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体育会系インドア派!  作者: 日なた日かげ
残念系日常
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残念主人公の日常


僕"色々透"は、私立常陸高校二年、バスケットボール部に所属。身長は175cmとバスケット界ではいたって普通で、体型はいわゆる細マッチョというやつだ。

高校生は誰しも青春に花を咲かせていて、僕もその1人だ。ただ僕は、世間一般的に想像される『色恋沙汰』に青春を浪費するつもりはない。青春とはつまり部活であり、また2次元である。昼夜問わずに部活に心血を注ぎ、オタク活動で金欠に陥る。

これが僕の青春だ。

また僕は高校でも稀にしかお目にかかれない


『ー幻獣ー K I R I N 種 』


である。KIRIN種とはつまり


K…彼女

I…いない

R…歴

I…イコール

N…年齢


のことだ。(イコールのスペルはIではなくEだよ!という問題に関しては高校生のノリと勢いと若さでスルーする。)

かれこれ約17年間生きてきて、その手の事(いわゆる"恋愛"と呼ばれるもの)が何もなかったことに関し、思う事がないわけではないけれど、それでも僕は構わないと僕は思う。

そもそも"恋愛"だけが青春といわけではあるまい。むしろそのような考え方は価値観の押し付けだろう。だいたいリア充はそんなに偉いのかよ。仲良くカップルで登校して、一緒にお昼を食べて、帰りに寄り道なんかして…。 僕はそんなのが羨ましいなんて全く思わないね。ふんっ。


「(それにしても今日はおかしいな。雲ひとつないのに雨が降っているのかな?目の周りが濡れてるや。)」


そんなくだらない事を考えつつ、ボールを手の中で回しながら歩いていると、学校へ着いた。まだ誰もいない学校。体育館の鍵を個人的に所持している僕は、鍵を開け閑散とした体育館に足を踏み入れる。

お気に入りのシューズに足を通し、紐を縛る。 この妙に静かな体育館で、1人紐を縛っているという日常も、僕は不思議と嫌いではない。


「(こんな回想すれば、僕も日常系ハーレムラノベ主人公みたいになれるのだろうか?)」


かれこれこのくだりを一年間続けているのだが、効果は見ての通りである。

いつものルーティンも終了し、自主練習に取り掛かる。自主練は毎朝一時間半みっちり行う。これは自分で言うのもあれだが、純粋な向上心ゆえの行動である。

いや別に、「あの人、毎日1人で自主練してる!すごい!」みたいな評価が欲しくないわけではない。うん。むしろ欲しい。その付加価値。『ただしイケメンに限る』抜きでお願いします。

実のところこの学校のバスケ部は名門と言われるだけあって、こういうところで他との差別化を図らなければやっていけないのである。


がらがらがら


重い鉄の扉が開く音がして目をやると、マネージャーのみーちゃんこと"小鷹 みゆ"が入ってきた。


「おはよー。今日も朝はやいね!」


「おはよう、みーちゃん。いつもながらみーちゃんは眠そうだね。」


「え?そんなことないよぉ。ほら、わたしおとなだし!」


「そっかぁ。みーちゃんの中の大人ってのは、ジャージのボタンを掛け間違えていて、さらに靴下も表裏逆に履いてくる人のことを言うんだね。」


我が部のマネージャー兼マスコットのみーちゃんは身長145cmと幼児体形である。ただこれは貶している訳ではなく、むしろ褒め称えている。幼児体形は可愛いの重要なファクターの一つなんだ!

世間には『ロリ巨乳』なる、何ともけしからん言葉があるが、僕はそんなの許さない。とか何とかSNSでうっかりつぶやいた日には、軽い炎上を起こしたのである。


「わわっ、こ、これは!そ、その、そ、そう!わざとだよ!わざと!」


何とも頭の悪い返事を返してきたみーちゃんに、はいはい、とだけ伝えておく。お分かりの通り、この子、アホな子です。天然なのです。2次元において"天然"はかなり強力な武器ともなりえるが、リアルだとちょっと…。彼女には数々の武勇伝があるが、まぁ詳しいことはおいおい。

くだらない会話もそれきりで、僕は黙々と自主練に励む。基本うちの部活は朝練はないので、他に人が来ることはあまりない。よく来るやつもいないでもないが、今朝はいないらしい。ゆえに1人で黙々とこなす。


朝練を終え、制服に着替えて自分の教室に向かう。体育館からは遠い僕の教室。その目的地までの道のりは僕にとっての地獄である。

廊下でいちゃつくカップル、女子に囲まれるチャラついたイケメン。好きな男子の話で盛り上がる女子たち…。


「(ちっ、どいつもこいつも。)」


最近の若者から言わせると高校二年は"華のセブンティーン"とやららしい。なんだよそれ。語尾にカッコ付けで"ただし美男美女に限る"って明記しろよ。今まで陽の目を見なかったKIRIN達が、勘違いを起こして危うく大火傷しちゃうだろ。お花畑は脳内だけにしてくれよ…。すみません全然うまくありませんでした、ごめんなさい。あ、ちなみに『花のセブンティーン』と『お花畑』をかけてます。

そもそも春は出会いの季節とか言うけれど、僕にとっちゃ春にある出会いなんて春アニメのキャラとの邂逅くらいだし、リアルではピンク色のオーラを一日中目にしなくてはならないという、新手の拷問とさえ思う。

