悲痛な笑い
彼は泣いている。
クラスでいじめられる彼は、今日もクラスメイトの一人に暴行を受けているのだ。
放課後学校ではない場所。
彼には相談する勇気、いや決断力がない。
そして彼には相談出来ない理由もある。
「もうやめて、痛い。」
彼が泣きながらそう叫んでも男はやめなかった。
周りに人はいない、誰も彼を助けない。
彼には男が鬼に見えただろうか?
それも彼が相談しない理由のひとつ。
獣ではなく鬼に見える男。
違いは人型をしているかどうか。
そんなイメージだけの差で彼は人にやられている。だから彼は・・・、彼は絶望をしない。
男は素封家で彼以外に優しく、皆に好かれ、運動神経も成績も良い。また文や絵の際にも恵まれる。
彼とは真逆だった。
彼は弱いものに強く、自慢話をこのみ、人を嫌な気持にさせることを好む。
皆に嫌われ成績だけは授業をサボらないことで真ん中だか良くはない。
運動神経は悪く、文や絵の際にも恵まれない。
そんな男は内面に狂気を宿している。そこだけは彼と同じ。
「この前テレビで見たんだよ。海外の防犯カメラの映像、足の悪い男が引き倒されて3人に暴行を受ける。自分は足が悪いから許してくれと泣いて謝るけど、それは更にエスカレートする。被害者は最後笑いだす。狂ったんじゃない。この世に自分を助けてくれるものなどない。ベルイマンの作品を観るまでもない。神も仏も人も者も物も斎も霊もすがれるものはないと悟ったんだ。僕は君でそれを再現したい」
男は止まらない。男は笑っている。
それは強者の笑いだ。
彼は泣き叫ぶばかりでそれが悲痛な笑いに変わることはない。
ないまま男は”その日は”諦めて帰る。
続きはまた明日だと言い残して。
彼は思う。
今日、自分がいじめられたのには理由があった。
だから泣き叫ぶ事が笑いになるほどの諦めや悟りはない。
ベルイマンなど知らないが暴力を受ける足の悪い男の映像は自分も見た。
彼は笑っている。
それは悲痛な笑いではなかった。
・・・つづく




