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第3話「竜狩りとは」

俺は連れられ、砦の上の階にあるヴェスの部屋に来た。

おそらくこの建物ははかなり大きいようで、一軒家の2階に上がるのとはわけが違う、

階段を上がって少し歩いて別棟に移って、また上がった所にある。


中は広く、本棚と机、その向かいにはテラスになっている。

城の中庭に向いているその向こうからは、幼い声、おそらく、ミラニットのものだろう。威勢のいい掛け声が聞こえる。剣の練習をしているのだろうか。


ヴェスはその様子を見下ろし、軽く頷いてから机に向かった。

俺は床に座って最初から置かれていた本を眺めている。

見たこと無い文字だった、よく考えたら彼らが話している言語も、全く覚えのないものだ。


話せている、ということは俺もその言語を使っているんだろう、まったく無自覚だ。

それを意識しだすとなんだかムズムズと心地の良くない感覚に陥るので

それ以上は考えないようにした。


「さて、それでは授業を始めよう」

ヴェスは俺の前にあぐらをかくと、羊皮紙に色々書いて授業が始まる。

なるほど、読み書きの授業からか。


こうして始まった俺の生活は、それまで何となく生きてきた生活から一変し、刺激的な生活、いや、人生と言った方がいいか。とにかくここから俺は、全く別の人生になった。


それから便宜上、やはり俺の名前は必要になった。

俺はこの身体の主の名前を知らない。

ヴェスは俺に『シデン』と名前を付けた。ジェイディーはもっと強そうな名前にしよう、とかミラニットはもっとカワイイ名前にしようとか言ってたけど

俺はなんとなくこの名前が気に入っている。


この身体、シデンは、竜狩りとしての生活をスタートさせた。

元の世界に戻りたい、少しそんな気持ちもあった、けどどういうわけか

もしかすると、この身体の持ち主の思いなのか、俺はまず、この身体の主の仇をとってやりたいとそう思った。


次の日、正確にはその日からだが、本格的に剣の訓練が始まり、同時に座学が始まった。

猛烈な鍛錬の日々。正直に言う、仇をとってやりたいなんて思った事を後悔している。

グズグズに生きてきた俺には体力は子供の体力だとしても、精神的に辛い。

帰りたい、元の世界に帰りたい。ちくしょう。

…帰った所で、何が待ってるんだろう。友達も、恋人も、やりがいも無いのに。

ちくしょう、帰りたいけど、帰りたくない。体痛い。


なんなんだよ…どうしたいんだよ俺は…


持ったこともない木剣を振り回し、砦周辺を走り、体を作るために徹底的に負荷をかける。

聞いたこともない草だの物質だのの名前や、見たこともない怪物の名前や特徴を書き出したり、覚えたり。

ひたすらコレを繰り返す。

ヴェスとジェイディーの授業は厳しく、限界までみっちり絞られる。


日に何度かミラニットと打ち合いをさせられるが、いつも完膚なきまでに負けてばかりだ。

そんなミラニットもジェイディーやヴェスの足元のモトのモトに及ばない。

ちなみに、ジェイディーはヴェスにはかなわない。

痣だらけになり、手の皮が剥けてひりひりする手で羽ペンを握り、血の味がする口で喋る。


後悔と、苦悩の日々、そもそも戻り方なんてわからないから

日々をこなしていくしか無いんだ。


竜狩り、ドラゴンハント。

この世界での怪異は「ドラゴン」と呼ばれるそうだ、人の手の及ばない事柄のことで

広義的に言うと魔物や悪魔や精霊が起こす出来事に首を突っ込み解決するのが竜狩り、ドラゴンハントという者達。

その昔は怪異狩りと呼ばれていたという。

竜狩り自体は大陸全土に存在しているが、怪異の出現率と助けを求める人数からすると圧倒的に足りていないのだという。


依頼を受け、怪異を解決する。

金を払わないんだったら王様の頼みでも聞かないそうだ。

それに必要なのがドラゴンに対する知識、コレが欠かせないらしい。

そして戦い方、抗い方、逃げ方、勝ち方を徹底的に学ぶ。


そうして、俺が俺じゃない俺として目を覚ましてから

1週間、2週間、1ヶ月が過ぎ、あっという間に3ヶ月、半年と経った。

剣も知識も、もちろん半年で終えられるほど浅いものではないが、それでも前よりマシにはなったかと、すくなからず実感できるようになった頃。

