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復帰と膝枕

「シャルムゥゥゥゥ !!」


大量の血を吐くシャルムの姿を見たスパードは、俺たちのこと無視して急いでその方へ駆け寄っていった。


「遅くなってごめん、アルト」


「ああ、全くだ...だけど、ありがとうな。セイン」


そのスパードと入れ替わるようにやってきたのは、金髪イケメン主人公ことセインだ。


「イヴェルちゃん!」


シャルムが重傷を負ったことにより魔法が解け、動くことのできるようになったシエルもこちらに合流する。


「だ、大丈夫だった!?」


「シ、シエル。私は問題ないのだが、アルトが」


「わ、分かった。今からアルト君の治療を——」


「ちょっと、待ってください」


横たわる俺に手を翳し、回復魔法をかけようとしたシエルへ待ったをかける。


「ア、アルト...?ど、どうしたんだ?」


「シエルさん。回復魔法は、イヴェルさんに使ってください」


「な、何を言ってるんだ!どう考えてもお前の方が重症だろう!」


その言葉にイヴェルが激昂する。

まあそれはそうなんだが、俺も考えなしで言った訳ではない。


「シエルさんは、最上級の治癒魔法を使えます。それを使えば、イヴェルさんの足も治るでしょう。そしてシエルさんは魔力的に、後一回使うのが限界なはずです。アイツ——剣技の魔人を倒せるのは、イヴェルさんしかいません。俺は後からでも、なんとかなりますから」


「何を言ってるんだ!お前のその怪我は刻一刻を争う!シエル、私のことはいい!だから、アルトを...!」


「シエルさん。賢明な貴方なら、分かるはずです。イヴェルさんと俺、どっちを治すのが正しいのか」


「...ッ!!」


それぞれで真反対の頼みを要請されたシエルは悔しそうに歯を噛み、最上級の回復魔法を使った。


「シ、シエル!?」


そして、淡い光を放つ光の魔力がイヴェルの体を包み込んだ。


「シエルさん。ありがとう、ございます」


「ど、どうして...」


回復魔法をかけられたイヴェルは、シエルの方を見てそう呟く。その疑問に彼女は答えることができない。


「イヴェルさん。みんなで生き残る為には、貴方の力が必要です。だから今は、気持ちを切り替えてください」


「......そのみんな、と言うのにはアルトも入っているか?」


「…はい、勿論です。俺はまだ、こんなところで死ぬ予定はありませんよ」


「......そう、か」


俺の言葉を聞いたイヴェルはゆっくりと立ち上がり、一度目を閉じて大きくその息を吐いた。


「ありがとう、アルト。私はお前の望み通りあの魔人を倒すことを誓おう。だからアルト、お前も絶対に死ぬな。死んだら、今度こそ絶交するからな」


「ははは......それは、嫌ですね。死なないように頑張ります。イヴェルさんも頑張って、ください」


「ああ」


こちらを向きそう薄く笑ったイヴェルは、スパードの方へ鋭い眼差しを向ける。

良かった。元のイヴェルに戻ったみたいだ。


「じゃあアルト、僕が回復魔法をかけることに反対はしないよね?」


イヴェルが普段の調子に戻ったことに一安心していると、それとは反対の方向からセインが声をかけてきた。


「ああ、そうだな。......と言いたいところだが、却下する。セインには、まだお客さんがいるみたいだからな」


「......なるほどね」


「...絶対にコロス!」


俺とセインの視線を向けた先には、大怪我を負いながらも自らの足でフィールド上に立つシャルムの姿がある。セインへの怒りからだろうか、その体は赤黒く染め上げられている。


「ほら、めちゃくちゃ怒ってるぞ。アイツには、魔力を伴った攻撃じゃないと効果がない。魔力は温存しておくのが、吉だ」


セインの剣がシャルムに刺さったのは、彼が剣に魔力を帯びさせていたからだろう。剣に魔力を帯びさせて戦うというのは、体力も魔力もかなり使うので非常に苦しいものになる。しかしその分、スパードとシャルムの両名に一定の効果がある。


そんな魔力剣ともいうべき技術を用い、死闘の末にセインはスパードとシャルムを討ち果たす。———原作の小説では。


「それで、アルトは大丈夫なの?」


「ああ、心配するな。これだけ喋れてるし、体も見た目がひどいだけで、あまり痛みはないんだ」


「そう、なんだ」


そう納得するように呟いた後、セインはシャルムの方へ一歩足を踏み出した。手負いとはいえ、シャルムはそう簡単に倒せる相手ではないだろう。

まあだからと言って、セインが負ける姿は想像出来ないが。


「上級回復《メガヒール》」


「え?」


すると突然、俺の体が淡い光の魔力に包まれた。セインが回復魔法を使ったのだ。


「アルト」


「は、はい」


セインは背を向けたままで語りかける。

ん?セインなんか怒ってるか?思わず敬語になってしまった。


「アルトがイヴェルさんや僕のことを心配してくれているのと同じように、僕らもアルトのことが心配なんだ。だから、これくらいはさせてよ。大丈夫。僕は負けないし、前みたいに見逃すつもりもないから」


