18.2. 会場、富士河口湖、東京、小田原
午後4時、病院に二度目戻った。一度目は笠人君の具合を見たり、金本先生の協力で院長にゲームを裏庭で開催するのを許可して頂いたりしたことだ。新しいゲームを初耳にした医者達は、別の田舎からの子供達が何をしようとするかを期待したり、静かな雰囲気を破って病人をもっと傷付けるか心配したりしていた。この裏庭は汚れたものを処理する場所じゃないし、校庭に似ている。広い陰を敷く木が病院近くに立ち並んでいるし、地面が火山灰に混ざってふかふかしているし、野球の小試合をしても良い。でも許可するかないか大したもんだ、病院は静かさを重んじる場所だから。この二度目は院長の言葉を聞くことだよ。もし許可して頂けない場合、あそこのでかい砂州に皆で集合する話だわ。
昼食にうどんを食べた後は、色んなことが町の外から出てきた。厚喜さんと通話する間、東京の様子を彼が中々教えてくれた。岸山と吉田記者達の記事や、厚喜さんの撮った笠人君の誕生日祝いの写真により、東京大学だけでなく、慶應と早稲田もが私達への試練をおしまいにしげに、『若原屋』の敷地の所有権の譲渡をいつまでも猶予しないことにしたそうだ。私達の夢と希望を抱えるあの草原は早かれに日向町長に保証人となったり、八田蜜や白濱の校長先生に登録したりして貰う。
報道陣に応答する通り、どなたが生きたままの倉崎さんを見付ければ75圓を謝礼して頂戴する、と東京大学が約束した。前代未聞の失踪事件に値して史上最大の賞金だった。厚喜さんと武蔵野さんが私達の代理で賞金を受けるということじゃ。青木ヶ原の著名な不気味さを一週間乗り越えたこの十一人団に対し、それは応援のお土産になるんじゃないかと思っている。然し、十一人に分け合い得ないものだし、厚喜さんはもっと四人に分けようと考えた。あの四人は北川司令、小田切副司令、柏警察署長と、那月さん。そう、最後の5圓分はあたかも故人へのお供物のようだ。那月さんはこの失踪事件に火種を付けたのだが、親友の倉崎さんの為にそうしなければ私達が出てこず、企画の果てに辿らずに済んだ。厚喜さん達は今週の木曜日に三鷹村の經庵霊園に建てた那月さんの墓に参ってその5圓分を彼女に贈る予定だ。ただ、お金を供えたら那月さんが成仏する訳ではない、と彼に言った。平川と向き合った時、倉崎さんが本当の自由を見付けるまで絶対に黄泉に帰らぬ、と彼女は宣った為、城木先生の60枚目のパズルピースが見つかるまで協力者となる訳さ。
深本さんは、クロロホルムを非常に吸っちまって一週間後に執事を担いにやる気が満々帰っていった。青木ヶ原から上手く逃げたのを知ってから、彼女は私達に会ったり、城木先生の家にまた入ったりしたくて堪らなくなっていた。深本さんはしかもこう伝えた。「麻酔に倒れなかったら、皆で森に入って松兼君と那月ちゃんと料理を小勝負にさせて貰ったから。でも結局、今回の厄介を受け止めてしまったのは料理を作る人達だったね。私、松兼君、渡邊ちゃん、そして憲兵内の板前。次は何を企てるかを教えて欲しいの。沙也香ちゃんの為だけではない。城木先生達が抱えた秘密を意味深くする為も。東京駅から甲府へ鉄道を敷けばね。甲府から富士河口湖へ馬車を引いて皆に再会したら良かったのじゃ」
北川司令は、東京に帰ったのちに赤外線眼鏡を秘密にして良くないかどうかに解き方を見付けたそうだ。9月10日の夜に小田原を襲った武士の亡霊達を産んだ技術は絶対機密になるものの一方、私達の眼鏡は追跡の機能を取り除けば、救命と防護の為の道具として社会に公開されるのが出来る、と彼が教えた。彼は自分の団体とそういう眼鏡を作り消防部に送り、私達が初めて作ったと言ったら、警視庁に賞金を貰い、七割を分けてくれる。但し、消防部に送る前に、私達の暗視眼鏡の構造と作り方における報告書を週末までに受けなければならないのだ。及び、もっと確実的には、追跡の機能を除去済みの初版を封筒に入れると勧めていた。最早笑えるぐらい心配し過ぎたかもね、私達は。心配し過ぎてあんな簡単な方法を探らず躊躇っていた。『樹海の近道』は所詮企画なんで例外なく金額を得なくてはならない。せめて城木先生の家で費やした努力を報うから。ラッシュナトゥール人の先端的な知識と道具は無料で使う訳じゃない。
