カールとレフティ伯爵(2)
※ 2025/10/22 修正済み
◇ ◇ ◇ ◇
かすみ草の白い花がヒラヒラ舞う庭園の中。
突然レフティ伯爵が大粒の涙を流してその場に崩れ落ちた。
「レフティ伯爵、大丈夫ですか」
「カレン、ああ、ようやくお前に会えた……」
「会えたって……貴方様はいったい……?」
「そうだよ、俺はお前がカレンだとすぐに気付いた。──だって前世と顔が全く同じじゃないか」
レフティ伯爵の泣き顔は笑っているようにも見えた。
涙ぐちゃぐちゃ顔で、僕の顔を両手で触る。
「カレンって……あの、レフティ伯爵はなぜ前世の僕を知ってるんですか?」
「やっぱりカール伯爵、君は知ってるんだな。そうか、カレンも前世の記憶がなく転生してきたんだな」
「君もって、他にも転生者がいる……あ、ウェンディ姫か……」
「ウェンディ姫もだが、実はハーバート王太子もだ。彼も転生者だ。共に前世の記憶はないがな」
「え、ハーバート王太子ってまさか……?」
「そうだ、王太子は『モーニング3』の元メンバーのライトなんだ」
「えええ、転生者がそんなにいるなんて!」
「そうだ。カール伯爵、俺はタイガーマスクがウェンディ姫を救出した話を聞いて、何故か無性にその男に会いたくてこの国に来たんだ」
「僕に?」
「そうだ、理由がわかったよ。君がカレンだったからなんだな!」
といって突然、レフティ伯爵は僕を抱きしめた!
「え、ちょ……ちょっと、レフティ伯爵!」
「うう……カレン、ゴメンな、俺はずっとお前に謝りたかったんだ!」
「レフティ伯爵…」
「ごめん、カレン……うっ……」
レフティ伯爵は僕を抱きしめながら号泣した。
僕はこのシチェーションに暫し面食らった。
──ああ、何だ、一体どうなってる?
こりゃ~わからん!
なぜレフティ伯爵ともあろう御仁が、こうまで恥ずかしげもなく号泣するんだ。
僕は先ほどまでの威厳を保っていたレフティ伯爵と、いま、僕の首根っこに泣きついてるレフティ伯と同一人物とは到底思えなかった。
──それにしても先ほどの話は本当なのだろうか?
『モー3』の3人共、前世から今世界に転生しているなんて!
レフティ伯爵がジンで、ウェンディの兄のハーバートがライトとは。
「はあ……」と僕は大きな溜息をついた。
◇ ◇
少し経ってからレフティ伯爵は赤い眼を腫らしながら、前世の出来事を説明してくれた。
それは以前、ミケから聞いた日本という国の異世界の話とほぼ一致していた。
レフティ伯爵は細かいとこまで説明してくれた。
僕たちは若い令嬢たちから崇拝されたアイドルグループ「モーニング3」のメンバー。
芸名“ライト”がハーバート王太子。
“ジン”がレフティ伯爵で、ウェンディの好きな“カレン”が僕だという。
だが、現世では前世の記憶があるのはレフティ伯爵ただ1人らしい。
思わず僕はレフティ伯爵に
「不思議ですね、なぜレフティ様だけが前世の記憶があるのでしょうか?」
「それは、俺がお前に強く会いたいと熱望して、お前の墓で祈ったからだよ」
「え、僕に会いたいと貴方様が祈ったのですか?」
「ああ、本人を目の前に言いづらいが、カレンをグループから無理やり追放した張本人は俺なんだ。理由は言えないがその後、カレンはそれで事務所の社長と揉めて、外へ飛び出して交通事故にあったんだ」
「交通事故?」
「そうだ。突然大型トラック、あ、トラックっていってもわからんだろうな。大きな荷馬車みたいなものだ。その前にカレンが飛び出したんだ。あいつは荷馬車が走ってくるのも気づかなかった。多分、よほど怒っていたんだろう。一瞬だった」
「…………」
「結局、その事故の大怪我が元でカレンはあっけなく死んだんだ。当時、俺は酷く後悔したよ。お前を死なせたのは俺だとな」
「そうでしたか。でも……少し変だな……カレンは、病気で亡くなったってミケに聞きましたけど?」
「ミケ?」
「あ、実はミケというのはミケ猫のことで……」
と僕はライナス殿下からお祓いを勧められて瞑想療法をした時に、前世のミケ猫の置き物が僕に取り憑いていた件を説明した。
また僕の前世がカレンだという事と、ウェンディ姫が風子嬢だという事もミケ猫から教えてくれた話を全部、伯爵に説明した。




