間話「シデンの2週間」
この2週間、ヴェスの指導による訓練は死の淵をギリギリ歩かされるような日々だった。
雷を身にまとった翌朝、剣の稽古に始まり、次にヴェスが言うのは『常に雷を身に纏うこと』と『合図で雷の発現と解除』できるようにと言われ、座学、食事以外はなるべく雷を身にまとい、解除と発現を繰り返した。
「外に連れて行く約束だからな」と、魔力切れ寸前の俺の手を引き、魔力回復に効く薬草を取りに行き、ヘトヘトなのに霊薬の調合の授業が始まった。
次の日には『合図で雷の発現を最大にする』ということが追加され、前日と同じように魔力切れ寸前になると、薬草を取りに行き、霊薬を調合する。
そのまた次の日からは「薬草で1人に行け」と言われたが、ついてきていたらしく、『雷の発現を最大限にする時の合図』への反応ができず、1発こづかれた。
「これが怪異だったら?お前の命を狙う敵だったら?」
「今生きているのは相手が儂だからだ、でなければ今お前は死んだ。」
…ごもっともだ、何も命を脅かすのは怪異だけでない、飢えた獣、状況によっては人間相手だってあるだろう。
竜狩りは、その得意な体質のため、研究対象にもなっている。
怪異を討伐されると都合の悪い者達も居るらしく(主にヴェスのせいで)命を狙われている集団でもある。
雷を纏いながらヴェスと剣を交え、剣の訓練もいつもより厳しかった。
食事もまともにせず、ほとんど寝ている時以外は剣を握っていた。
座学では俺の属性における狩術の使い方を教えてくれた。
しかしそれもすぐに終わり「具体的な使い方は自分で考えろ、戦闘で見い出せ。そして誰にも教えるな、そして生き残れ。」と言われた。
ヴェスのキャラクターもあってか、発言は適当に聞こえても、実際理にかなっているというか。
職業柄ほとんどがサバイバルな環境で過ごすことが多いため、型や決まりきった事というのが少なく、基本的には自分で考える事が多くまたヴェスが竜狩りをやってきて得たものというのは、そこに尽きるのだろう。
「自分で考える」なかなか難しいことだ。
そこからは自分の能力の使い方と研究をしながら、剣の訓練のみとなった。座学はちょっとの間はしないようにするそうだ。
俺はヴェスの言葉を思い出す。
「いいかシデン、属性は目に見えるように発現した、目にした途端に特別なものに見えるかもしれん。」
「だがそれはお前の中にあったものだ、誰かから譲ってもらったわけではない。」
「手足を動かすように当然に、息をするように必要不可欠になるようにしろ。」
1週間が過ぎた頃、薬草が辺りに見えなくなった。日に何度も魔力切れを起こし、その度に薬草を取りに行っていたためか、採りつくしてしまったようだ。
もちろん、自生しなくなっては困るため、若芽や蕾は取らない。
少し、遠くまで調達しにいく、とそれなりの格好をして、遠出をした。
往復で5日ほど。
「ここはエルフがよく薬草や霊草を採りにくる森でな」
「エルフ意外が入るのは良くない」
たしか、今は人間やエルフ、ドワーフその他もろもろの種族は関わりを持たない様にしていざこざを避けているんじゃなかったか。
もちろん、互いの利益になるのであれば、交流する種族同士もいるとは聞いているが。
それをなくしてもエルフは多種族嫌いで有名だと習ったが。
いいのかこれ、怒られるんじゃないか。
「いいんだよ、どうせあいつら魔力切れないから。そんくらい多いんだよ魔力。」
ヴェスはたまに年齢より若い感じの話し方をするが、この時ばかりは自分と同じくらいなんじゃないかと思うくらいワルガキの目をしていた。
その後すぐにこの瞳の輝きが別の目的がある事を知る。
しばらくエルフが管理する森を散策し、必要な物は十分揃った。
「よし、シデンこっちだ」とそれまでより更にコソコソと動くヴェス。
森のなかに澄んだ色の泉がある、地熱だろうか、湯気が立っている。
「見ろ」と声を抑えて泉を指差す。
エルフだ、女の子達がエルフが湯浴みをしているじゃないか、絹のような白い肌は湯浴みのせいか、ほのかにピンク。色んな所が、いろんな意味でピンク。
1人は長い綺麗な髪を纏めて、もう一人は短い髪が少し塗れて、水滴が滴っている。
もう一人は長い髪で胸が隠れている。
皆それぞれが思い思いに手で湯を掬い、肩にかけたり、ゆっくりと湯に浸かったり。
その所作がなんとも艶かしい。
なんて事だ、これはかなりマズイんじゃないか、いや、でもこれは見ているべきじゃないか?いやでもマズイ。初めて見る女体に俺の愚息もマズイ。
ちら、とヴェスを見ると「な?」みたいな顔をしている、いやたしかにこれはいい。とてもいいが。とてもいいんだが。
後から思えば、エルフの言語だったのだろうか、叫び声。
おそらく俺達侵入者に向けられ、周囲の仲間にも警戒するような言葉だったのだろう。
すさまじい光景から瞬時に現実に戻される声。
「しまった!」ヴェスは俺の襟首を掴みその場を去ろうとする。
俺の目に入った光景は、見張りのエルフがおそらく魔法だろうか、拳くらいの大きさの岩の塊を浮かばせながら形成している所だった。
「ヴェス!まずい!魔法だ!」
「バカモノ!名前を呼ぶな!」ヴェスは俺を持ち替え、エルフに向きあいつつ後退する。
「ヴェス…!マッドヒム・ヴェス!」
ヴェスの名前だろうか、知り合いなのかエルフはヴェスの名を口にした気がした。
エルフの側には3つほど岩弾が形成され、うち一つが発射される、すごい速度でこちらに来るが、この軌道は俺ではなくヴェスを狙っている。
と思ったが、俺を掴むヴェスの意志によって、岩弾は俺の目の前に。
ヴェスは残りの二発も俺を盾に、その場を逃げ切った。
エルフは追ってきていたがヴェスの脚力は凄まじく、エルフはすぐに見えなくなっていった。
岩弾をくらい、日々の訓練の疲れのせいだろうか、帰りの道中俺はほとんど眠っていた。
そうして、砦に戻った俺は、帰路の間ヴェスが乱暴に俺を扱ったのか、樹の枝や、岩肌にあちこち擦られ、岩弾を顔に喰らったために顔が腫れ、切り傷、擦り傷だらけになって帰ってきた。
「いやー、危なかったなー」とヴェスは一汗かいて爽やかだと言わんばかりに眩しい笑顔だ。
いつか、いつか殴ってやる、と心に誓った所でヴェスが何かを見つける。
「お、あいつらが帰って来おった。」
ジェイディーとミラニットだ。
「丁度いい、シデン、雷を以ってミラニットと戦ってみろ。雷の使い方は考えてあるか?」
急なヴェスの言葉に多少動揺したが、この能力の使い方はある程度考えてあるし、この2週間で何度も練習をした。
「ああ、考えてあるよ。」
俺はミラニットを見据えて、自然と拳を固く握っていた。




