館の地下室
翌日の天気はあいにくの雨。ベッドから出た時点で肌寒い。
館まで歩くのに少し億劫になるほど降っていた。
「レイチェル、君の黒の外套は?」
「あ~持ってきてないです」
「そうか。失礼、この辺に合羽などは売っていないか?」
「でしたら店の予備をお貸ししますよ」
セローさんは宿の主に私の着る合羽を借りてくれた。
ひとまず雨でも仕事だ。とりあえず館へと着いてしまえば雨は気にする必要はない。
どうして私がそれほどまでに雨を気にするかというと、魔法使いが着る服というのは非常に水気を吸いやすく、重くなってイヤなのだ。
故郷で買ったこの服も、魔法使いに憧れて袖を通して以来、着るとそれらしい気になるので
脱げないのだった。
(魔法使いはコレ、と思うと、他の恰好になりづらいんだよね)
魔法使いというのは集中が大事なこともあって、大体が同じ服、慣れた格好。それが私にはこの格好だった。
「出発すんぞ」
ジェスタさんの声と共に館へと歩き始める。
3人とも黒や茶の合羽姿だ。薄手の皮に防水加工を施した合羽。
私の借りた合羽は頭巾の部分も含めて男性用なので、私にはブカブカだ。
「今日は何すんだよ?」
「たしかに。昨日でほとんど終わってませんか?」
館は2階建て。昨日の時点でどちらの階も概ね整理し終わったような気がしたのだけども。
もうそのまま引き渡しでも良い気がしないでもない。が、セローさんは言う。
「見た感じは終わっている。しかし、地下室がある」
「ああ。なんか隠してあったぽいけど、面倒だから言わなかったんだけどな」
ジェスタさんは地下室の存在に気付いていながら、知らないことにして作業を終わらせる気だったらしい。
「ジェスタ、お前は最近仕事の手を抜きすぎではないのか?」
「なんかよー、仕事仕事ばっかでつまんね~んだよな」
「来年あたり少し休暇にでもするか。そこを自由にできるのが俺たちの仕事でもあるからな」
「えっと、お休みになったらお給料は?」
「もちろん無し・・・・・・では君が困るだろうから、休暇でも半分を出そう。今までの給料を全部使ってしまったなんてことはないだろう?」
「確かにそこそこお金は貯まってますけども」
家と仕事場を行き来する生活で、趣味なんかも見つけられてない私は、割とお金持ちになっていた。
「ひとまず休暇の話はおいて、作業を終わらせよう」
昨日で終わらなかった一通りの選別、分別作業を終えて、最後に地下室を調べることになった。
地下室の入口は1階の倉庫に扉があった。
薄そうな手前開きの木の扉だが、扉の真ん中に何か宝石のようなものが付いている。
(でも、セローさんは地下室ってなんでわかったんだろう?)
「セローさん、どうしてこの扉が地下に続いているとわかるんですか?」
「まず外から見て館の外側にこの奥がない。それにここの床を叩くと、下に空間があるような音がする」
そういったことはジェスタさんが専門だと思っていたが、セローさんでもわかるらしい。
流石にベテランの観察眼だ。
「こりゃ合言葉で解除される鍵だな」
「合言葉・・・・・・主の人は亡くなってますし、家族の方が知っているか聞きに行きます?」
「いや、いらねぇ。合言葉はコレだわ」
ジェスタさんはどこから取り出したのやら、眼鏡をいつの間にかつけていて、中空を見渡していた。
「ディアブロのゴースト」
その言葉に反応したらしい扉が、カチャリと鍵の外れる音を立てて、ギィとこちらへ開いた。
扉の先には階段が斜め右下へと伸びている。
(全然合言葉の意味が分からない)
ジェスタさんを先頭に階段を下ると、そこそこ広い空間が広がっていた。
足元には様々な色のシミ、壁付近には机や棚が並び、何かの入ったガラス瓶や本も散乱していた。
「散らばってるものに触んなよ。たぶん何かの実験室だ」
ジェスタさんに釘を刺される。
(前に他の冒険者の人を救出しに行ったときに似ている気がする・・・・・・)
「罠の類も無ぇみたいだから、少しずつ物を上に運び出してくれ」
ジェスタさんの指示通りに上の階へと物を運び出す。
私が運び出したのは、瓶詰めの葉っぱ、何かの虫の羽、鳥の剥製などなど。
重たいものはセローさんが魔法で動かしたりしていたので、それほど時間はかからなかった。
「何をしていたのかを確定させるのは遺族に任せるとしよう。どうも隠れて人造魔獣を作っていた可能性が高い」
「えっと、作っていたらマズイんですか?」
「当たり前じゃねーか。違法な人口魔獣製造は大罪だぞ? 内乱誘導扱いで国で禁止されてる」
セローさんじゃなく、ジェスタさんが言うのだからよほど有名な罪状らしい。
「とりあえずは一般的な素材扱いで売却するように勧めよう。希少価値のある物ならば引き取り手もあるだろう」
そういうわけで、地下から運び出した物も一緒に分別作業を終え、数日後に遺族へと引き渡して今回の仕事は終わりになった。




