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26-④ 猿の手でもかりたい

 それは突然だった。


 空から架かる無数の光の梯子が、突如として塵になるかのようにして、跡形も無く消え去った。


 それだけでは無く、

 

 ぎょぎょ……ぎょええ……ぎょええ……

 

 全ての魔物が苦しみだしかと思えば、まるで窒息でもしたかのように息絶えた。


 なんの脈絡も無く、突然訪れた平穏に、メンバー全員が困惑した表情を浮かべる。


 そしてまるで、それを察知でもしたかのように、放送室でも、'「それじゃ。いきましょか。」'なんて中性的な声の主が言ったかと思えば、おそらく放送のスイッチは入れたままの状態で、退室していったような音が響いた。


 会社の敷地内は、ただただ静寂に満ちる。


 ユウトは構えていた銃火器を下ろして、他のメンバーと合流でもしようかと思案していた時だった。


 まだ2トントラックほどの大きい姿のままのアルバラが、ユウトの方に寄ってくる。


 ユウトの方からアルバラに声をかける。

 

「……礼は言わないよ。あと、鹿肉もちょっとまってね。リンも任務でちゃってるしさぁ。」

 

『…………。』

 

 『約束を反故にする気か。』なんて、アルバラからの文句があっていいと思って言ったユウトの言葉だったが、アルバラは嫌味の一つも返してこない。


 ユウトは違和感を覚えながら、アルバラの様子を伺う。

 

「……。なに。どっかやられたの?」

 

『馬鹿をいえ。あんな雑魚。肩慣らしにもならん。』

 

「……………………だよねぇ。」

 

 アルバラの様子には違和感しかない。


 浮かない表情。というのが正しいのかも分からないが、その姿を小さく戻さないことからも、どこか緊張したまま、警戒を解いていない様子だった。


 ユウトは、そのアルバラの様子から考察し、すぐに戦闘体制には戻せるように気を張り直した。

 

(……まだ何かあるのか?……。)ユウト

 

 その時だった。

 

 フワリ

 

 ユウトとアルバラがいる場所から、数メートル離れた所に、男性が降ってきた。


 その男性目線で言葉を変えれば、会社のビルの屋上から地上へと飛び降りた。ということになる。


 漆黒の髪に漆黒の瞳。猿の手オリジナルTシャツ。誰が見てもの美男子。

 

 その男性と、ユウト、アルバラの視線が合う。


 その一瞬で、アルバラの全身の毛が、よだつ様に逆立った。

 

 バッ、シュ

 

 三角形をした黒い刃が地面から無数に飛び出し、アルバラとユウトを襲った。


 2人は持ち前の異常な反射神経で急所を避けたが、手足や皮膚に黒い刃が突き刺さって血が飛び散る。


 ユウトは直感的に感じていた。

 

(今の攻撃……!!……本気で殺しにかかって……!死んでもおかしくなかったっ…………!!!)

 

 黒い髪の男性は、誰にも聞こえない小さな声で呟いていた。

 

「……あ。やば……。範囲しくった……。」

 

 ズガガガガガガガガッ

 

 ユウトが持っていた銃火器で男性に反撃する。


 その攻撃に容赦は無い。だが、

 

(どうなってる?!……。)ユウト

 

 避ける様子もない男性は無傷だった。

 

瑠璃天惺羅(るりてんせいら)……!』

 

 本来は全体攻撃である筈の瑠璃天惺羅が、男性1人に集中して放たれる。

 

 バチッ

 

 今度はハッキリと目視で確認できた。


 男性の周囲を半透明の黒いバリアのような物が覆い、攻撃を防いでいるようだった。


 男性が、軽く片手を構える。

 

「………………っ!!!!!!」

『………………っ!!!!!!!』

 

 背筋の凍るような悪寒が走った。


 殆ど反射的に、ユウトとアルバラはその男性から距離を取る。


 それを見た男性は、興味もなさそうに、構えた手を下ろしてユウトとアルバラの方に向き直った。


 男性が話す。

 

「核師って…………。ジャンクを討伐する団体だよね……?……それ。ジャンクだけど。」

 

 それにユウトが答える。

 

「………………知ってるよ。」

 

 それだけの言葉を交わして沈黙が流れる。


 ユウトの一歩後ろにいるアルバラは、酷く顔を顰めて、男性に対して強い警戒姿勢を取っていた。


 また男性が話す。

 

「…………。やっぱりあの時の。……。あんな状態だったから、逃げた先での垂れ死んでると思ってたよ。」

 

『……………………っ!……グルル……。』

 

 初めて聞く、アルバラの獣のような唸り声が響いた。


 ユウトがアルバラに聞く。

 

「…………知り合い?」

 

『………………。私が、好きこのんでテンジョウのもとに居たとは思わんだろ……。』

 

「…………一応聞くんだけど。あいつ"1人"にやられたの?」

 

『…………。』

 

 ユウトの言葉にアルバラは返答しなかったが、それは同時にYESということだった。

 

(…………少なくとも…………。僕の見立てじゃ……。"姉妹"以外の誰も。アルバラに歯が立つ核師は存在しない……。この男1人で、アルバラを討伐寸前までおいやったんだとしたら…………。相当の実力者…………どころじゃない………………。化け物だ…………。)