「2、4、6、8、10。卵とする十個の球。野球ぐらい大きいし、全部を運ぶなら赤ちゃんを抱くみたいだ」
「この甲州の地なら、猪或いは鹿の皮で作ったね。もっと硬くすれば相手を襲うのも出来るんだ」と言った澁薙君。
「そりゃ反則なの。野球風じゃないし。そして会場の特徴によって栓を作らないのだ」と私が応えた。
「いつまで建て上げるか、会場は?」
「早くとも明後日だね。相撲風の土俵を建てようとしたけど、偶然新しい特徴を思い付いたんで、まず土を木材に取り替えた。土を使ったらセメントを加えて時間掛かる。この辺の道はコンクリートとアスファルトを敷かれないし、木を使って亜麻仁油を塗ったら適切だよ」
「このゲームでは誰もが服を脱いだり廻しを締めたりする訳ねえんだ。代わりに百姓の服を着て貰う。怪我とか邪魔とかを負わないように、襷、膝と肘に当てる防具や、草鞋に代わる紐靴だ。亜麻仁油を塗るけど、プレーヤーを滑らないように摩擦を保たないと」と純彦君が言ってゲーム用の服と防具を見せた。
「所詮、東京からの圧によって大沼院長が許可して下さったね。日常でなら砂州に追放されちゃった」と声を上げた降恆ちゃん。
「うん。釘を打つ金槌、木を階段型に削る鑢の音は院内の皆を苛立ちさせちまう十分だ。でも院内と院外の子供達を好奇させては良いのだ」
子供を思ったら、この昼で起こった面白いことを智埼ちゃんが思い出した。「山地の子供はやっぱえらい強いやん。横澤さんの部下のお子さん達と相撲をやった純彦君が、彼らに負けてもうた。背が倍高い相手さえ俵から投げたなんて、カサト君でも躊躇せなあかん」
「彼奴らの腰が非常に硬いぞ。廻しを掴んで引き上げる時、たった一本の蔓に結ぶ数十個の薩摩芋を引き抜く感じが。もう柔道っぽいじゃ」
「柔道と相撲には投げ技があまり違いではないでしょう。体の柔らかさと速さを依頼するもんだ」、笠人君が声を掛けた。彼が降恆ちゃんに負んぶされ、私達と一緒に榎の下に座っていた。
「でもさ、松兼師匠、俺もちゃんと仕切りを構えたのに、どうして彼奴らに手鞠みたいに投げられたのか?」
「お前も分かったはずなのにな。この地は富士山に生成されてやや不安定だろ。しかも高原に住んで酸素が平原よりかなり薄いから彼奴らの体は適応になる為により強く。日常に不安定な地を歩くし、薄い酸素を泳ぐみたいに吸うし、下半身と冷静さを鍛えるからだそうだ」
「何やん。子供に上手投げをやられて自慢傷付いた?自分が答えられるそないな質問を答えへんほどなんて」と揶揄った智埼ちゃん。
「はー、いつもそうやったろ、此奴は。そんなことに会ったら『俺が何故やられた?』とか『こんなことが本当にあったの?』とかしか頭に残らない訳か。まっちゃんと初めて勝負をした後に裏で自分の負けに罵ってた」と溜め息をして言った澁薙君。
「ところで、マサちゃんとチサトちゃんも子供達と相撲をやったの?」と問った降恆ちゃん。
「うん、初めてやったよ。服を着たまま廻しを締めて可笑しかったわ。私達も漕ぎ手さん達の子供に勝たずに済んだけど、精々彼らの立ちと握り方が分かった。スミヒコ君に違って完全に屈まず、退く足から力を手に集めて側に寄せるだけで相手を倒すものだ。まずは相手の廻しを握って、そして下半身を不安定にして、最後に思いっきり相手を俵の輪から引く。スミヒコ君はくすぐりに全然耐えられないし、下半身が捕まったらしょうがない」と私が純彦君にもっと塩揉みしたように答えた。
『花火團』の皆が知っている純彦君の『アキレス腱』にとって降恆ちゃんが少し笑って話した。「なるほどね。まさかマサちゃんは子供達にそれを教えたのか?君ならそうやるのじゃ」
「ううん。彼らに自分から見付けて貰った。スミヒコ君の笑いを抑える表情を見たうちに分かってくれたよ。その弱点を利用して土俵に横になってスミヒコ君の廻しを握って後ろに投げた一人の子がいた。お酒を背中に中々塗ってたの」
