Doomsday clock 八四時間
随分久しぶりになります。ひまめです
二か月も開けて申し訳ない!!
時は遡り、六人が伏羲の下へと向かう中、それは起こっていた。
「グローリア、いるな?」
「はい」
響夜の声を聞き、静かにその背後に現れるグローリア。現れたグローリアは響夜の目の前に立つ人物を睨む。
「これは怖い。あまり女性とは良い思い出が無いもので、何かしてしまったのではないかと内心びくびくしています」
笑顔という仮面を被っているかのようにその微笑を崩さないコルベ。その姿に、グローリアは僅かに怯む。
「何でテメェが此処にいるのかは聞かねえ。やることは互いに一つだろう?」
響夜の右手に現れる破壊の脈動は殺意を振り撒きながら獲物を求める様に脈動く。それを見てコルベは深く息を吐いた。
「良いでしょう。私にも、為すべき事があります」
瞬間、空気が変わった。今迄の薄気味悪さも微笑も捨て去り、そこには鋭い眼光を持つ一人の狩人がいた。
「全力で掛かって来なさい。でなければ中途半端な貴方に勝ち目はない」
コルベから噴き出す魔力と、展開される魔方陣。それとほぼ同時に、響夜は駈け出した。
「二対一。それでも私の勝ちは揺るがない」
「老害は黙って死ね」
放たれた死の一撃の軌道を、コルベは右手で逸らし、一歩踏み込み左手を響夜の胸に押し当てる。
「喝!」
その言葉と同時に、響夜の身体を衝撃が駆け抜ける。その衝撃に耐え切れず、響夜は吹き飛ばされる。吐血しながらも、その視線は決してコルベから外しはしない。
「血を流しましたね?」
コルベの周囲に展開されていた魔方陣から光が溢れる。そして、その光は三人を包み込んだ。
光が消えたそこは、先程までいた場所ではなかった。
そこは教会の礼拝堂。壁も床も穢れを知らないかのように白い、現実見の無い場所であった。
「――――ッ!?」
重い。最初に感じたのはそれだった。身体に何十個と言う鉄球でも付けられたかの様だ。ガクリと膝を着く響夜とグローリア。息を吐こうとし、二人は気付く。
呼吸が出来ない。
「………」
それに気付くと同時に、二人は同じ行動に出る。重い体を動かしコルベへと疾走する。
「凄まじい精神力。流石の私も感服です」
新人とはいえクラウンの一角。それもアレイスター・クロウリーの代理だ。油断などする筈もないし、何をされようとも有り得ないと口にすることはない。あの化け物が選んだのだから。
「ですが―――」
コルベを挟むようにして立ち回る響夜とグローリア。響夜は悪魔の心臓によって大丈夫であっても、グローリアはそうもいかない。それを理解しているコルベは防御を中心とし時間を稼ぐ。
右から振るわれる鎌を上体を逸らして躱し、背後からのグローリアの体感時間停止による攻撃を左手で受け止める。もし此処に武人がいるとするのならば惚れ惚れするだろう。コルベの体術はそれほどまでに完成されている物であった。
「神殺しの鎖」
放たれた鎖はコルベの四肢を絡め取ろうとする、しかし、その攻撃すらもまるで擦り抜けるかのようにしてコルベは回避した。埒が明かないと、響夜は更に無数の武器を創造する。針の穴の様に細い道、だがそれをコルベは潜り抜ける。
最早驚きはしない。こいつはこう言う奴なのだと響夜は分かっているのだから。
「グローリア、下がれ!」
響夜の声に頷き二人から離れ、息を持たせるグローリア。
Access(回路接続)――― Jotunheimr(忌むべき巨人の王)
現れた骸の巨人はその手に持つ大鎌を振り下ろす。発動から出現までをほぼ一瞬で終えたその技量にコルベは舌を巻く。流石は十三席かと。
「殺せば殺す程、貴方の身体は鎖に絡め取られる」
巨人の動作が、僅かに鈍くなる。それはほんの少し。しかし、コルベにとってはそれで十分だ。大鎌の攻撃範囲から逃れる。二撃、三撃と続けるがそれも紙一重で躱された。
「これが命の重さです。貴方達には決して分からないものですよ」
