↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
秀吉「俺が、天下を取る!」  作者: スグル【戦国時代好きの40代】


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
34/34

【34】死の床

天下統一から八年後。老いた秀吉は、死の床についていた。天下を取り権勢を極めながら、孤独に苛まれた日々を振り返りながらー

【1598年 8月 大坂城にて 豊臣秀吉】


 本当は俺はずっと、信長様にお仕えしていられれば、それだけで良かった。


 特に、組頭にしてもらった頃が、一番幸せだった。あの頃の俺は、とにかく ただ信長様のお役に立ちたかったんだ。そりゃ、出世させてもらえるのも嬉しかったよ。信長様に認めてもらえているんだって、実感できたからな。


 でも俺には学もねえし、家柄だって良くねえ。だから俺は、信長様の役に立つためなら、命がけで何でもやった。信長様も、俺をどんどん出世させてくれたよ。でも農民の家に生まれた俺には、家来なんて一人もいなかったから、自分でも必死に家来や味方を増やすようになった。


 そのせいで俺は〈天性の人たらし〉なんて呼ばれるようになった。だが天性だけで、人を味方にできるはずがねえんだよ。


 どうしたら、人を味方にできるのか考え抜いて、あらゆるものを利用した。言葉だったり態度だったり損得だったりな。そうやって、だんだん俺にも家来や味方が増えていった。妬(ねた)むやつや、足を引っ張るやつも同じくらい増えたがな。まあ 俺も、行儀の良いことばかりしてきたわけじゃねえから当然だ。


 それで、敵は敵、味方は味方って、割り切ってしまえれば良かった。だが いつからか俺は、味方すらも信じられなくなってしまっていた。どいつもこいつも本当は、俺に敵意を抱いているんじゃねえかって、疑わずにはいられなくなったんだ。


 特に、頭が良くて先の先まで読んでいるようなやつは、いつか俺を裏切るんじゃねえかって、いつも疑い怯えていた。自分で有能な家臣を増やしたくせにな。でも本当は、俺に仕えていた家臣は誰も、俺を裏切ろうなんて考えちゃいなかった。そんなやつらを、俺は勝手に疑い怯え、遠ざけ、殺してきたんだよ。俺から人が離れていったのも必然だ。


 そして、自分がそうだからって、信長様も俺を疑っていたのかもなんて、馬鹿なことを考えたこともあった。だが信長様は、誰のことも疑ってなんかいなかったんだ。敵対するやつや、使えねえやつには容赦なかったけど、信頼した家臣を疑ったことはなかったんだ。明智光秀のことですら、死ぬ直前まで信じていたんだろう。


 信長様が死んですぐ、俺は信長様がやりたかったことを、代わりにやるって決めた。俺にしかできねえことだったからな。手段も選ばなかったから、織田家を乗っ取ったと言われても、仕方がねえだろう。


 北条を倒して、この国を統一したのは、何年前になるのかな。でも信長様の夢だった天下統一を、俺が代わりに成し遂げたはずだったのに、あまり嬉しくもなかったんだ。どんな祝いの言葉も貢ぎ物も、白々しく感じていた。


 それがなぜなのか、今なら分かる。俺は自分がやってることを、信長様の夢だったって自分に言い聞かせていただけなんだ。初めは本当に、信長様の代わりをやるのが自分の夢だって思えていたのに、いつからか、それが変わっていってしまった。


 天下統一なんていっても、借り物の夢が叶ったってだけなんだ。そんなもん、嬉しいはずがねえんだよな。


 大名が全員、天下を取って国の頂点に立ちてえなんて、思っているわけじゃねえ。俺も本当に、この国の頂点に立ちたかったのか?


 違うだろうな…。じゃあ信長様が死んだ後、俺は本当は、何がしたかったんだ。俺はどこで、道を間違えた?俺の夢は何だったんだ?


 すべては、夢のまた夢か。


 死ぬ前に一つだけ、今の俺が本気で望んでいることを言わせてくれ。天下は誰のもんになっても良い。秀頼のことだけは、守ってやってほしい。



【8月 大坂の屋敷にて 黒田官兵衛】


 秀吉様が死んだか。驚異的なほど、多方面に渡る才能を持ち、努力も惜しまなかったが、天下を取った頃からは、明らかにおかしくなってしまっていた。


 信長様の夢を自分の夢にすると決めたなら、とことんまで貫けば良かったのだ。農民の家の生まれという劣等感からか、人を疑う悲しい癖があったが、いつからか自分の夢まで疑い出してしまったのだろう。


 自分が、あの信長様の代わりになれるのか、とな。


 だが、誰も信長様にはなれないんだよ。そして、誰も秀吉様にはなれない。


 そもそも、夢だなんて いかがわしい言葉に酔うべきではなかった。秀吉様にあったのは、野心と欲望なのだからな。天下を取ってからは、保身も加わった。だが、それ自体が悪いのではない。


 夢だなんて自分に言い聞かせるから、それが本当の思いと乖離(かいり)していくことに苦しんだんだ。


 明国攻めを強行したのも、苦しみから逃れるためだったのだろう。立ち止まったら、息が詰まってしまったのだ。


 あの二度の無意味な出兵のせいで、豊臣政権への反感が増した。国内を平定したなら、兵たちを建設や物流、治安の維持などに従事させれば、国は富み、政権への支持が高まったはずなのにな。


 秀吉様に向かうはずだった反感は、まだ政権の中枢にいる石田三成が浴びるのだろう。


 三成には気の毒だが、俺は豊後に帰って、今度こそ水の如く生きさせてもらうよ。



【8月 伏見城にて 徳川家康】


 秀吉の死の間際に、天下は誰が取っても良いが、秀頼は守ってくれと言われた。


 言われなくても、もちろん天下は頂くつもりだ。秀頼をどうするかは、周りの大人の態度次第だよ。


 それにしても秀吉って、似合わないけど意外とロマンチストだったんだろうな。あの頃に戻れたらとか、死んだ信長の夢を自分が代わりに…なんて、大の大人は普通は考えないよ。


 俺はそういうのを聞くと、虫酸(むしず)が走るんだ。政事や軍事にロマンを重ね合わせるのは結構だが、それはもっと平和な時代にやることだよ。


 秀吉は才能に溢(あふ)れる男だったが、殺伐としたこの時代には、実は向いていなかったのかも知れない。でも、あいつなりに頑張ってくれた。俺の天下統一のために働いてくれたんだから、感謝し ているよ。


 後は俺に任せて、地獄でまた、信長の従者にでもなれば良い。



【地獄 柴田勝家と藤吉郎】


「おい、藤吉郎」


「あれ、柴田殿?なんで…?」


「お前、ここがどこか分かっているか?」


「ああ そうか。俺は死んだのか。ここは地獄…」


「そうだ。俺は猿関白に敗れて、先に死んだ。地獄で、お前が来るのを待っていたぞ」


「柴田殿を破った時、俺は関白ではありませんでした」


「細けえこと言うな。地獄には関白も太閤もねえ。出世もねえぞ」


「出世なんて、望んでいませんよ」


「ああそうか」


「それで、信長様は…?」


「ああ、お前のことを待っているよ」


「待っている?」


「なんだ、おかしいのか?」


「…いえ」


「さあ、急いで行くぞ。ボサっとしてる暇はねえぞ。

 なあ…元・天下人よ」



お読み頂きありがとうございます。星で評価やブックマーク登録して頂けると、今後の創作の励みになります。よろしくお願い致します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。