「お酒を筋肉に塗ったなら、土俵から飛ばされたかもね。『ドン』って倒れて転がったようだ」と快く反応し続けた降恆ちゃん。
「あの土俵は階段がなく、ただ俵が囲んだ真砂土だ。試合の土俵なら、俺が笠人君と倉崎姉さんと入院してお前に按摩されてしまったよ。高橋君と同じ拷問されたくねえ」
倉崎さんが微笑んで声を上げた。「ひひっ、酒屋の子なら簡単に入院する訳にはいかないでしょう。酒豪だから肝臓も病院に入らないわ」
「偉そうに飲んでるんですけど、その後に水や、澁薙君の処方で作った電解質補給水をちゃんと飲んだりしてます。父ちゃんみたいに飲んだら、三十歳まで生き延びられないんです」と控え目に返事した純彦君。
「安心せよ。お前はおじさんの長男だから、さやっ、酒屋らしさを一番受け継ぐんだ」、澁薙君が「酒屋」と言おうとしたが噛んで倉崎さんの名を不意に呼ぶところだった。「お前の体調はお前の酒豪を担げない。だから僕の処方を受けたのさ」
澁薙君の事故に倉崎さん本人が一番笑った。「もう少しだけで飲兵衛に変わったよ、あたしは・・・とにかく、この遊びを発想して規則を作ったのは純彦さんじゃないか。木材で会場を建てたら、卵の入れ方と新しい穴の開け方はもう思い付いたわね」
「はい。それじゃあ、夕べ12人目の資格を取った姉さんに質問させて貰います。木材で建てた会場では穴はどういう風に開けられたのですか?答えたら、鋸とか金槌とかを用いずに新しい穴を開けられます」と私が倉崎さんに問題を与えた。
四時間ほどの工事中の会場に倉崎さんと私が近付き、町の一番上手な大工達に階段を上らせて貰った。この会場が四メートル高い。この五メートル長い階段の下に壁になりに板がまだ組み立てられていない。ゲームを施すこの上は、病院の電源と繋がる電線を仕込んで電球を付けた六メートル高い鉄の柱であり、この長方形の床を明るくしていた。着いた時、倉崎さんに糸口を送るように私がこう伝えた。「ここ、明るい部分は両組が立ち向かう所です。階段に一番近い所に止まって」
止まったばかりな倉崎さんがこの床の特徴に気付いた。「変だね。ここから外では白い正方形と黒い正方形は互い違いに並んでる。もしかしてどっちが穴かないかを区別?」
「はい。正しくは、白い奴は黒い奴を開けます。それで独特な仕組みがあります。姉さん、自分に最も近いのを押してご覧」
倉崎さんがしゃがんで自分の右隣の奴を押してみた。『バキッ』って音が鳴って何かがこの床の下の機械に入った気がした。いよいよ黒い奴の蓋が跳ね上がり、手で白い奴に移動し、再び『バキッ』と聞こえたら、十個の球を最大に収容出来る空白が現れた。「あっ、開いた。ここから卵を入れる」
「鱒は川上に遡ってから川上の底に卵を入れ、岩などで穴を塞ぎます。岩とか薔薇とかの代理で、私が単純な開閉の仕組みを使ってます」と私が仕組みを施す鉄の繋ぎ目に指しながら言った。
倉崎さんが繋ぎ目をじっと見てよく考え、答えを言い出した。「どうりで栓を作ってない訳だね。先ほど押してから『ポン』という音が聞こえたし、ばねが仕込まれた気がする。あの時のルーレットみたい。玉を投げ何処に落としたら、あそこから問題を描いた扇子が跳ね上がった」
「そういうことです。けど、今回のばねがあの時のばねより遥かに弱い。何故なら、数学のルーレットに使われたばねがより短くて柔らかかったし、扇子と置き台の圧に掛かったし、変形量が大きくなって弾力も凄くなった訳です」
「フックの法則だね・・・白いのと黒いのは結構離れてる。その間には黄色く塗られた部分がある。ばねを仕込んだ所でしょう」と倉崎さんが答え続け、私が頷いた。そして彼女が目を瞑りつつ、答えを完成させた。「この白い板が押せるように下にもう一つのばねがあって、そっちのばねと梃子などで繋がってる。板を固定する鉄の繋ぎ目は、ばねの弾力を耐えるぐらいしっかりして、その板を移動出来るように、何か梁みたいなものにすらりと動くのだという」
「実はそれは梁じゃなく弁です。何処へ止まるべきか、何処へ戻るべきか、其奴が支配します」と私が言って持って来る十個の球を入れた。
