荷馬車の護衛
ある晴れた日、私たち3人は宝石商の馬車一行の荷馬車に乗っていた。
目的は街に着くまでの護衛。
宝石の仕入れ先の村から戻る途中、
(う~ん、私は何になりたいんだろう?)
初級の魔導書を読みながら考える。
お尻の下には宝石が満載の木箱。
向かいの木箱にはセローさんが座っている。
(この前、水の魔法は覚えたし、次は何を覚えようかな?)
今の私は、炎、風、水の魔法の3つを使える。
と言っても、セローさんもジェスタさんもいるから使うのかはわからないけど。もっと覚えておいて損はないと思う。
私はもう一度、魔法の覚え方の基礎を読み直す。
(結果をイメージして、杖を構えて、呪文を唱える)
これが魔法を扱う基本らしい。
ただ、セローさんを見ていると、本当の天才は呪文も省けるようだった。
まだ私には怪我を治すところをイメージしたりすることができない。そのせいで治癒の魔法を使うことができないでいた。
(出先で傷ついた人を助けられれば、もう少し活躍できると思うんだけど)
ガタガタと揺れる馬車の中で思案する。
別に今のところ何かが変わるわけではないので無理して覚える必要はないのだけど。
しかし、事務所に詰めている時と、馬車の中はとにかく暇。この時間に少しでも勉強しておきたかった。
「おい、なんか面倒なことになりそうだぞ」
前を走る馬車からジェスタさんの声がかかる。
今、走っている場所は渓谷だ。しかも谷の一番下。
周りに逃げる場所などない。馬車がゆっくりと停止する。
「前に柵があって壊さないと通れねぇ。しかも上から弓で狙われてやがる」
「何人くらいに囲まれている?」
「6人くらいじゃね? たぶんそろそろ降りてくっぞ」
崖の上から3人が降りてきて、柵の前に立った。
全員武装しているようだ。
「全員馬車から降りろ。お前ら、通りたければ金目の物を置いていけ。そうすれば通してやろう」
盗賊らしいが、ずいぶん優しい。
馬を止めて、御者2人、宝石商の人、私たち3人の6人は馬車を降りる。
(あれ?)
ジェスタさんの姿が見えない。
「これで全員か?」
「ああ」
セローさんはしゃあしゃあと嘘をつく。
両手を挙げて私たちは投降の意思を見せる。
「そんな訳ないだろう? 前の馬車に護衛が乗っていないのはあり得ない」
流石に手馴れている。
「探せ! もう1人はいるはずだ!」
盗賊と鉢合わせするなんて運がない。
私は初めてだったが、セローさんやジェスタさんの対応は手馴れている。
「中身は宝石か。お? よく見たら1人は嬢ちゃんじゃねぇか」
(私、もしかして売られちゃう感じ?)
「そんなやつ売っても大して金にならないぞ。胸もないし」
「若ければ世の中には買うやつもいるんだよ」
(普通に悪口言われてない!?)
セローさんはそんなこと言わないタイプだと思ってたのに。
突如、捜索していた盗賊が1人倒れる。