セインはそうとだけ言うと、一瞬だけこちらを向いて少し照れくさそうな笑みを浮かべた。


その後すぐに地面を蹴り、シャルムに向かって走っていった。......カッコいいなぁ。


「セイン先輩には見透かされてたみたいですね。カッコつけすぎですよ、アルトさん」


シャルムへ向かっていくセインを見送った直後、頭上からそんな声が聞こえてきた。


「ああ、アーネか。さっきはありがとうな。お陰で助かった」


「助けてくれって言ったのはアルトさんですよ。無茶しすぎです」


少し上方へ視線を動かすと、そこにはこちらを覗きこむアーネの姿があった。


命の恩人である彼女へ感謝を述べるが、一方の彼女は少し怒ったようにその腰に手を当てている。


イヴェルを助けにいく直前、シャルムの拘束魔法をなんとか解いた俺は、横にいたアーネへそれの解き方を簡単に教えた。


そして彼女に助けてくれ、とだけ伝えてからイヴェルの救出に向かったのだ。


いやー、予定通りにいってくれて本当によかった。


「まあまあ。イヴェルさんもシエルさんも、誰一人として死ななかったから、良かったじゃないか」


「私の目の前に、今にも死にそうな人がいるんですが」


「俺はセインが回復魔法をかけてくれたから、ピンピンだぞ。もう元気いっぱいだ」


「本当のことを言わないと、私本当に何もしませんよ?」


「身体中がめちゃくちゃ痛いし、めちゃくちゃ熱い。それなのになんか寒いような気がしてきて何が何だが訳がわからない。常に吐きそうで一瞬でも気を抜けば瞬時に天界へ召されそう。あー、どうなるんだろう俺。死んじゃうかも、死にたくないなぁ。アーネさん是非とも俺を助けて...」


「だと思いました!もう!そんな状態ならダラダラと喋らないでください!」


アーネはそう叱りながらも、丁寧に回復魔法をかけてくれる。あぁ、気持ち痛みが軽くなったような気がする…


しかしその十数秒後、改めて俺の容態を確認したアーネは焦ったようにその声を上げる。


「ここも、ここもここも…こんなに酷い火傷を……アルトさん、よく聞いてください。今のアルトさんの状態は死んでてもおかしくないくらいに悪いです。私の回復魔法ではとても対処しきれません。だから私がなんとかして保健室へ——」


「いいや、それはいい」


そう言ってアーネは俺を保健室へ連れて行こうとするが、当の本人である俺がそれを止める。


「ちょ、何言ってるんですか!?その歳になって保健室が怖いんですか?」


「そんなわけないだろ。...あっちを、見てくれ」


俺は視線をアーネの方からフィールド中央へ向ける。そこにはスパードと戦うイヴェル、シャルムと戦うセインの姿がある。


「あの2人に発破をかけたのは俺だ。そんな俺が戦いの結末を見ずに、ノコノコと引き下がれる訳がないだろ」


「ッ!!、た、確かに、そのアルトさんの考えも一理あるとは思います。だとしても、それは自分の命を天秤に乗せて、それでも価値のあるものなんですか!?」


アーネは俺のことを保健室へ連れていく為、必死に説得を試みる。


思い上がりかもしれないが、ここまで俺のことを心配してくれているのは正直言って嬉しい。だが、


「ここで彼らの結末を見逃したら、多分俺は一生後悔する。この過去を悔やんで悔やんで悔やんで悔やみ続ける。そんな未来が手にとるように分かる。だが、俺はアーネが本気で保健室へ移動させようとすれば、抵抗できないだろう。だからアーネ、頼む」


「ッ!!」


アーネの顔が強張る。

きっと俺の頼みを聞きたい気持ちと、一刻も早く保健室へ連れていきたい気持ちが彼女の中で葛藤しているのだろう。


しかしそんな葛藤も一瞬、アーネは決意したように俺の顔を見た。


「アルトさん。私がアルトさんの頼みをなんでも聞くと思ったら大間違いです。私、そんなにチョロい女じゃありません」


「そうか」


「だから———もし、私が危険だと判断したら、即刻アルトさんを保健室にぶち込みます」


そう言うとアーネは、俺の隣へその腰を下ろした。


「...ありがとう」


「いえ、気にしないでください。...と言いたいところですが、私の頼みも1つだけ聞いてもらっていいですか?」


「ああ、別にいいが、今の俺は何も出来ないぞ?」


「アルトさんは何もしなくていいんですよ。では、失礼して…」


柔らかく微笑んだアーネはそう言うと、俺の頭を少し持ち上げてその下に自らの膝を挟んだ。俗に言う膝枕というやつだ。


「...数年前にもこんなことがあった気がするな」


「ありましたねぇ」


「どうせ俺は抵抗できないんだし、いちいち許可を取らなくても...」


「いやぁ、それでも良かったんですけど…全校生徒が見てる中、勝手にするのも如何なものかと思いまして」


「あぁ、なるほど」


視線を動かし観客席の方を見てみると、そこでは多くの生徒がイヴェルやセインの戦いを静かに見ていた。シャルムの拘束魔法はもう解けていると思うので逃げられるとは思うのだが、彼らはセイン達の高度な戦闘に釘付けなようだ。


俺たちはフィールドの端っこに居るとはいえ、気づく生徒もいるかもしれないな。


「そう考えると少し恥ずかしいが…抵抗できないからな。仕方ない」


「止めろと言われれば止めますが?」


「...いや、いい。恥ずかしいだけで、嫌じゃない」


「ふふ、そうですか」


アーネはそう笑いながら、俺の髪の毛を軽く撫でる。

少しくすぐったい。



ダンッッッ!!



突如、大きな音が響いた。


音のした方を見ると、そこには金色の剣にその胴体を貫かれたシャルムと、その剣を握るセインの姿があった。

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