何人目かわからない男子
最初は遊び半分だった。
ただの軽いノリからだった。
「なぁ朝霧。私と付き合えよ」
たった二言。それだけで、男子たちは驚いた顔をして何も疑わずに私と付き合う。
私には、この顔と体がある。
だから、三年生の後半まではこれで面白おかしく生活するつもり。
でも、こいつ。
朝霧だけは違う。
面白くもおかしくもない男子。陰気なやつで、集合写真はいつも隅。
目立ってるところと言えば、女の子みたいなボブヘアの白髪と左目隠し。
あとは……
「いいですよー」
女の子みたいな間延びした高い声。本当に男かと疑いたくなる。
「へぇー。いいんだ。私さ、結構肉食だよ?いいの?」
こう言えば、ほとんどの男は鼻の下を伸ばす。
でも……
「そうですかー」
これだけ。
「え、私、肉食だよ?」
「なるほどー」
もしかして、私の言ってることがわからない?
男なんて、1日に1回は自分のブツを握ってるらしいけど、まさか、こいつはそれをしていない。いや、それらしい行為をしていない。
「まぁ、いいや。じゃ、今からカレカノな」
「はいはい。わかりましたー」
なんとも淡白。どう考えても、普通の男子の返事じゃない。
*
「えー?幽霊と付き合ったの?」
帰り道に、友達の1人が言う。
「幽霊?」
「そ。朝霧の名前。あいつさ、結構有名だよ。あの髪と名前で」
幽霊なんて名前、聞いたことない。ま、あんなガリガリで肌が白けりゃ、有名か。
「へえ、どんなやつなの?」
「……んー。喋らないっていうか、独り言も言わない……頭の中で完結してるっていうか。なんか、障害みたいな」
「は。言い過ぎじゃん」
「でも、そうなんだよ。昼休みは毎回いないし、話したことあるんだけどさ。全然話さないの。しかもさ、おっぱいも見ないの。やばくない?男子だよ」
「っはは。ほんとだ障害じゃん」
なるほど。朝霧はまだまだ知らないことが多い。私はこうして、男どもの情報をゲットして的確に遊んできた。
我ながら、天才。
*
今日の昼休みは朝霧と弁当を食ってやろう。アイツを逃さないためにね。
そう心で意気込んで、朝霧の席に近づく。でも、朝霧はもういなかった。
帰宅部特有の颯爽帰宅ってか。
「は。面白いじゃん」
そう言って、朝霧の席に座る。
朝霧が来ないなら、こっちから待つか。
でも、何十分待っても朝霧は来ない。弁当食ってないから腹減ってきた。
そう、来なかった。
「おや?島風さーん?」
ハッとして顔を上げると、朝霧がいた。
「ちっっさ」
椅子を含めて、私と同じ座高。多分、150無い。
「寝てましたよー?あと5分で授業が始まるので、自分の席についてくださいねー。あと、そこは僕の席ですよー?」
付き合いたて独特の緊張ってのが無いのかコイツは。
てか、私。いつ寝た?弁当もいつの間にか食べてるし。
まぁ、いいや。
「ねぇ、あさぎー」
「はいー?」
「もしかして、私が寝てるのを狙ってさ、おっぱい触ってないよね?」
「してませんよー」
微笑を崩さない。表情さえ崩さない。動揺しない。
なに、コイツ。
「島風さん?そろそろ、席から離れてくれますかねー?僕、授業の準備をしなければいけないんですよー」
「は、どかしてみろ」
力ずくでどかすなら、体に触る必要がある。
朝霧でも、これはためらうはず。
「そうですかー。意地っ張りですねー」
「彼氏なんでしょ?」
「おやおや。彼氏という身も大変ですねー」
なんだコイツ。慌てた様子がない。
その時だった。
「わ……」
耳元でハエの羽音がした。
思わず立ち上がると、朝霧がすぐに座った。
「あ、朝霧。ずるーい。もっかい」
「ですが、授業が始まってしまいますよー」
「そんなのいいから……」
その時にチャイムが鳴った。
私は膨れっ面をして自分の席に戻る。




