男なんて、いくつになっても子供
「ウチの特攻隊長、ここまでしてくれて、ただで済むと思ってたのかよ!」
それはあたし、桜咲イノリだ。
「オウよ、龍次を叩き潰すなんて、俺達が許す訳ねーだろうよ」
うしろには、木刀を握り締めた虎太郎が立ち構えている。
朝田に石を投げつけたのは虎太郎だ。
「……イノリ……虎太郎」
静かに視線をくれる龍次。
お気に入りのリーゼントも、雨でずぶ濡れ。降り続く雨と、滴る血で、見える範囲全てが、グシャグシャだ。
「なんだよイノリ、そんなダッセージャージなんか着込んで」
それでも嫌味を言う余裕はあるらしい。
「ダサくて結構だよ。あんたに気に入られようと、服なんか選ばねーからな」
あたしは笑いかけた。
それを受けて、龍次は掻き消えそうな意識を必死に踏みとどめて、屈託ない笑顔を見せる。
「悪かったな……お前の仇を取ること、出来そうにねーや……」
今まで研ぎ澄ませてた神経が断ち切れたか、それともあたし達の姿を認めて安心したのか、ガックリと崩れ落ちた。
「龍次を放せ!」
怒りと共に駆け出す虎太郎。
拘束する男達を押し退け、龍次の身体を受け止める。
「龍次」
それに倣い、あたしも駆け寄る。
その場に片膝をついて、龍次に視線を落とした。
既にその意識はないようだ。ガキみたいな、穏やかな表情で寝入っていた。
普段の龍次は、男らしさを鼻にかけて、女であるあたしを馬鹿にする。
爆弾みたいな性格で、一度火がつけば即座に爆発する。
なのにこの穏やかな笑顔はなんだよ?
まるで夢見る幼子。男なんて生き物は、いくつになっても子供だ。
少しばかり、いじらしさを感じていた。
「まったく、とんだ狂犬小僧だな。さっさとつれて帰れよ」
だけどその朝田の、まるで犬ころをあしらうような台詞でムカつきを覚えた。
「つれて帰れだ? ウチのブッ込み、ここまでしてくれて言う台詞なのかよ?」
あたしはゆっくりと立ち上がる。
「おいおい、俺達は被害者だぜ? その狂犬に、数人の仲間を潰されてるんだ。ホントーなら、あんたのその可愛い顔、メチャクチャに潰してやてもいいくらいなんだぜ」
おどけるように、腰の位置で両手を左右に広げる朝田。
その後方では、小暮達ファントムの面々が、ヘラヘラと笑っている。
数で圧倒するような、嘲る笑みだ。
つまりあたしと虎太郎、たった二人じゃなにも出来ないと、高をくくっているのだろう。
フーッと浅い息を吐き出す虎太郎。
髪をオールバックに後方に撫でつけ、木刀片手に無言で走り出した。
「えっ?」
「まさかケンカを仕掛ける気か?」
「冗談だろ?」
そして戸惑うファントムの面々を余所に、攻撃を開始した。
虎太郎が髪をオールバックに撫で付けるのは、戦闘開始の狼煙だ。本気モードの表れなんだ。
「桜咲! てめーマジで、俺らにケンカ吹っかけるつもりか?」
朝田が吠える。
あたしは天に向かって大きく深呼吸を繰り出す。
「上等だよ! 祈れ!」
そして朝田を睨みつけ、飛び出した。




