呪い
「これは・・・・・・呪いじゃな。不可思議なものに襲われたのはこれが原因じゃ」
テーブルの真ん中にはまんまるな水晶玉。人の頭くらいある。
占星師と呼ばれる老婆のもとで私は診断を受けていた。
老婆は水晶玉に映る何かを読み取って、私にそう告げた。
「解呪方法は?」
「呪いを封じてあった物を復元すればおそらく元に戻る。受けた呪いは、封じられた脅威がふりかかるというものじゃ」
「つまり何かを元に戻すか、封じられた相手をすべて倒せば終わるかもしれないと?」
「そうじゃが、どのくらい封じられているのかは予想はつかん。壊したものを治してやるのがいいじゃろ」
椅子に座っていた私の横では、セローさんとジェスタさんが一緒に話を聞いていた。
2人は既に診断済みで問題なかったので、最後に私の番だったのだが、一連の出来事は見事に私のせいだったことがわかった。
「どこで、何のせいで、まで過去を見ることは可能か?」
「ぅうむ。それならば追加料金じゃな」
老婆は看板を指さして答える。
そこには、過去の占いは10万ゴールドと書いてあった。
(未来は50万ゴールドねぇ・・・・・・)
「仕方ない。レイチェル、これからの君の給料から少しずつ引いていく」
「はい・・・・・・」
解決しないことにはいつまでも危険が付きまとう。
高いお金を払ってでも、今、依頼を受けていないこの時に解決すべき問題だ。
「ほれ」
ジェスタさんがカバンから10万ゴールドの札巻きをテーブルに置く。
「よかろう」
老婆は水晶玉の表面を撫でるように手を動かし始めた。
すると水晶玉は薄く光りだした。
「・・・・・・どこかの屋敷、薄暗い部屋・・・・・・カーテン・・・・・・」
「あああ!」
私は思い出した。
不用意にカーテンを開けたことで壺を割ってしまったことを。
そしてそれをセローさんに隠していたことも。
「何か心当たりが出てきたようだな」
「えっと、セローさんに言ってなかったことがありまして・・・・・・」
ジェスタさんに助けを求めて視線を向けたが、そっぽを向かれた。
自分で説明しろということらしい。
私は少し前の依頼で、遺品整理をしたときに不注意で壺を割ってしまったことをみんなに話した。
「ちょうど俺とは別に作業をしていたときに起きたことか」
「古そうだし、言わなきゃばれねぇと思って捨てちまったんだけどよ」
「隠し事は俺たちも依頼人も困ることになりかねん。以後は絶対するな」
占いの店を出た私たちは今後のことについて話し合う。
「えっと、このままだと私は?」
「常に危険なやつらに襲われる可能性がある。早めに手を打とう」
「とりあえず壺を回収してぇけど、全部ゴミで捨てたんじゃねぇか?」
「一応ゴミと思われるものもすべて遺族へと引き渡した。燃えるものではなかったし、そのままどこかに埋めた可能性が高い」
しかし、ゴミと一緒に捨てられた壺の残骸を取り出して修復するのなんて、途方もない時間がかかるだろう。
その疑問をセローさんへと問いかけると、意外な返答が返ってきた。
「1つの破片からでも復元方法はある。もっとも、とんでもない金額がかかるが。しかしモノが半分ほどあれば3割ほどの金額で、同じ物扱いの物体を魔法で作り出せるらしい」
「なんでそんなことが?」
「紛失した物体を再現する技術の応用とのことだが、詳しくは知らない。生物由来でないものの一部があれば復元できる技術だと。それを知り合いの学者に頼むことは可能だ」
今の私に他に手段を選んでいる時間はない。
一刻も早く壺を元通りにして、降りかかった呪いを解かなければ私の明日はないのかもしれないのだから。
まず、2手に分かれることになった。割った呪いの壺を渡した街の遺族の方へと行方を聞くジェスタさん、そして欠片からでも修復できるという学者の元へセローさんが向かってくれた。
私は街で一番大きな冒険者ギルドで待機だ。
下手に出歩いて周りに迷惑を掛けないように、ということで守ってもらうことになった。
「件の技術の使用料金だが、破片1つから復元で2000万、約半分の状態なら600万ゴールドだそうだ」
「ろっぴゃくまん!?」
ギルドへと先に戻ってきたセローさんから驚きの金額が提示された。
とてもじゃないが、私の支払える金額ではない。
そもそも一般人の生涯年収が、60年×12か月を月に2000ゴールドとしても、約140万ゴールド。
私が一生働いても支払えない金額だ。目の前が真っ暗になっていく。
(あぁ。私は呪いで死ぬのかぁ・・・・・・)
「どの程度の欠片が集まるかはわからない。ゼロかもしれない。そこでだ・・・・・・」
セローさんが指を指したのは剣。
自分の腰に差している剣だった。杖の代わりにもなる魔法の剣。
「剣がどうしたんですか・・・・・・?」
「これを売ろうと思う」
「なんで? もしかして私のために?」
「何を言ってる。それ以外にないだろう? 部下の失敗に上司が身を切る、当然じゃないか」
セローさんは普通ではありえないくらいのことを言ってのけた。
「君は気にすることは無い。仲間の命が金で買えるのならばいくらでも出そう。そのためにこの仕事をしているんだからな」
「セローさん、ありがとう・・・・・・」
私は嬉しくて涙を流していた。
「これは一生、絶対に忘れません」
「別にいいんだ。実はこの剣、拾い物だ。タダで手に入れた」
「はぃ? 由緒ある家の英雄の剣とかじゃないんですか」
「なんてことはない探索で見つけて、ギルドの誰にも扱えないから貰ったんだ」
そこへジェスタさんも合流してきた。
「ゴミは処理業者に渡した、んで業者は他のゴミと一緒に街から離れたとこに埋めたってよ」
「通常の処理で助かったな。レイチェル、君はこのまま待っているといい。出歩かれて襲われても困る」
セローさんとジェスタさんが出ていくのを見守ることしかできなかった。
現状、私にできることはなく、良い報告が来るのを待つだけだ。
ここはセローさんの所属していたギルド。一通りの生活ができる部屋を貸してもらった。また、どこであっても緊急時にはベルを鳴らすようにとも言われている。
(できれば全部見つかりますように・・・・・・)
いつどうなるかわからないので、不安から不眠状態になってしまった。
もし、手を打てなければ死ぬまで、あるいは死んだあとも呪いを振りまく存在になってしまったかもしれないのだから。
そうして眠れない日を過ごした。
すると、私の願いが通じたのか、2日後の昼に部屋へ来たジェスタさんは笑顔だった。
「おう。オメー、よかったな。8割がた拾えたからよ。復元も安く済みそうだとよ。感謝しろよな」
話を聞いていると、1日以上かけて、2人で見つかるだけ全部手作業で拾い集めたらしい。
「まあ俺がごまかそうとしたのも悪いしな。ちょっとは反省してるぜ」
「お互い、2度とやらないようにしましょう」
「今、セローが欠片を持って復元を頼みに行ってる。俺も話だけ聞いてたけどよ、半日くらいで終わるってよ」
いつどこから襲われるかとおびえる日々は、あと半日で終わるらしい。
「これでしばらく休みにしようや。お前も田舎に顔出しに行ってきな」
言われてみれば、もうずいぶんと故郷の村と連絡もしていない。




