10. 高等学院入学
「入学前の準備としては、これで十分かしら?」
邸宅の本以外にも、公爵家が手に入れることができる、医学に関する国内にある本全てを読み切った。
公爵令嬢は、家庭教師の授業や淑女教育も受けなくてはならないため、毎日忙しい。ゆっくりする時間はお茶の時間と入浴時間くらいだ。王族並みの教育を受けているため、その内容は政治経済、語学、世界の歴史や情勢など多岐に渡る。高スペックなため、復習をしなくても授業内容を覚えることは出来たが、医学に没頭する時間はなかった。
そのため、手に入る事が出来るすべての医学の本を読み切った時には、すでに12歳となっていた。高等学院の入試もすんなりと合格した後で、入学式がまもなく迫っていた。
「高等学院で医師科に進む手続きは済ませたけど…
前世の知識を活かして医療を発展させるには、
どうしたらいいのかしら…
学院に入れば、先生から新たな知識を得ることが
出来るだろうし、それから何が出来るか考えても
いいわよね?
まだ12歳なのだし」
と、医学を発展させたい気持ちを持ちながら、高等学院で学ぶ日々を楽しみに、入学式の日を待った。
高等学院の入学には、高額な寄付金が必要なため、学院生の数は多くない。それぞれの分野の科の人数に差はあるが、新入生の数は数人から十数人程度となる。12歳からの入学資格だが、専門知識を得るため、基礎が確立されていないと試験に受かることは出来ず、そのため15〜18歳くらいの人新入生が多く、大人も数人いた。
高位貴族が通うため、学院には警備の騎士が多く配置されている。学院に来るまでの馬車停めには、各家のメイドや護衛が待機していたが、学院の門から中に入るのは学院生のみとなる。
12歳であるクレアはとても目立っていた。
この世界、男女の役割は割と明確化されている。
多くの貴族の令嬢は、結婚して貴族家の夫人となりその家の家裁をする事が仕事となるため、あえて職を得る必要がないのだ。平民も家事や子育ては妻が受け持ち、夫が働いて収入を得ている場合が多い。一見男女平等を謳う前の昔の日本のようだが、レディファーストが根底にあるため男尊女卑はなく、むしろ、妻や女性の意思が尊重される。
働きたいと思う女性も少なくはなく、産科医のように、社会で能力を発揮し地位を確立している女性は各分野に存在する。平民や低位貴族の女性が社会で活躍する場合は、家事育児に関して、家族の協力を得たり、家政婦を雇ったりしているようだ。
よって、学院生は8割が男性だった。マナを活かして魔術師や医師、魔法使いになりたい、魔道具を作りたい。国政を自らの手で担いたい。といったバイタリティ溢れるものが新入生として入学するが、多くの令嬢は夫人となるように育てられるため基本おっとりしており、職に就こうとすら思わない。
この国の成人は18歳で、通常は15歳でデビュタントし社交界で婚約者をみつけていく。普通の令嬢は15歳までは花嫁修行に励み、15歳以降は社交に励んでいる。
令息達も、15歳までは邸宅で学び、3年間学院で学んだ後成人の18歳で職に就くため、新入生は大抵15歳以上だ。
令嬢で12歳であるクレアは、異質な存在だった。
しかし、幼いながらも、公爵令嬢としてその身が常に磨き上げられ、淑女教育も完璧な才色兼備のクレアは凛とした空気を纏って堂々と立っていた。
周囲の学生達は全員貴族であるため、不躾に視線を注ぐような事はしなかったが、クレアに対する興味を隠すことが出来ず、ちらちらと探るような視線を向けていた。