倉崎さんが目を開け直した。「こうして閉めるだけで守れるね」と言って、私が球を全部入れたら、彼女が黒い板を元に戻し、押してきた。再び『バキッ』。型にぴったり入った瞬間、白い板も自ら元の状態に跳ね上がった。
「これから一周完了。相手に白い板を押されちまえば、穴が奪われ始めたと見做して、プレーヤーが0.5で減点されます。球を全部盗られた場合はもう0.5。実用主義者からしてはまず自分の点数を−0.5にされ、球を守るのを優先します」
「穴を守るより卵を守るべし、ということわね。卵の奴がゲームの部分となってあの算額問題と違った。ということは、数個の穴を開けて自分の卵を配ることもあるでしょう?」、倉崎さんがとても良い質問を挙げた。
「確かに。詳しく答える前に、まずこの会場を纏めましょう。この会場は完成したら7間×10間の長方形です。ただこの1間広い淵は審判の為に用いられるんで、5間×8間に縮まれます。両組が争い合うこの明るい長方形は3間×4間。プレーヤーが板をいきなり押さずに安全に歩く為、凡そ45㎝広い隙間を残してばねを仕込んだのです」
「だから穴があたしの掌の倍ぐらい大きい。こういう風に建てていったら市松模様になってる。市松に出来れば、ばねの連鎖を作るしね」
「はい。この遊び場には128個の正方形が並びます。それで球を入れる穴は64個。姉さんがさっき質問したあの場合を考えると、穴にたった一個の球を入れる場合、50個の穴で足りるのが最大です。残りの14個は空にならないように他の14個から球を入れます」
「えっ、こうしてあの14個の穴も空になって同じじゃないか?」
「いいえ、同じじゃありませんよ。もし攻撃組はある14個の穴を狙うと、防御組は14個の球を空の14個の穴に移すことです。その時、全64個の穴は球が入った『記憶』がある、という風になります」
その場合から発生する問題に倉崎さんが気付いた。「損に掛かってしまうのは防御組こそだ。圧倒的に」
「はい。ゲームの状況は一方的になっちまうんで、一穴に一球は禁止です。しかもこれは攻撃・防御の交換です。防御組は一穴に少なくとも三個の玉を入れないと反則になります。その時、最高でも16穴で四分の一だけを支配するのです」
純彦君も皆でここの下に来て声を上げた。「一穴に一球は禁ずるのは残りの14穴のせいだけじゃないよ。会場の半分以上に広い範囲で球を配ったと、防御組は自分が管理出来ない穴を見殺しに奪われるしかなかったり、攻撃組は防御組に変換した後にゲームの罠に嵌ったように見えたり、段々闘争の範囲は会場全体から集合の部分に縮んでやがて消えてしまう。競技性も無くなってしまうんだ。『俺と彼奴は同じ卵を持ったから争う意味はない』という感じ」
「球を多く入れれば入れるほど闘争の範囲は広くなるね。但し、ゲームが始まった時、見る人は奪われた穴や、ボールが入った穴を全て見るのが出来ない。呼び方を設定するのも大事でしょう」
「はい、姉さん。市松模様に並ぶから、チェスボード風に呼びましょう。行の番号と列の文字を組んで呼ぶことです」
「でもそういう風に呼ぶなら、穴が真っ直ぐに並ぶのじゃない?でも互い違いにボタンの間に挟まったなんて」
「ん・・・・そうですね、完成したらぎざぎざに見える。私達はこう規約を策定します。列にすると、ボタンを構わずに八個の穴にイ・ロ・ハ・ニ・ホ・ヘ・ト・チを付け、行にすると、会場の入り口から、1から11まで示します。右にずれた奴は楽譜の嬰記号、いわゆるシャープを付加することに。例えば、姉さんがたった今試したこの穴は『ハの1』と呼ばれてます」
倉崎さんがそう聞いてここから一番近い左上の穴を指した。「ということは、あっちの穴は、『ロの2シャープ』と呼ばれる訳?」
「その通りです。ただ、64穴が設定されたことで残りの22同士はこの会場の座標単位に記録されてません。ハからヘまでの列は九行目から満杯に呼べる。特に八行以内で、ハの列はシャープなしだけ、ヘの列はシャープ付きだけです。ゲームがますます経過する為に、審判と司会は注目しなければいけません」
