第16話「ポリアの商人、フィジオ・ドルガ」
ツェドに近づき、仲間の情報を知るために、俺はポリアの商人フィジオ・ドルガの用心棒としてこの街に滞在している。
ポリアは大きな街で、富裕層から貧困層まで、それぞれがそれぞれの水準で暮らしている。
フィジオの家は代々商人の家系でその一人息子として生まれ、両親は既に他界し、幼い頃からフィジオが当主を務めているのだそうだ。
執事やメイドに囲まれ、教育や学問は問題なくこなせている筈、とフィジオはいう。
「お金は…ないんですけどね…」と弱々しく笑って頬をかく。
この男、気弱である、常に人の目を気にして周りを見回し、その割に伏し目がちに歩く。
ツェドにどう言われて小屋での殺人に加担したのかわからないが、今ひとつ掴めていない。
…どうあれ俺も目的があるから、こいつを利用しつつあらゆることに注意をしつつ達成を目指すのみだ。
まずは落ち着くために、フィジオの家を目指す。
そのために商街区を抜けて、住宅区へ向かう。
大きな商街区はポリアの中に3つあり、そのどれもが賑わっているのだという。
夜は夜で出店が増え、仕事を終えた者達がその日の仕事の疲れを癒やしに酒を煽るのだという。
人が右往左往し、前に進むのが難しい。
店には果物を扱う店、肉屋なのだろう、血抜きされた動物がそのまま吊るされている。
身なりに気を使う文化もあるようで、アクセサリーを作っている商人だったり
布生地を売っている者も居る。
この世界にきてから、こんなに大きな街に来たことがない。時代や世界が違っても人というのは賑わうんだな。
「あの、竜狩りさん、この辺りはスリや物乞いも多いから気をつけてくださいね」
「わかった、あとシデンでいい、あんたは雇い主なんだしな。」
緊張しているのか、薄ら笑いを浮かべこちらを伺うように諂う。
道中、スリや物乞い、物乞いとスリのコンビと戯れながら商街区を抜けると、辺りは徐々に住宅が増えてくる
歩き続けると一つ一つの家が豪華になっていく。
しかし、なかなか歩いた気がする…。気づけば住宅もぽつりぽつりと大きな邸宅になり石畳が続いている、富裕層が住む区画なのだろう。
歩くこと自体は問題ない、フィジオがヘトヘトになっている。
「なぁ、後どれくらい歩くんだ?かなり歩いているだろう」
「えぇ…、屋敷はもう少し遠いです、ただ、この辺りまでくれば馬車を手配できますから、あと少しです。」
喋るのも一苦労といったところで、息も絶え絶えだ。
そうしているうちに一軒家が見えてくる。中年の男性が馬の手入れをしている。
「あ、マリクさん」
フィジオの表情が少し晴れ、小走りに男性の元へ駆け寄る。
一軒家兼、フィジオの家の専属の馬車を扱う、いわゆるお抱えの運転手ってところか。
マリクと呼ばれた男はフィジオと親しそうに言葉を交わすと、俺が何者か尋ねた。
「竜狩りのシデンという、フィジオの用心棒として雇われた。」
明らかに不自然な間を作り、少しぶっきらぼうに返事をしたマリクは乗車の準備にとりかかる。
マリクの雰囲気からすると、フィジオに対する態度なんかがまずかったのだろう。
雇われている者としては、少しフィジオの立場を作るべきだったか。
無愛想にして人間関係を構築するよりは、円滑に事を進めるのには振る舞いを正さねばならないだろう。
出発前に、俺は用心棒であるため、何かあった場合に備えて同席はできないと伝え
マリクの隣に座る。
箱馬車に揺られ、またしばらくしてから徐々にフィジオの家と思しき家、というより屋敷といったほうがいいだろう、豪邸が見える。
フィジオは街に居た時に「お金はない」といっていたはずだが…
なんだこの巨大な敷地と邸宅は。
呆気にとられる俺をよそに、マリクはなれた様子で敷地内へ入っていく。
屋敷の門をくぐり馬車は屋敷の扉の間に停車した。