ジェイディーとミラニットは付近の魔物の様子を観察するために2週間ほど留守にするらしい。


正直俺も行きたかった、日々の訓練の成果を確かめたかったし、寝ても覚めても同じ景色っていうものに少なからず飽きていた。

そんな俺の主張はヴェスによって即却下され、ミラニットは「お土産持ってくるから」と俺を窘めた。


肩を落とし、それでも木剣を持ち、訓練をする準備を始める。

俺を見てヴェスは笑っていた。

「年の割にお前は我がままを言わんのう」

優しく頭を撫で、「まぁ、外に出ちゃいかんというわけではないんだが、用もないからのう」

「わかってるよ」返答で精一杯で、不貞腐れた顔でいつもの位置に立つ。


素振りをして、その後筋トレだ、今日からミラニットは居ないから座学多めだろう。

「シデン、訓練は退屈か?」ヴェスは木剣を手に持ちつつ聞いてくる。

「いいや、大切なことだろ、退屈ではないよ」言い終わるまでに、2回素振りをした。

「ただ、たまには外を散策してみたいなって思ったんだよ」もう2回素振りをした。


「よぉし、この今から教える事を覚えられたら、褒美に散歩に連れてってやろう」

ヴェスは不敵に微笑む。

「出ちゃいけないってわけじゃないなら普通に外に出たいんだけどなあ」

そう言うと「それじゃ面白くないだろう」とこっちに来いと促す。


狩術、と呼ばれる、竜狩りが扱う特殊な術、魔術師があつかう魔法には及ばないが、それに近い。

攻撃、守護、罠などを仕掛けることができ、使い方は竜狩りによって様々だという。


その基本的な狩術を習うことになった。


まず、体に宿る性質を知ることだ、とヴェスは言う。

怪異狩りだけでなくとも、少なからずこの世に生まれた人々、生物には「属性」と呼ばれる性質があるそうだ

例えば暑さに強かったり、寒さに強かったり、弱かったり。

そういうのも「属性」によって変わってくるのだという、まずはそれを知ることから始まる。


砦の地下に連れられ、冷たい石の床には見慣れない模様…、文字と言うべきか。

円を描くように施されている。

ヴェスは何かしらの器具を準備しながら話し始める。

「かつての魔術師ベンガード・ガニファーは性質を知るための簡単な魔法陣を編み出した。

それは体から魂を引き抜き、刻まれた属性を読み取るというものだった。」


「しかしこの方法は魂が戻らず死人が出ることもあった、彼自身がこの方法を禁じ、以来魔術師たちは長い瞑想の中で自身の性質を知ることとなった。」

「後に彼の弟子、ミグ・ジェーンが体の中に魂を留めた状態で魂を透視する術を編み出してからは、比較的簡単に属性をすることができるようになったんだ。」

「しかしベンガードの魔術も、ミグの魔術も我々竜狩りには、とてもじゃないが真似のできるシロモノではない。」


俺は黙ってヴェスの講義を聞いていた、ただ不思議なのは今いるこの場に、それほどまでの魔術師は居ないのではないかと、この講義の意味自体に疑問を持ち始めた頃。


「そう、察しの通り、我々は魔術師ではないし、これは魔術師を目指す者達が受けられる術だ。」

ヴェスはサッカーボールくらいの大きな塊を、燭台のような器具に乗せて更に続ける。

「そこで、この魔石を使ってそれらと同じ現象を発現させる」


術を受けるにあたり、ヴェスから説明を受けたが、いまいち理解が出来ない。

促されるまま魔法陣と呼ぶべきか、その中心に座らされる。

言われたように目を閉じ深呼吸をして気持ちを落ち着かせようにも、どうにもうまくいかない。


というか、ヴェスはいつもいきなり事を始めるから心の準備が落ち着かない。

彼いわく、どんなことが起こってもいいようになるための訓練らしいが

正直あまりそうは思えない…。

ここに来ることを思いついた時は「そうだ!思いついた!」って言ってたし。


「始めるぞ」

ヴェスの声、まだ心の準備が出来てないです先生。

待って、と言う間もなく、感覚が捻じれだす、横か、縦か、意識が奥に行く感覚

身体が身体という感覚を失い、次に意識を認識できた時は大きな雷鳴を聞いた時だった。

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