「これまで説明したらもう十分だよ、マサちゃん。この会場が完工したら最低でも三日間でしょう」、降恆ちゃんが私と倉崎さんを降りさせに注意した。「今はもう8時半だ。あと30分は病院の門限だから降りといて」
「分かった」と私が言ったや否や、倉崎さんが早速降りていった。笠人君と共に降恆ちゃんにきっちり治療して貰っていたし、逆らってはいけないかもしれないね。まもなく大工達が作業を停止する。
8時45分に停止した時、会場は三割でしか建て上がらなかった。ゲームが始まるその床の下には二層に分けた舞台裏というものだ。一層目は大人の厚みより1.5倍高くてそれぞれの四角にばねと梃子の機械を仕込む空間だ。二層目は障害物を避けるゲームの道具、審判・司会・プレーヤーの服装や、穴の状態を目立つ青・赤・緑の旗を収納する部屋で夏祭りの舞台に似ている。現在、会場を建てる原料と道具をしまう倉庫として一時使われているのだ。その道具で梯子は鉄の機材以外に一番見逃しては駄目だった。一層目へと梯子を架け登ってから、大工が中身に這い、横になったまま機械を仕込んだり修理したりしていた。私達が会場の上に着いた時、一層目に誰もがいなかったその為だ。そのばねの機械を仕込めるようになったのは、私の四時間掛かってうどんを吸いながら木を削ったり、アルミニウムを捏ね曲げたり、潤滑させたりして見せたのだって、大工達にあの真面目に狭い空間に入るのを説得出来たわ。
次々の曜日は、会場は残りの七割を完全させたり、私達は消防部の賞金を得る為に眼鏡を修補したり、しているという毎日だった。追跡機能は数理モデルを施すプログラムなので手で抜くそんなものじゃないし、パズルピースに声を話さないと週末の締切を追い付くのが無理だ。城木先生はいつも通り東京大学に通って講義を授けている。騒ぎがちっとも緩まっていない東京大学は最早先生の私達の担任教師の兄という経緯に注目を向けていて北川さん達が必ず無視するのがあり得ないわ。先生は私達の眼鏡を七割で作って下さったから、憲兵達に多少に頼って貰うことになるでしょう。多分、彼は私達の代理で憲兵から賞金を受けるかな。松澤先生は森坂先生と軽部先生などと一緒に両校の校長先生に相談し、『若原屋』敷地を巡る新しい契約を交わしに上京して貰った。北川さんの賢い求め、深本さんの再会の欲望、敷地所有権譲渡の契約、そしてこのゲーム会場の設定はあっという間に三つの場所を繋ぐ三角形を形成した。一つの都と二つの田舎との両方のベクトルが付いたみたい。都鄙の三角形と呼んだらお洒落じゃない?
今週金曜日は13日で面白い日が来た感じがした。西洋人が昔から言い伝えをしているあまり良くない噂が効いたように、会場は完全に形になったと思ったのに、一人の大工おじさんが白い板と黒い板の仕組みを調べに登り、四つのペアもが系の機械にしっくりしていないと発見した。つまり、開閉の仕組みが逆になっている。という訳で板を開け、ばねと梃子を抜き、やり直すしかなかった。ったく、よりによって13日の金曜日に四番が当たっちまったとは。私、智埼ちゃんと澁薙君が一層目に這って修理させて貰った。やはり化石の洞窟のようなとんでもなく窮屈な空間に慣れさせてくれたのは頭に巻いた懐中電灯だ。系の機械に入っていると確信したのち、私達が会場の床を数回も跳ねた。床が柔らかく跳ね返ってしっかりしたと喜んだ。
会場が出来てから、障害物を避けるゲームを設定していた。48本の薪は四つの列に分け合って24枚の網で結ぶ。プレーヤーが蛇らしく這えるように、薪が自分の高さの半分で土に差し込まれ、差し込まれた時に倒れないほど厚くなる。大工おじさん達が皆若い頃に兵役を務めたし、寝たまま命令を受けたり銃を構えたりしたあの頃の訓練を連想し、網に砂と埃を泥で貼り付けて障害物らしくした。網の色がお粥からめっちゃ汚き糠に。匍匐前進だけでは楽しさが足りないから、もう二つの試練を仕組む。障害物を避けるのは連続ゲームにするしかない。それは『椅子と卓のハードル』と、『水溜り飛び跳ね』だった。町の学校が貸してくれた予備とか廃棄とかの椅子、机と卓を散らかして置きハードル競技のように挑戦して貰う。地が10㎝深い穴が散り散りするまで掘られ、合羽のような油に付いた布を敷かれ、水を汲まれ、プレーヤーに飛び越えて貰う。病院の出口からは『水溜り』、『ハードル』そして『匍匐』という順序だ。その為、『匍匐』の奴は最後に作られた。『水溜り』と『ハードル』は10月11日と12日に先に作り上げたよ。
