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Doomsday clock 七九時間

遅くなって申し訳ない。変わらず稚拙だけど、頑張った。


「……ぅ」


 畳が敷かれた客間。そこにゼクスは横たわっていた。ゼクスは小さく唸り、身動ぎをし、やがて目を覚ました。


「此処は…」


 ゆっくりと身体を起こし、ゼクスは周囲を見渡す。その瞳には困惑の色が映し出されていた。何故自分はこんな場所にいるのか、確か魔王様の部屋へと…。

 そこまで思考が至り、ゼクスは跳ね起きた。襖を開け廊下へ出ようとする。しかし、そこには黒い甲冑に身を包み込んだ式神がいた。

 式神は何を言うでも無くその拳をゼクスに叩き込む。その突然の行動に、焦っていたゼクスは躱すことも出来ずに部屋の奥へと吹き飛ばされる。


「な、何を…」


 正体不明の敵を睨み付けながら立ち上がるゼクス。そのまま身構えているが式神は動こうとしない。それを疑問に思っていると、やがて一人の男が現れた。


「漸く起きたか、この腑抜け」


「ふ、腑抜け…」


 現れると共に言われた罵倒にゼクスは何とも言えない表情をする。


「お前は…?」


「伏羲。響夜の師であり、お前を助けた恩人だ。敬え」


 不遜な態度の伏羲にゼクスの警戒度も上がって行く。それを見た伏羲は可笑しそうに笑う。


「そう構えるな小童。わざわざ助けてやったんだ、お前だって今の状況位知りたいだろう?」


 伏羲はそう言って立ち上がると、着いて来いと言って廊下へと出る。それに首を傾げながらもゼクスはその後を追った。


「お前は魔王城が襲撃され、魔王の下へ向かった。そして、魔王の部屋に入った瞬間、何かによって身体を潰された」


 その言葉にゼクスは静かに頷く。それを感じたのか、伏羲は言葉を紡いでいく。


「分かりやすく、現在の状況とお前が為すべき事を教えてやろう」


 渡り廊下へ出た伏羲は、上を見ろと指をさす。


「……なっ!」


 空を見上げたゼクスの視界に入ったのは、空を覆い尽くす程の呪文が描かれた結界。全体像は分からないが、大きい、少なくとも、都市一つは簡単に収まるだろう。


「なんだ、これは…?」


「結界だ。この都市と、千年桜を護る為のな。しかし、これも急ごしらえ、奴らには簡単に突破されるだろう」


「奴ら……?」


「……魔王を連れ去った輩、の仲間とでも思え。それ程間違いでもない」


 その言葉にゼクスの目つきが変わる。


「……魔王様は何処に居る」


 ゼクスの言葉に伏羲は面倒臭そうに肩を竦める。


「止めておけ。魔王は本来の役目に戻っている。元々、ほういう計画だった。クロウリーが何を考えているのはかは知らんがな」


「そいつを殺せば、止められるのか?」


「お前には無理だ」


 伏羲の言葉にゼクスは怒りを剥き出しにして身を乗り出そうとする。しかし、それより早く。伏羲はゼクスを壁に叩き付けた。


「今、何をされたか分からなかっただろう。その程度の餓鬼が調子に乗るな」


 お前は黙って言う事を聞いていろ。その言葉にゼクスは歯噛みする。自分には何も出来ないのかと、ただ見ているだけなのかと。


「お前の役目はシンプルだ。ある人物と、千年桜を護れ。絶対に敵を通すな。それが成功すれば、もしかしたら魔王を連れ戻せるかもしれん」


 歯噛みするゼクスにそう言葉を投げかける伏羲。ゼクスは顔を上げ、伏羲を見る。


「もう直ぐ、他の奴らも来る。それまでは身体を休めていろ」


 それだけ言い、伏羲はその場を去っていく。


「尤も、魔王の意識は助かりはしないがな…」


 伏羲の言葉は誰に聞かれることも無く、ただ静寂の中へと消えて行った。


 ◆


「くそっ!」


 行き場の無い怒りを瓦礫へとぶつける響夜。その顔は憤怒の色で染まっていた。


「……響夜君」


 その様子の響夜に、エルザは静かに言葉を掛ける。


「伏羲から、戻って来いと…」


「俺は、行かねえ」


「そうですか。私は向かいますが、無茶だけはしないで下さいね」


「………」


 心配そうに響夜を一瞥するエルザ。念の為もう一度だけ釘をさしエルザはその場を後にした。

 一人立ち尽くす響夜。その瞳の憤怒は治まらず、より強いものになっていた。


魔狼天声フェンリル


