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魔境生活  作者: 花黒子
~知られざる歴史~
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【籠り生活24日目】


 昨夜、魔境古参会議というようなものはなかった。状況を聞いたそれぞれが動き始めただけだ。


「じゃ、私が黒石を持って大穴で待っていればいいのネ? ジェニファー、手伝ってくれる?」

「もちろんです。大穴の魔物の排除とポータルの設置ですよね。魔力が多い『大穴』なら毒よりも行動阻害系の蔓や棘がある植物の方がいいですよね?」

「いいネ。そうしよう」

 魔境の主力2人はクリフガルーダに向かうらしい。


「チェルさんたちがいなくなったら巨大魔獣はどうするんです?」

「リ、リパが対応するんだよ」

「え!? 俺が!? できますかねぇ?」

「最悪、巨大魔獣の足を折って待っていてくれればどうにかなるさ」


 ヘリーはどうにかするつもりらしい。


「騎竜隊にも言っておく。サッケツ、ガーディアンスパイダーたちに移動を頼むよ」

「わかりました」

 シルビアが指示を出している。


「カタン、悪いけど保存食だけ用意しておいて」

「すぐ、やるわ」

「イモコ一家も悪いんだけど、原書の解読を頼めるか?」

 エルフの亡命者からイムラルダ一家が冒険者ギルドの建物までやってきてくれていた。


「もちろん。でも、ヘリー、本当に行くの?」

「ああ、図書館とは名ばかりの地獄の蓋を開けてくる」

「楽しみにしてるわ」


 エルフの学者にとっては楽しい遠足か。


「で、俺は何をするんだ?」

「マキョーが図書館でサトラの本を探すんだよ!」

「何のために私が武器を携えていくと思ってるんだ? マキョーが白亜の塔ごとぶっ壊さないための武器だろ!?」

 ヘリーとシルビアにブチギレられた。


「カヒマン、悪いけど殿を頼むよ。エルフたちに実力の差を見せてやりな!」

「ん。わかった」


 カヒマンは魔法も切れるキングアナコンダのサーベルを腰に差していた。


 カタンが5日分の食料と水を用意した深夜に俺たちは旅立った。


「どうせバレずに入国するなんて無理だ。空から行こう。空島の失敗作があるから、それを使って」

 ヘリーは途中でエルフたちへの被害が出ることを避けた。普段貶していても同胞には優しい。


 大きな箪笥ほどの岩に乗り、俺たちは空高く飛んだ。

 身体を魔力で覆い寒さをしのぐ。いつの頃からか、自分の温度管理はやっている。

 エルフの国との境にある山脈を越えると気温が一段と下がった。魔力に付いた水滴が氷の結晶に変わっている。


 山脈を越えると大森林が広がるエルフの国だ。精霊樹はエルフたちが住んでいるからかまだ青い葉を付けているところもあるようだが、その葉にも雪が積もり一面銀世界。針葉樹の間をワイルドベアが走っていくのを見ながら北の白亜の塔を目指す。


 地平線に白亜の塔が見えたのは夜明け頃だった。


「マキョー、ダンジョンは置いて行けよ」

「ああ、そうだな。ダンジョンにダンジョンは入れないか」

「大丈夫。俺、一緒にいる」

 カヒマンは図書館の前でダンジョンと待機だ。


 俺は自分の鎧からずりゅりとダンジョンを外に出した。一瞬寒さに震えていたが、パラシュートのように広がって、失敗作の岩を減速させる。


 そのまま白亜の塔の前に落下。白い塔の前に黒い岩が突き刺さった。

 朝方なのでエルフたちの姿はほとんどないが、起きだして見上げる者たちもいる。

 

 黒い岩に遅れて俺たちも着地した。


 朝方の頭が働いていない時間に侵入したのがよかったのか、白亜の塔の警備を担う衛兵はこちらを見て驚いていただけだった。


「こっちだ」


 ヘリーが案内してくれて白亜の塔の地下へと向かう。

 大きな階段を下ると、地下だというのに明るい照明が焚かれた図書館に辿り着いた。

 見える場所全てに本棚があり、ところどころ置かれた机には学者らしき人物たちが熱心に本を読んだり居眠りをしたりしている。


 俺たちが現れると、カウンターにいた司書らしきエルフが立ち上がった。


「ヘルゲン・トゥーロン!?」

「騒がない方がいい。閲覧禁止区域にてサトラの本を探すだけだ」

「しかし……!」

「鍵に意味があるような者たちではない。大人しくしていれば、3日で済むと思ってくれ。外にドワーフと透明な大蛇の魔物を置いておく。攻撃しても構わないが、反撃は覚悟しておけ。我々エルフがドワーフを迫害してきた歴史を鑑みて対処することだ」