土曜日10月14日の朝、お父様の手紙が届いてきた。仕事に帰る二日後に、お父様とお母様は三名の学長を日向町長と松澤先生達に紹介して貰い、『あおゆみ』で待ち合わせをしていた。夏祭りの終わりぶりに学長先生は小田原に訪問し、『若原屋』をもう一度見学することにした。東京大学の大村貴久先生、慶應義塾の常陸守啓先生や、早稲田の和久井健雄先生だ。『若原屋』という額束が光ったままの鳥居、鱗模様に敷いた出入口、洋風の電灯、空になったままの屋台と屋台、誰もが一ヶ月半入ったり出たりしないトイレを観察した後で、先生達は一つの午後だけ掛かって譲渡契約を編纂した。敷地は埃を微かにも残さず、鼠に噛まれたり害虫に巣を作られたりせず、まるで夏祭りの為に準備されたように見えた。日向町長に保証して貰ったことで、八田蜜と白濱は皆敷地に通って掃除をやるのが出来た。吉岡君達と高橋ちゃん達は両校の代表として平日の黄昏と休日の朝に敷地を洗っている。鳥居や電灯という高い物は、木に水をやるのと同じホースを使って隅々まで埃をぶっ飛ばした。その結果、先生達が契約を出来上がり、八田蜜・白濱・日向町長という三つ巴の署名を今朝集めようとする。勿論、小田原から20里ほど離れた私達にも契約の五条を把握して欲しい。
壱。『若原屋』と申すご地盤は、東京より小田原へと所有権をお譲りさせて頂きます。小田原町の町長日向邦典は行政管理の為、八田蜜中学校の校長金塚傑及び白濱中学校の校長柳川慶子は企画や社会的活動など、教育向け財産の管理の為、お名前をご登録なさいます。
弍。次なる四年、『若原屋』は半公共教育施設として精査させて頂きます。詳しくは、本契約にお関わりになった学校は『若原屋』にて実施される教育課程及び教育企画に完全権力をご持参なさいますが、法律的、社会的、民事的権利をお守りになるべく本地の政府にご依頼なさいますと申し上げられております。
参。『若原屋』の事実上の所有者である、渡邊雅實さん、絲島純彦さん、日澤智埼さん、松兼笠人さん、越川澁薙さんと山口降恆さんは所有権の正当性を日向様の政府、ご地盤の保安を小田原町の法執行機関に四年保証して頂きます。この四年は本契約が効力ありから始まります。
肆。教育課程や企画を施す中、所有者は新施設建設、器具収集、新人採用、財政管理、進捗管理に対し、完全責任をお負いになるのでございます。事件が発生した場合にでも、所有者自身よりご依頼をお承り致すまで、大学はご介入致しません。『若き原の花火』と申す御団体に対し、我が校の生徒になって頂くかどうかという将来は、この条を変更する関係がありません。
伍。徴兵資格の年齢になった際、所有者と従業員は『若原屋』にての教育活動をご継続なさる為に、徴兵令の現役期間に応じる期間で、教育活動よりの売上を一部分控除し、軍事費としてお納めになることをご保証お願い申し上げます。毎四半期末、東京都と横濱市よりの憲兵や日本軍代表に現場をご訪問、仕事模様をご視察頂きます。
軍事のことを逃しては駄目だね、どうしても。だが、あちこちに越して色んな活動をやるという自由な人生が好きな私達にとっては最適な策だった。この土曜日はお父様が私達へ契約の五条を記した手紙を送ってくれたと同時に、小田原の町役場で契約も日向町長の内閣に知らされ、八田蜜や白濱の『群衆』に伝わってきていた。この週末が終わるまで、内閣と小田原の中学生達が賛成してから、日向町長、金塚校長と柳川校長が署名をあの大事な用紙に封じることに。勿論、この高原からの私達が確認するのをもお待ち。都鄙の三角形はもう五つのベクトルにくるくる回っている。もう一本のベクトルでは零ベクトルに出来るのだ。