 響夜の声に応え現れる神器。響夜はそれに乗ると走り出した。


 ◆


 ルイス・キャロルから下された兎狩りと言う名の虐殺命令。コルベは決断を迷いながらも、足を前へと進ませていた。

 早く逃げろ、そう言えばきっとその時だけは生き延びられるだろう。けれど、ルイス・キャロルがそれを見逃すはずはなく、自分を殺した後に彼らを殺すだろう。


「……いや」


 彼らを殺したくない。それは事実だ。けれど、自分が何よりも恐れているのは、自らの手で彼らを殺す事。自分の手が血で濡れる事を恐怖しているだけだ。コルベは自嘲する。

 この身が出来ると共に決意した筈だ。自らの願いを、多くを助ける為に少数を切り捨てるのだと。そう決意した筈だった。

 けれど、大切な者を自らの手で殺す。一として切り捨てる。今になって、それが恐ろしい。けれどもう後戻りは出来ない。

 コルベは迷いを打ち切り、先へと進む。その果てにある光景がどんなものであろうとも…。


 ◆


「全員…まぁ、約一名問題児が来なかったが無事に来たな」


 目の前に座る者達の顔を見渡し、伏羲は溜息を吐く。集まった者達はエルザ、シグルズ、小夜、ハク、ゼクス、楽毅の六名だ。協調性のない輩が多い割にはよく集まったものだと感心し、伏羲は一体の式神を呼ぶ。


「まぁ、呼んだ目的は簡単だ。お前達にやってもらいたいことがある」


 伏羲は呼び寄せた式神に地図を取らせると、全員の目の前に広げる。


「簡単に言うぞ――――――死んでこい」


 その言葉に全員の動きが止まる。誰かが口を開いて文句を言うより早く、伏羲はその口を開く。


「今から一二時間後、奴らが目指す目的地は二つに絞られる」


 そう言って指差した場所は二か所。その示された場所を全員が見る。


「一つは、千年桜。そしてもう一つは――――エクレールだ」


 その言葉にシグルズと楽毅を除いた四人は首を傾げる。


「お前らには此処に向かって欲しい」


「伏羲、少し待ってください。突然言われても困ります」


「何が分からず、何が困るのか。短く纏めろ」


 面倒臭そうに、妙にやる気の削げた表情で応える伏羲に殺意を抱きながらもエルザは冷静に答える。


「一つ目、死んでこいとはどういうことか。二つ目、何故そこに敵が来ると分かるのか。三つ目、私達が協力すると本当に思っているのか。答えて下さい」


 三つ目の質問がエルザの口から出たことに小夜とハクは驚愕する。エルザは協力する気はないと本気で言っているのだろうか。二人からはその瞳の色は読み取れない。


「一つ目、奴らと戦うのだ、死ぬも同然。二つ目、私がそう誘導するから分かる。三つ目、お前達が望もうと望まないと、しなければ各個撃破され散るだけだ」


「――――下らねえ」


 伏羲の言葉にシグルズは立ち上がるとその身を翻す。


「俺は俺で好きにやる。そんなことは勝手にやってやがれ」


 それだけ言うとシグルズは去っていく。無言の中、楽毅もまた、立ち上がると伏羲を見る。


「私も同じネ。協力はしないよ」


 その瞳はどこかやるせなく、悲痛なものであった。


「じゃあネ。友よ」


 そう言い残し、シグルズの後を追う様に楽毅も去っていく。


「―――で、お前達はどうする」


 去っていく二人を一瞥すらせずに、伏羲が残った四人に問う。


「私は、兄様を探しに行くわ」


 それじゃあ。

 そう言って、また一人去る。


「……エクレールに、何があるの?」


「行けば分かる」


 ハクの質問に答えることはなく、暫しの沈黙の後、その答えをハクは示した。


「行く。行って、確かめる」


「そうか、それでお前達は?」


「……元より答えは一つ」


「私は……自分で考えて行動します」


 残るゼクスと去っていくエルザ。残ったのは二人となり、それでも伏羲はその表情を一向に崩さない。変わらぬ微笑を浮かべたままだ。


「良いのか?」


「構わん。どうせ、最後は私の望んだ展開だ」


 伏羲が一体何を考えているのかは分からない。しかし、この男がそう言うのならば問題はないのだろう。恐らく、この盤上は伏羲と誰かの戦いなのだろうから。


Doomsday clock(世界終末時計)残り


――――七九時間――――


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