あーやだやだ。この周りに流されている雰囲気。大衆のイメージによって形成された【出会いの春】を、甘んじて受け入れているその姿勢。

その点僕はその雰囲気に流されない。強い意志があるからね。決して流れに乗れない訳ではないよ?【出会い】の流れに乗り遅れてなんかいないんだからねっ!よし、決まった。まぁこんなくだらない嫉妬なんて起きないし、イラつきもしないけれどね。


「(おっと、下唇から血が…。どうしたのかな?そんなに強く噛んでた覚えはないんだけどなぁ。)」


マイワールドから無事に生還した僕は不意に話しかけられる。


「「とーおーるー!」」


「おお、紗夜、真夜!どうしたんだ?」


この同じ顔をした2人は、女子バスケ部所属の双子。快活で明るい2人は男子からの評価も高い。苗字は向井。


「「とりあえず!どっちがどっちだー?」」


「右が紗夜で左が真夜だろ?」


「「ちぇー、またあたりだよー。」」


この2人、双子だから当たり前ではあるが、それを考慮しても似過ぎている。事実この2人を見分けられるのは、彼女らの家族と僕だけである。

なぜ僕はわかるのか?って?

あなた達は経験がないだろうか。アニメや漫画、ゲームにおいて、キャラ判別が極めて難しいくらいに互いが似ている作品を。無名のB級ギャルゲーを数多く嗜む紳士な僕は、そのような経験に数多と襲われ、結果このような能力が身についた。

正直B級ギャルゲーとかじゃなくても、メジャーなところでもあるよね。うん。髪型とか違うだけでみんな一緒やん…みたいな作品。


「で?どうしたんだ?急に。」


「そうだ!そうだった!あ、あのさ、ちょっと相談に乗ってよ。」


少し恥じらいを見せながら紗夜はそう切り込んだ。あまり見たことのない表情に内心あたふたしたものの、表では平静を装う。何てったって僕は、KIRIN歴17年。この頬を赤く染めた顔の原因である悩みの中心人物が僕ではないことくらい理解している。この手の話は、僕には無関係。こんなに可愛い子がね。ここは紳士的にクールに対応しなー


「顔赤いニヤけてるキモい。」


おっかしいなぁ。さっきの恥じらいだ表情はどこへ行ったのかなぁ?顔赤い?だれが?ぼく?風邪かな?うん。風邪だ。全部妖怪のせいだ。


「ほら紗夜!ちゃんと聞いてもらいなよ!」


横にいる真夜が紗夜に言う。


「そ、そうだね。あ、あのさぁ…」


その上目遣いは反則ではないだろうか?アンスポーツマンライクファールでは?え?いいの?ぼく本当にいいの?ぼくで?も、もう、ゴールしちゃってもいいの?

なんてな。これは孔明の罠だ。知っている。期待するだけ無駄だ。そもそも、こんな廊下のど真ん中でこんな可愛い子が告白なるものを、中二こじらせた消費系オタクスポーツマンにするなんてな。ありえないありえない。いやまぁ可能性はなくもないな、うん。

この時の僕はこの話が"相談"である事を忘れていたりする。


「あのね、私、青木くんが好きなの!だ、だからさ、協力してよ!」


どうやらやはり諸葛孔明の罠だったようだね。こんな話を急に廊下のど真ん中で出来るところは、この2人らしいところではある。

この話が仮に物語だったりしたら、きっとレビューに『相談持ちかけてから双子が切り出すまでが超展開すぎクズ作品。』とか『説明不足の駄作』とか『作者絶対キモオタ非リア』とか書かれるんだろうな。

いや待て、3つ目は否定はしないが関係はないだろう!僕も泣くぞ?


「僕でよければ協力するけど、ホームルームも始まっちゃうし、詳しくはまた今度にしよう!ね?」


3人で向かうは校舎1階の一番奥の教室。見た目こそ他のクラスと変わりないが、中を見れば違いは明確。

教室に入ると漂う制汗剤の混ざり合った匂い。放置されたダンベルやおもり。壁際に貼られたクラスメイトが載っている地元紙や飾られたトロフィーの数々。

そう。このクラスは


『スポーツクラス』


いつもと変わらぬ光景を目にしたところで、真夜が呟いた。


「私も後で話しあるから…。」


主人公特有の"なんかキーになりそうな会話だけ聞き逃す病"とか発症してない僕は、わりと明確に聞こえた。



この2人が持ち込んだ相談が、こんな僕の日常を壊すことになるとは、この時は知る由もなかった。



みたいにラノベ主人公風に言ってはみたものの、正直こんな相談事は日常茶飯事。みんなの相談役にも抜擢されている不肖わたくしでありますが、いや確かに信用されていて嬉しいのではありますが、いつもどこか自分は常に相談内容からの圏外感が否めないのでありまして…。いつかは自分が相談役ではなく、相談の話の中心にいたいなぁ。なんてー


♩ぴろーん♩


先日携帯に入れた有料疑似恋愛ゲームの運営からの通知が来た。


「(デュフフ。これは楽しめそうだ。)」


別にこういうゲームをやっているから、相談役を担っているわけではない。

そもそもリアルでの恋愛はギャルゲーとは全くもって違う。真にそう思うよ。


リアルの恋愛なんて

ギャルゲー程難しくないもの。


新しい女の子のルートを出現させるために、無意識下に課金ボタンを押し、慣れた手つきでパスワードを打つ。


「さて、きょうもがんばりますか!」


つぶやきに呼応したかのように、平面世界の中の女の子が


『今日も頑張ろうね!』


と返してくれる。



僕はこんな平凡な日常も、不思議と嫌いではない。

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