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「まぁまぁ、落ち着けよ」
「あー、じいちゃんが悪かったって。確かにこんな意味わかんねぇ奴らに囲まれりゃ怖かったな。すまんすまん」
先程まで私を挟んでいがみ合っていた2人は今は仲良く私を囲んでいる。こいつら実は仲良しか?
「意味わかんねぇ奴らってなんだよ、まぁ確かに現地人ではねぇけど」
「結局山本さんってなんなの?人なの獣なのヤクザなの?」
「俺か?俺は獣人つって、人の獣両方の姿を持つハイブリットな人種でなー。因みに俺は雪豹の獣人だ」
雪豹…確かに白っぽくて丸いモフっとした耳に、長くて太いモッフモフな尻尾してますよね!そこはなんか納得…で、この尻尾はいつまで私の腰に巻きついてるんですかね??
いや、それよりもなんか変な言葉が聞こえた気がするんだけど??
「ハイブリットな人種って何?」
「仕事は、まぁこっちで言う何でも屋みたいなことしてる」
「無視ですか?無視ですか??」
「確かに何でも屋見てぇなもんだな」
あの、そこ2人して無視しないでください??
てか何2人して勝手に話進めてんの。
お前らやっぱり仲良しだろ。
「じいちゃん、ハイブリットな人種ってなによ??」
ダメ元でじいちゃんに聞いてみれば適当な答えが返ってくる。
「あ?なんかお得なんだろ」
「お得な人種」
…うん、もー意味わからん。
もういいや、人種については無視しとこう。
とりあえず人外なのね、
獣人とか本当にファンタジー世界の人なのね。
あー、それで?職業は…何でも屋?
銀○みたいな?いや、でもこの見た目と場合だと…
「つまりはヤクザなのね」
「俺の世界で言うと冒険者だな」
ぼ、冒険者…?
「つまりアレですか某モンスター狩り的なやつですか。
肉塊を焚き火でグルグル回しながら『上手に焼けましたー!』とか言っちゃうやつですか」
「まぁ、そんな感じだ」
「じいちゃん」
「懐かしいなぁ、俺も若菜に会う前はヤンチャしたもんだぜ」
「じいさんは今でも現役だろ、ついこの間もドラゴン狩りしてたじゃねぇか」
「あ?幾ら老いたからってそこまで劣ってねぇからな。ドラゴンくらい普通に狩れんだろ」
「異世界の唯の人間が狩れる獲物じゃねぇけどな。まぁ、爺さんだしなぁ」
「ゲームの話?」
「「リアルの話」」
「いやいやいや、どこにドラゴンなんているのさ。ドラゴンっぽい人ならまぁそこにいるけど…リアルにいたら怖いよね…まぁ、既にこの場が非現実的すぎてアレなんだけど」
なんてったってファンタジーな世界のファンタジーな住人らしいし。山本さんなんかハイブリットな人種らしいし。
「写真あるぞ、ほれ」
「…合成?」
写真には合成としか言えないような世界が広がっていた。
普段着のじいちゃんが仕事用の包丁を片手に仏頂面でピースをしている。余りにも似合わないポーズの背後には見たことの無い…いや、これこそドラゴンというようなどデカい生物が横たわっていた。
…今の写真加工技術って凄いよね。
「マジだって、なんなら今から行くか?ちょうどこの時期アレが大量発生するんだ。ちょっくら殺りに行くか」
「あー、あれな。明日は店も休みだし、久しぶりに体動かしに行くか」
「は?行くってどこに?」
「どこって」
「なぁ」
いつの間にかがっしり確りと山本さんとじいちゃんに挟まれて、逃げることも叶わず無駄に威圧感の高い顔×2のサムズアップをくらう。
「「ひと狩りいこうぜ!!」」
「お断りします!」
全力で断りの声をあげた私は山本さんと祖父にまたしても抵抗虚しくズルズルと無理やり連れていかれるのだった。
◇
大学の夏休み、祖父母の経営する老舗の和菓子屋に私はバイトに来た。
配達先の山本さん家に訪れればそこにはヤクザみたいな見た目でケモ耳としっぽを生やした山本さんに出会った。
無理やり連れていかれた部屋の中にはこれまた見たことの無い姿の人々で溢れていた。助けに来たはずのじいちゃんも何故かそんな人々に慣れしてるし。実はおばあちゃんは彼らと同じ世界の人だったって言うし…!
自称ハイブリットな人種の山本さんと、異世界で剣聖なんて呼ばれてたじいちゃんに聖女のばあちゃんに囲まれて。
私はどうやらこの夏、異世界旅行へと行くらしい。
「ほら綺麗だろー」
「おー、今年も大量にいるなぁ」
「…うわぁ( = = )」
眼前に拡がるのは様々な色彩に彩られた自然豊かすぎるどこかの山奥。見たことの無い生物に大量のアゲハ蝶みたいな大きな生き物は何故か昼間だと言うのに星が見える不思議な色をした空を飛び交っている。
山本さん家の裏庭にあるこじんまりとした蔵のドアの先に広がっていた見たことも聞いたこともない不思議な世界は正しく漫画やアニメで出てくるファンタジーな世界。
あぁ、本当に…
山本さん家はファンタジーで出来ている。