 

 すると、男性が真横に出した右手に、彼の身長よりも大きな黒い鎌が、どこからとも無く姿を表した。

 

 ダッ

 

 次の瞬間には男性は踏み込んでいて、アルバラに向かって一直線に鎌を振り下ろす。

 

(『……受けっ……!いや!……防御の上から断ち切られるっ…………!!』)アルバラ

 

 ジャキンッ

 

 薄皮一枚で回避したアルバラの、黄金色の毛が宙に舞った。

 

 ズガガガガガッ

 

「……えっ…。」男性

 

 まるでアルバラを守るように、ユウトが男性に発砲する。


 当たり前のように銃弾をよける男性の表情は、少しばかり驚いているようで、弾丸を躱わしながら、再度アルバラに接近している。

 

瑠璃槍煌羅(るりそうこうら)っ……!』

 

 アルバラの9本の尻尾が一点に集まって男性の方向に向き、そこからビームのようなものが放たれる。

 

 ドッ

 

 少なく見積もって、会社の敷地の一部分を完全に大破させる威力の攻撃が、男性に直撃した。


 アルバラを守るような動きをしたはいいが、容赦のないアルバラの攻撃に、ユウトは若干、男性の身を案じて顔を顰める。

 

「いや……。殺して無いよね……?」

 

『こんなもので奴が死ぬか……。』

 

 アルバラの言う通りだった。


 アルバラの攻撃によって土煙のあがる場所から、鎌を構えた男性がアルバラに向かって飛び出した。

 

(『……無傷かっ……!』)アルバラ

 

 それどころか、服が汚れている様子もなかった。


 アルバラに向かって男性が攻撃を繰り出す。


 それを阻むように、ユウトが飛び出した。


 ナイフを使って、男性の鎌の刃を受け止める。

 

「?!!!!」ユウト

 

 が。まるで紙切れのようにナイフの刀身の中間地点まで鎌の刃が通る。


 そしてそのまま、ナイフを分断してユウトの体に届きそうな所で。


 鎌の動きが止まった。


 ユウトは冷や汗を滲ませる。

 

(…………体……。真っ二つになったかと思った……。)

 

 そして、鎌を振り下ろしている男性も、随分と驚いている様子で、目を見開いて静止していた。


 男性が言う。

 

「………………あぶな……。」

 

「…………どうも…………。」ユウト

 

 アルバラ、ユウト、男性、が、完全に静止して数秒の時間が流れる。


 男性が話す。

 

「…………何でジャンクを……?」

 

「…………。」

 

 おそらく、何故ジャンクを守るような動きをするのか。と聞きたいようだった。


 ユウトが答える。

 

「………………。取り敢えず。社員を守って貰ったのもあるし…………。それに。僕と従属契約結んでる、僕のジャンクだ。………………勝手に討伐しないでくれる?」

 

 普段なら、ここで『お前のものでは無い。』なんて、アルバラの言葉が聞こえそうなものが、アルバラは黙って男性を警戒しているだけのようだった。


 男性は不思議そうな顔をして言う。

 

「……………………どっちが(あるじ)?」

 

(煽るつもりは無いんだろうけど……。アルバラと比較したら僕の方が弱いから言ってる言葉だな……。これは……。)

 

 そんな事を思いながらユウトは答える。

 

「……僕だよ。」

 

「はいはいはい。そこまで。しゅーりょー。もぉ何してんの?お得意さんやでぇ?」

 

 中性的な声の主が会話に割り込んで来た。


 声のした方に視線を向ければ、1人の男性と、小学校高学年くらいにみえる男の子が、こちらに向かって近づいて来ていて、数メートル離れた所で歩みを止めた。


 それを見た黒髪の男性の手からは鎌が消え去り、まるで何事も無かったかのように突っ立っている。


 中性的な声の持ち主は、どうみても男性の具体だが、女性用の着物を着ている。瞳の見えない糸目に、さらさらの薄紫の髪。


 男の子の方は、猿の手オリジナルTシャツにサロペット。柴犬の様な耳、鼻、髭、尻尾を持っていた。


 それを見たアルバラが、警戒姿勢のまま呟く。

 

『…………貴様……。』

 

 どうやら中性的な声の持ち主、オウジとも顔見知りのようで、アルバラの言葉にオウジが返す。

 

「これはこれは。"青のアルバラエシュリオン"。生きてたんやねぇ。あの時は、がっぽり儲ける予定やったのに。取り逃して残念やったわぁ。」

 

 アルバラが、オウジを威嚇するような姿勢をとる。


 ユウトはアルバラに聞く。

 

「………………猿の手のオウジって人だよね?…………。彼。何のこと言ってるの?…………青?…………なに?…………。」

 

 それにアルバラは、ゆっくりと。静かに答えた。


『………………奴は……。"狒々(ひひ)"の適合者だ……。"白の英知"は……。私らでも知らぬことを把握している…………。』

 

「…………"狒々"?……。僕が知ってるのは"麒麟""九尾""猫又"の3つなんだけど……。」

 

 そんな会話を気にもしていないのか、オウジが話す。

 

「今日は九尾の討伐に来たわけやないのよ。取り敢えず。お茶にしませんか?」

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