動きの鈍い響夜達を睨み、コルベは言葉を放つ。彼にとって、クラウンに属する者達の考え方というのはその大半が受け入れ難い物であり、そんな考えを持つ者達も反吐が出る存在である。そこには当然、今の自分も含まれる。
しかし、それでも他の者達の様に殺す事を当たり前だと思いたくはなかった。
「大切な者さえ殺す。そんな貴方には分かりはしません!」
Access(回路接続)―――Niflheimr(悪逆ノ十字架)
純白であった礼拝堂に穢れが一滴落とされる。それは瞬く間に純白を塗りつぶし、黒へと染め上げて行く。
「これが私の罪。私への罰」
響夜の身体から重さが無くなる。しかし、その身体は動かない。まるで見えない鎖に縛られたかのように。
「…くそっ…がぁ!」
響夜の意思を表した巨人はその鎌を振り下ろそうとする。しかし、巨人にもその見えない鎖が絡みつく。
コルベの神器「聖なる木」が生物を殺した数だけ対象の動きを縛るのならば、「悪逆ノ十字架」の能力は自らの罪の分だけ自身の能力を上昇させ、敵の行動を封じるものだ。動くにはコルベよりも強靭な魂でなくてはいけない。
「私の目的の為に、死んでもらいます」
一足で響夜の目の前に現れるコルベ。その動きは、先程の比ではない。
振るわれる右腕を響夜は防ぐことさえ出来ない。コルベの右拳が響夜の頬に突き刺さる。
「がっ!」
決して休む事のない拳打の嵐は、異常を発生している悪魔の心臓の再生力を上回る勢いで響夜を傷付ける。身体を動かす事の出来ない響夜は抵抗すら出来ず、ただ殴られてばかりだ。
「そろそろ、限界ですね」
「…っはぁ…か、ヒュー……」
コルベの視線の先、そこには倒れ伏して動かないグローリアの姿があった。コルベは、グローリアへと歩み寄りその首を掴み持ち上げる。
「弱い者達は、一人で生きる事等出来はしない。だからこそ、強い者が守らなくてはいけないのです。そして―――」
再び視線を響夜へと戻し、コルベは口を開く。
「大事を為すには小事は切り捨てなくてはならない」
「選びなさい。捨てるか、拾うか」
「―――――ッ!!」
無様に生き残りたいのならグローリアは見捨てろ。その言葉に響夜の頭が怒りで真っ白になる。
「……喋ることも出来ませんか。では、これは殺しましょう」
そう言ってコルベは、その首を掴む手に力を込める。
「―――っけんなぁぁああああぁあ!!!!」
絶叫。そして衝撃。コルベにとって、それはほぼ同時だった。
「く、ぉ!」
横合いからの衝撃に苦悶の声を上げ吹き飛ばされながらも、コルベは手刀を振り下ろす。
ぶちぶちと鈍く、不快な音が鳴り、先程とは違う絶叫が鳴り響いた。
「が、あ゛あ゛あ゛、ああぁあぁぁぁぁ!!!?」
吹き飛ばされたコルベは、着地すると同時に先程ぶつかってきた物の方向へと顔を向ける。
「魔狼の爪牙!」
それと同時に、青白い閃光が視界を覆い尽くした。
◆
「ぐぅ…はっ……まさか、私がここまでやられるとは、思いもしませんでしたね」
展開されていた礼拝堂は消え、ボロボロの身体を引き摺ってコルベは歩いていた。
「…強い」
無論、技術も力もまだまだ未熟だ。しかし、力を扱う事で最も重要となる心が、自分の予想以上に強靭であった。
コルベは自身の傷を見る。舐めていた訳でも、油断していた訳でもない。しかし、齢百も超えていない者にこれほどまでの傷を負わせられている。折れた左腕がだらしなく下がり、内臓も幾つかやられているのかもしれない。
「成程、十三位を与えられる訳だ」
事此処に至り、コルベはアレイスターが響夜を代理とした理由を悟る。あれは、二人と同じだ。
もしあれがぶつかり合えば…。
そこまで想像し、コルベは何かを思案する。
「……これは、私も少々考え直さなくてはいけませんね」
迷いなく歩いていた足つきには、僅かに乱れが生じていた。
久しぶりに執筆すると感覚が狂いますね。中二臭い気分になりきれないです。