 ヘリーがそこまで言うと、司書たちが衛兵を連れて出てきた。

 髪の長い白髪の女性が掌を見せて、衛兵たちを止めた。


「ヘルゲン・トゥーロンとお見受けする。目的はサトラの書簡閲覧で構わないか?」

「ああ、持ち出すつもりでもいる。大丈夫だ。用が済んだら返しに来るよ」

「お連れは?」

「魔境の武具屋と領主だ。領主の実力を考えると武器を持たせなければ、白亜の塔ごと破壊しかねない」

「こちらとしても禁止区域の扉を破壊されると困る。鍵を預けるので、慎重に出入りしていただきたい。そなたらが帰ったあと、復興に時間をかけたくないのだ」

「わかった」


 禁止区域の鍵はいくつかの魔法陣が施されていて、厳重に魔法陣が描かれた布に巻かれていた。


「鍵は持ち歩かないよ。封印布に追跡の魔法陣を仕込むんじゃない。帰りに開かなければ蹴破るまでさ」

「すまない。白亜の衛兵長が、せめてもの抵抗をして見せただけだ。陳謝する」


 ヘリーは司書たちを置いて、とっとと奥へと進んだ。俺たちも付いていく。



 図書館の最奥の通路に、いくつかの魔法陣が仕込まれた鉄の扉があった。


 鍵で開けるとカビの臭いがする。異空間が開いたようだ。


「じゃ、カヒマンとダンジョンはここで待っていてくれ」

「ん」

 カヒマンと透明なダンジョンはその場で立ち止まった。カヒマンがサーベルを床に刺して座ろうとしたら、ダンジョンが椅子を口から取り出していた。


「時間はかかるようだから、座って待とうってさ」

 俺がダンジョンの気持ちを代弁した。

「助かる」

「これ、カヒマンの飯な。ダンジョン、あんまり本は食べるなよ」


 飯を渡し、忠告だけして、俺は図書館の閲覧禁止区域へと入った。中は暗い色の本棚が並び、本がいくつか宙に浮いている。鎖につながれて人を飲み込めるくらい大きな本もあるようだ。


「はい、これ」


 シルビアに大きめの鉈を渡された。


「柄はロッククロコダイル。刃は魔境産の鉄と魔石を合わせたものだ。魔力を程よく通すはずだからマキョーでも使いやすいはずさ」

 シルビアが説明してくれた。

「試しにあれを切ってみてもいいか?」


 宙に浮いている本を指さした。


「たぶん、魔物憑きだ。封印されている魔物に気をつけろよ」

 ヘリーが許可したので、少しだけ鉈に魔力を込めた。


 トンッ。


 一歩で浮いている本に迫り、一閃。本を切った時に音はしなかった。文字には魂が宿ると言うが、その本には魔物が宿っていた。


 青い炎を上げながら本から牛の魔物が出てくる。見上げるほど大きく、天井に向かって雄叫びを上げている。

 その喉を鉈で掻っ切った。1振り、2振りは頸動脈を狙い、3振り目は脳天から床まで直線的に鉈を振る。


 トトンッ。


 牛の目玉に矢が刺さり本棚に牛の魔物が張り付けられた。血が噴き出ずに、凍ってしまっている。


「ここは図書館だぞ。汚さず静粛に願う」

 クロスボウを構えていたヘリーに言われて、ルールができた。


「そうだな」

「それから魔物と化している本には本を書いたものの魂が宿っているわけではない。本に擬態している魔物だと思って構わないから躊躇はいらないよ」

「そうか。では遠慮なく」


 鉈に氷魔法を付与して、軽く振る。

 目の前に氷の風が巻き起こり、宙に浮いている本が固まった。


 カツンッ!


 煙のように虎や羽の生えた牛の化け物が出てくる。刃は鋭くして骨に沿って削り取るように化け物の肉を削いでいく。削いだ断面は氷魔法で固めた。

 結果、化け物はなぜ自分が動けないのかわからないまま、ヘリーかシルビアに頭蓋骨を砕かれていた。


「どうだ? 刃物もたまには悪くないだろ?」

「そうだな」


 俺は、鎖に繋がれた本を細切れにした。本自体が化け物ということもある。

 ドロドロに溶かして再利用できるといいのだが……。


 通路の両端には永遠に続くかのような本棚があり、本が並んでいる。ただヘリーは見向きもしない。


「サトラの本はわかるの?」

「そりゃあわかるさ。量産された本とは明らかに纏っている魔力が違うからね。チェルの魔力が見える包帯で見るとわかりやすいよ」


 そう言われて魔力を可視化できる包帯を巻いてみると、ほとんど本が魔力を纏っていて見分けがつかなかった。


「俺にはわからないよ」

「そうか? まぁ、特別な本はちゃんと特別に見えるものさ。まだ全然見当たらないというだけでね。奥に進もう」


 本に擬態している魔物もいれば、本棚に擬態している魔物もいる。なぜか置かれた宝箱も魔物だった。



「ミミックじゃないか」


 いつか見れないかと思っていた魔物を一刀両断した。


「マキョーに刃物を持たせても一切刃こぼれしないのか」

 俺が持っている鉈をシルビアが観察していた。

「魔力を通しやすいからな」

「この本には本来呪いが罹っていたはずなのに、呪いごと切断しているぞ」


 本から人の骨がバラバラ落ちてきた。どんな呪いだったのかわからない。


「このダンジョンは魔物が出てきても食べられないのが辛いな」


 その後も椅子や机、壺の魔物が出てきたが、すべて薪にしてしまった。魔石も小さい。


「白亜の塔の暗部もこれでは素通りだ。先を急ごう」


 ヘリーの案内で、俺たちは図書館のさらに奥へと進んでいった。


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