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守る策と力

「た、助けてよぉ.........アルト!!」


目を瞑り、涙を流すイヴェルが叫ぶ。

彼女がこれ程まで弱々しくなっているとは、余程追い詰められてたんだな。だが、そんなイヴェルもこれはこれで可愛い———なんて言っている場合ではないか。


「勿論です!!」


助けを求めた彼女へ背を向け、俺は炎の渦と立ち会う。


か弱い女の子をピンチから救う。こんな展開、燃えないわけがないだろう。



そもそも、どうしてイヴェルのことを助けに来れたのか。

それはシャルムの拘束魔法を解いたからだ。


前のコネサンスによる体の拘束は彼の固有能力であったため、それに抗うにはセインのように力づくで振り払うか、エマのよう特殊能力で対応するかしかなかった。だが、今回のシャルムによる拘束は固有能力などではなくただの超高度な魔法によるものだ。


その魔法をパズルのように解君ことで、俺は晴れて自由の身を取り戻したという訳だ。中々解くのに時間がかかってしまったが、間に合ってよかった。



さて。カッコ良く勿論です!なんて言ってはみたものの、俺にはこの状況を覆せるような策も力も持っていない。それを持ってきて実行するのは主人公であるセインの役目だ。



その一方で、俺には今のイヴェルを守る策と力はある。



俺の仕事は主人公であるセインが来るまでの間、ヒロインであるイヴェルを守ることだ。


「ア、アルッ...」


「大丈夫です、イヴェルさん。俺が守ります」


怯えるイヴェルに声をかけ、俺は炎の渦に向かって一歩前に踏み出す。


彼女を抱えて炎の渦を避けてもいいのだが、それではこの問題は解決しない。



そもそも、”剣技”の魔人であるスパードがどうして魔法を使えたのか。それはスパードの固有能力であるトレースの効果だ。


トレースとは簡単に言えば、戦っている相手の魔法の能力をコピーするという力だ。つまり、今のスパードはイヴェルと同程度の魔法の能力を有している。


これに関しても、”剣技”らしく剣で決着をつけたいが故、魔法による能力差をなくすために俺が付与した設定だ。しかしこれ、よく考えれば要らなかったな。

魔法が効かないくせに自分は魔法を使えるとか流石にズル過ぎる。剣で決着つけるつもりが微塵もない。前世の俺は些か頭が悪かったようだ。


トレースでは魔力操作のような技術のコピーは出来ないものの、スパードの隣にはシャルムがいる。”魔術”のシャルムであればスパードの放った魔法でも自在に操ることが可能だろう。


そんな訳でこれを避けたところで、炎の渦が進路を変えて追ってくるだけだ。そこにスパードの剣戟が加わったなら、俺は一瞬で死ぬ。勿論、イヴェルも共に。


だから———


「水」


「ア、アル....ト?」


自らの頭上に大量の水を生成した俺は、それを思いっきり頭からかぶって水浸しになる。

そんな一見頭のおかしい行動に、イヴェルは困惑の声を上げた。


もしかしたら、イヴェルと喋れるのはこれで最後になるかもしれない。不快にさせるかもしれないが、一応挨拶ぐらいはしておこう。


「イヴェルさん。今までありがとうございました。あと...ミケの件は本当にすみませんでした。では、俺は行きますね」


「え?」


呆然とする彼女へ簡単な別れの挨拶を済ませた俺は目の前の炎の渦に向かい、思いっきり飛び込んだ。


「ア、アルトォォォォォ!!!!」



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



スパードの放った魔法、火炎渦。

これは本来拷問などに用いられる魔法で、渦中に人を閉じ込めて熱でジリジリと苦しめるという魔法だ。


その火力は魔力量で調整するのだがスパードの放ったそれは殺す気満々のもので、普通の人間が閉じ込められれば30秒ほどで丸焦げになるだろう。そしてその30秒間、その中に囚われた者は地獄の苦しみを味わうことになる。一瞬で逝かせてやるなんて真っ赤な嘘だ。


だが、この魔法には1つの欠点がある。

それは1つの火炎渦につき、人を1人までしか捕らえられないという点だ。火炎渦は1人を取り込んだ時点で、その場に停止して動かなくなるという特性を持つ。


つまりイヴェルの代わりに他の人間が飛び込めば、彼女へその魔の手が向くことはないということだ。



ゴォォォォォォォォ!!!



炎の中へ飛び込んだ体を、容赦のない熱が瞬時に包む。


言うまでもなくクッッッソ熱いし、身体中がクッッッソ痛い。口へ入ってくる空気も焼けるように熱い。まるで炎を直接飲んでいるかのようだ。喉が焼ける。息が出来ない。

その渦の中へ入ってから10秒も経たずして何度も意識を手放しそうになったが、俺は歯を食いしばり必死にその意識を保った。


なにも俺は無策で飛び込んだわけではない。

アイツなら、あの優秀な後輩であれば、必ず期待に応えてくれる———


「アルトさん!」


全身を覆う激しい痛みに再度意識が奪わかけたとき、遠くの方から声が聞こえた。

次の瞬間、激しい炎に炙られていた全身は水の球に包まれ、俺を捕らえていたそれらの炎は一瞬にして消失した。



「流石、だな……」


薄れる意識の中で声のした方を見ると、そこには右手を前に突き出したアーネの姿があった。


「ア、アルト、ど、どうして。アルトが、死んじゃ、嫌、嫌だよぉ...」


全身を包んでいた水の球が消え、俺はフィールド上に横たわる。手も足もまともに機能しない中で視線を少し動かすと、そこにはその足を引きずってこちらへ駆け寄ってくるイヴェルの姿があった。


あー、まだしょんぼりした彼女のままか。これは、気の利いた言葉をかけなければな。


「イヴェル、さん。落ち着いて、ください。俺は———」


「おー、お主がアルトか?危ねぇ危ねぇ、もう少しで殺すとこじゃった。消してくれた奴には感謝しないとのう」


彼女へ心配しなくて良い旨を伝えようとしたとき、それを遮って1人の魔人——スパードがこちらへ歩いてきた。その目は観客席にいるアーネの方へ向けられている。


「アーネに手を出したら、許さないぞ...」


「おうおう、元気そうで何よりじゃ。だが、お主が許そうが許さまいが関係ない。ワシはワシのやりたいようにやる。まあ、怪我はシャルムに治してもらえ。ワシは隣の女をやらねばいけんのでな」


「い、嫌...」


アーネから視線を外し、こちらへ視線を戻したスパードはその剣先をイヴェルに向ける。スパードがやろうと思えば、今の状態のイヴェルはいつでも殺せるだろう。だが、


「いいや、駄目だ。怪我の治療は、お前がしろ」


「あ?」


命令するようなその言葉に、スパードは苛ついたように聞き返す。そんな彼へ俺はゆっくりと顎を動かし、後ろを向くよう伝える。


そして後ろを向いたスパードの目には映っただろう。


「グ、フッ...」


その腹から金色に光る刃を生やし、口から真っ黒な血を流すシャルムの姿を。


「どうやら、お前の相棒に俺の治療は無理そうだ」

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