第9話「3対300、そして」
コロド洞内、最深部。
俺達は圧倒的な存在を目の前に、ただ見ることしかできなかった。
「はじめまして、ヒトの子達」
倒したグール達の臓物が絡み合い、ヒトの形を形成した新たな生物は、俺達の言語で話しかけてきた。
「汚いグール共の身体だなんて、最低だわ」
そいつは自らの腕や、身体を眺めてそう言った。
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数時間前、コロド洞内
ここはもともと鉄や青銅、滋養に効くキノコなどが採れるただの洞窟だった
グールや、ゴブリンなんかが迷って住み着くことはたまにあっても、その都度駆除されてきた。
ここ半年ではグールが発生し、人が近づかなくなっていた。
瘴気が充満しているせいなのか、洞窟内は、洞窟としての様相からは歪な変貌を遂げていた。
ムカデによく似た姿の奇怪な植物、ヒトの指が密集したような者を背負った虫
ヒトの顔を模した様なキノコ。
地面は湿って泥になり、少し歩きづらい。
何より洞窟内に充満した悪臭が気分を害する。
洞窟内はさほど入り組んでおらず、分かれ道があったとしてもすぐに行き止まりで、基本的には一本道になっているようだ。
「ミラニット、シデン、気をつけろ、戦い慣れない怪異も出てくるかもしれない」
いつになくジェイディーの表情は険しい。
俺はミラニットに倣い、前後の音、気配を警戒する。
どこかに出口があるのだろうか、風が抜ける音が不気味だ。
何度かグールと戦った後、少し休憩をとる、会話は少ない。ジェイディーは言葉少なに敵の数が多い場合の対処、敵が大きい場合、強力な場合など、俺達の動きを確認する。
休憩を終え、それからどれくらい歩いたのだろうか。1時間か、もう少し長いだろうか。
少し開けた場所に出る。
「ここが最深部か。」
ジェイディーは奥を見てつぶやく。人が居た痕跡、木製のテーブルや椅子、木箱やピッケルなどがある。
人が使わなくなって久しいが、物が朽ちるにはまだ時間はそこまで経っていないはずなのに、どれも腐っている。
ヴェスから学んだ話で、こういった瘴気が溜まった場所には必ず変異した怪異がいて、主とも言えるそれらを倒し、吹き溜まりを浄化するのが定石と習った。
ここには何もいない、確かに瘴気は非常に濃いが。
「来る。」
ミラニットがつぶやいた。
何かが蠢くような、肉が蠕動するような、生々しい音。
辺りの壁を腕が突き破り、赤黒い液体が滴る。肉の壁だ。
呼応するように辺り一面で肉を突き破り、滴る液体の音。床をゆっくり這うような呻き声。
グールの群れが壁、地面から這い出てくる。
うなじがざわつく、後方に目を凝らすとグールの大群だ、20、30匹は居るだろうか。
「挟み撃ちか…」
ジェイディーが前方に向かい大剣を構える。
「ミラニット!シデン!背中は任せた!」
風の塊を俺達にぶつけつつ、ジェイディーは群れに飛び込む、ジェイディーを中心に爆発するかのように群れは飛散していく。
「シデン、行くよ」ミラニットはこれまで来た道の方を睨み、剣を抜く。
「ああ」俺も纏雷を最小で発現し、剣を構える。
同時に駆け出し、首を撥ね、喉を挿し、蹴り飛ばし、また斬る。殴る。
次々と倒れていく奴らに対し、俺は少し余裕が出てくる。
「シデン!後ろ!」そういうミラニットの後方にグール。
互いに踏み出し、互いの背中の敵を切る。
「はぁ…はぁ…、シデン、大丈夫?」背中越しに息を切らすミラニットが俺を心配する。
「はぁー、はぁー、…そっちこそ、大丈夫か」
戦いの緊迫が、体力を余計に奪う気がする、息も絶え絶えだ。
耳を劈く爆音。ジェイディーの方だ。
グールに背中に跳び乗られても、ものともせず、剣撃は一振りで少なくても数匹を散らす。
グールを掴み、ぶん投げる。
それでも絶え間なく、沸き出るグールの群れ。
隙ありと言わんばかりに襲いかかってくるグール達。
2,3匹を切り伏せ難を逃れるが、早くこっちを片付けて合流しなければ。
再び攻撃を再開し、ミラニットもまた敵を切り伏せ続ける。
「ミラニット!ジェイディーに加勢しろ!」
こちらを見ずとも、何を言っているんだと言い出そうとするより早く続ける。
「壁と床の発生源を何とかしないとジリ貧だ!グールはジェイディーに任せてお前は発生源を壊せ!」
「シデンは…!」どうするんだ、といいたいのだろう、考えがある。
爆弾に雷撃を込め、群れに投げ込む。爆弾の威力に雷撃が上乗せされ範囲拡大し、グール達の肢体が散る。今の一回で残りは10匹くらいか。
息を飲むミラニットに「はやく行け!」と告げ、グールを睨む。
ミラニットは踵を返しジェイディーへ合流する。
爆弾に雷を付与した瞬間、俺の身体が散り散りになるかと心配したが、うまくいった。
しかし、爆弾はこの後の発生源を潰す時のためにとっておきたい。
残りは3つ。こいつらも今ので爆弾には警戒するだろうからうまく当たってくれないかもしれない。
これまでの数分を思い返す。
…ミラニットの動きの速さにはあいつら追いつけていなかったな…。
瞳に力がこもる。
「体内に巡る血の流れを雷とし、体中に巡らせる。より強く」
ヴェスの言葉を思い出す。魔力を体内で練る。
「よし…」纏雷の発展形、『雷身』と名付けた移動法。
一度の青の光と雷鳴を残しシデンは姿を消す。間を置かず一匹のグールの首が宙を舞う。
瞬く間に次々とグールが倒れていく。
漸く反応したグールはシデンを爪で掻こうとするが、纏った電雷が身体を突き抜け、動きが止まる。
その間に顔面を刺し、首を撥ねる。
こちら側の最後の一匹を倒すと同時に雷身を解除、纏雷に戻す。
やはりこの狩術は消費が多い、まだ魔力は残っているが。
すぐに二人に駆けつけなくては。
既にミラニットは壁を燃やし、グールの出現頻度は緩和されている。ならばと爆弾を取り出す。
「ジェイディー!床の発生源を爆発させる!」
雷を纏った爆弾はグールを巻き込み発生源ごと砕いた。
「やるな!シデン!」
ジェイディーの嬉々とした声、剣速が増したように思える。
グール発生から、体感だと1時間位だろうか、ようやく自体は収束を見た。
俺達は肩で息をするように呼吸が荒れていて、それでも安心感から笑みが溢れるほどだった。
数多の屍体と血だまりが揺れる。
それに気づいたのはどこからともなく聞こえる微かな笑い声を辿っていた時だった。
ジェイディーの合図で俺達は一箇所に集まる。
ちょうど俺達と対峙するようにグール達の臓物が何かに引かれるように集まっていく。
その光景を眺めることしかできなかった。
臓物は人の形を成し、その肉の塊は話しだしたのだ。
「はじめまして、ヒトの子達」




