹色の文字でゆらゆら表示されている。


**「エターナリア王国の空は、常に虹色のオーロラを作るべきか」**


その文字を見た瞬間、広場の端から拍手が起きた。

拍手というより、ぱちぱち、きらきら、という感じの音だった。

この国では、賛成も反対も、まず少しだけ綺麗に始まる。


最初に口を開いたのは、風の大臣を勝手に名乗っている青年だった。

髪がずっと少し浮いていて、本人もたぶん地面に完全には納得していない。


「常に虹色。いいじゃないか」

彼は両手を広げて言った。

「空を見上げるたびに、誰もが“ここは特別な国だ”と思い出せる。美しさは、法律より先に心へ届く」


すると、すぐ隣で、雲の管理係の少女が眉を寄せた。

彼女は雲の形を毎日手で整えているので、言葉も少し几帳面だった。


「でも、“常に”は強い言葉よ」

彼女は言った。

「毎日祝祭だと、祝祭がわからなくなる。虹は、あらわれるから嬉しいの。ずっとあると、背景になる」


広場が少し静かになる。


たしかに、と思った者が何人もいた。

エターナリア王国は自由の国だ。

美しいものは好きだが、美しさの押しつけは少し違う。

たとえそれがオーロラでも。


らいらいは黙って空を見上げた。

もしこの空が、朝も昼も夜も、いつでも虹色に揺れていたら。

たしかに美しいだろう。

きっと最初の数日は、みんな息をのむ。

写真を撮る者も、歌を作る者も、泣く者も出るだろう。


でも十日後はどうだろう。

百日後は。

千日後は。


そのとき、円卓の表面に小さな波紋が走った。

王国の議題に思考が集まりすぎると、卓上の光が勝手に反応するのだ。


そこへ、笑いを担当しているらしい老人が前に出た。

誰も正式に任命した覚えはないが、彼が笑いを担当していることだけは全員が知っている。


「わしはのう」

老人は咳払いしてから言った。

「常に虹色のオーロラが出ておったら、若者が告白の演出で困ると思うんじゃ」


広場に、ふっと笑いが漏れた。


「今さら“見て、今日は特別に空が綺麗だ”と言っても、相手に“いや、毎日ですけど”と返されたら終わりじゃろ」


今度はもう少し大きな笑いが起きた。

風までくすくすしていた。


けれどその冗談は、変に核心をついていた。

特別は、ありふれてしまうと、武器を失う。


すると、今度は星を読む役目の女が、静かに前へ出た。

彼女の瞳には、夜空を閉じ込めたみたいな深い色があった。


「私は、毎日でもいいと思っていた」

彼女は言った。

「でも今、少し考えが変わった。空は、みんなの感情に応じて姿を変えるべきかもしれない」


「感情に応じて?」


と何人かが同時に聞く。


「うれしい日には、虹色のオーロラが濃くなる。悲しい日には、薄く静かに揺れる。国じゅうの心がひとつの方向を向いた夜だけ、空いっぱいに広がる。そうすれば、空は景色じゃなくて、王国そのものの表情になる」


ざわり、と空気が揺れた。


その案は、美しかった。

ただ綺麗な装飾ではない。

生きた空だ。


らいらいは、その言葉を聞いた瞬間、胸の奥で何かが跳ねるのを感じた。

エターナリア王国の空は、飾りではなく、返事であるべきなのかもしれない。


すると、今まで黙っていた小さな子どもが、おそるおそる手を挙げた。

まだ髪に寝ぐせが残っていて、会議に来る途中で急いで走ってきた感じがした。


「ぼく、いいこと思いついた」


広場が静かになる。


「毎日ちょっとだけ出して、ほんとに大事な日はすごくいっぱい出せばいい」


一瞬、沈黙。

それから、あちこちで「それだ」「それ、いい」「ずるいくらい素直な答えだ」と声が上がった。


子どもは続けた。


「だって、ぜんぶゼロはさみしいし、ぜんぶ百もつかれる」


その言葉に、円卓の光が強く反応した。

まるで議題そのものが、今の言葉を気に入ったみたいに。


らいらいは思わず笑った。

理屈の長い大人たちがぐるぐる回っていた場所を、

たった一言で通り抜けていく答えがある。


ぜんぶゼロはさみしい。

ぜんぶ百もつかれる。


エターナリア王国の空は、そのあいだを跳ねるべきなのだ。


そのときだった。


王国の空に、細い虹の線が一本だけ走った。

昼の青を横切るように、するすると。

誰も命じていない。

まだ決定もしていない。

なのに空は、先に結論の気配だけを見せた。


一本だった線は、やがてもう一本増え、

さらに淡い光が何層にも重なって、

まるで空が会議を聞きながら照れているように、控えめなオーロラになった。


広場の誰かが小さくつぶやく。


「これくらい、いいな」


すると別の誰かが言った。


「毎日これなら、落ち着く」


さらに誰かが笑って言う。


「で、祭りの日は、ここから天井ぶち抜きってことか」


その瞬間、空の虹が一度だけぱあっと濃くなった。

まるで、**祭りの日は本気でいくぞ**とでも言うように。


らいらいは円卓に手を置いた。

卓上の文字が変わる。


**仮決議案:**

**エターナリア王国の空は、常に“わずかな虹色の気配”を持つ。**

**ただし、祝祭・愛・再会・大笑い・大切な決断の夜には、王国全体を包む虹色のオーロラとなる。**


それを読んだ人々の顔が、少しずつほどけていった。

反対と賛成がぶつかる会議ではなく、

よりよい美しさの置き場所を探す会議になっていた。


空は、ただ上にあるものじゃない。

みんなの気持ちの、いちばん大きな壁画だ。


そしてその壁画は、

描きっぱなしではなく、

生きていたほうがいい。


らいらいがもう一度見上げると、

青い空の奥で、虹色の薄い幕が静かに揺れていた。


主張しすぎない。

でも、たしかにいる。


エターナリア王国らしい空だ、とらいらいは思った。


そのとき、円卓の下から、小さな紙が一枚ふわっと飛び出してきた。

そこには、次の議題候補が書かれていた。


**「では次に決めるべきは――」**


1. エターナリア王国の雨は、少しだけ甘い匂いを持つべきか議論する

2. 王国の夜にだけ現れる“秘密の第二の月”を作るべきか議論する

3. 虹色のオーロラが強くなる条件に「みんなで同時に笑う」を入れるべきか実験する


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