思わず屋敷をまじまじと眺めてしまう、端から端までが遠く真っ白な壁、敷地内の石畳、庭園は管理が行き届いている。
マリクはすぐ馬車から降り、中にいるフィジオを呼び、扉を開ける。
フィジオがひょいと顔を出す。
「おかえりなさいませ、フィジオ様」
細身で背の高い白髪の老紳士が落ち着いた色のスーツに身を包み、ネクタイを締め、白い手袋と、いかにもな佇まいで馬車から降りるフィジオを出迎える。
その後ろにこれまたいかにもメイドな格好をしたメイド達が頭を下げ主人の帰宅を迎える。
執事と思しき男性は俺に一瞬だけ視線を寄越し、すぐに主人のこの後の予定を確認した。
「ジャネス、こちらはシデン、ボクの新しい用心棒だ、失礼の無いように。」
紹介された俺はジャネスと呼ばれた男性に、マリクの時の事を考慮してなるべく角が立たないように挨拶をしたつもりだ。
かと言って、生来こんな豪邸に住んでいる人達と関わりを持ったことがないために所作が正しく行えたかはわからない。
「シデン様、私はジャネス・ビッドガードと申します。ポリアや屋敷内の事でご不明な点がございましたらどうぞなんなりとお申し付けください。」
柔らかい笑顔と共にきちっとした角度で頭を下げる。恐縮するほどの礼儀、それに威厳や風格を感じる。
続けて、ジャネスは続けた。
「恐れ入りますシデン様、私はフィジオ様への申し伝えなどがございます。」
「つきましては、誠に恐れ入りますが、使用人に屋敷内の案内をさせていただきたいのです」
そりゃ助かる、これだけ広い屋敷だ、道に迷っても困るしな。
「わかりましたジャネスさん、ではまた後程、街の事や色々聞きたいこともありますので、その時に教えてもらえると助かります」
ジャネスは静かに一礼しながら
「かしこまりました、私から説明させていただくのと、屋敷の案内を担当いたします使用人にも、なんなりとお尋ねください」と答えた。
「アーネス」
ジャネスにそう呼ばれた赤髪の女の使用人。彼女は返事とともに一歩前へ出る。
「アーネス・ヘネスコンティと申します、屋敷内外の案内をさせていただきます、よろしくお願い致します。」
彼女は獣人族のようだ、メイドドレスに身を包んでは居るが、尻尾が垂れ、カチューシャからちょこんと覗く猫耳で判断できた。
獣人族自体は始めて見るわけでない。
修行中、最寄りの集落に行くことがあったが、そこには亜人種がいてトカゲの様な人間や、鳥人間だのが居た。あの時はびっくりした。トカゲが話しかけてきたからな。
猫耳の獣人はお調子者で語尾に特徴がありそうなイメージだったが、彼女は全く正反対。
物静かな印象だ。
「よろしくお願いします、アーネスさん」
フィジオへの挨拶もそこそこに、彼女に促され敷地内を歩き出す。
ふとマリクと視線が合う、彼の視線は冷ややかなものだった。
この屋敷の関係者というのを示すものなのだろうか、赤い腕章を外している所を見かけた。
敷地内には背の高い植物が壁のよう聳えていて、迷路になっているみたいだ。
それに人気がなく、言葉少なにこの迷路に案内されたが、密事を行うには持って来いだ。
黙って彼女に付いて行き、迷路のゴールなんだろうか、少し開けたところに着く。
アーネスは獣人とは言え美人だ、これはあれか、初対面だけど俺のにじみ出る漢の魔力にあてられて、まさか惚れさせてしまったのか?
参ったぜ、全く。
という冗談はさておき。
「アーネスさん、俺があなた方の主人に関わるにおいて、敷地内を案内するにおいて、この場所はどんな意味が?」
アーネスは背を向けているがそれでもわかるくらいの殺気を放つ。
「関係?そんなものはありませんよ。アナタはここで死ぬのですから、シデン・ドラシェ・リラロキール。」
瞬間、両の手の爪が鋭く尖り、殺気を剥き出しにして、彼女は振り向きざまに襲いかかる。
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