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第11話


 もちろん、ファレロはこっぴどく叱られた。そしてその指導者であるモリトールも、当然、叱られた。


「お前の考えは突飛すぎる! 魔力を使い切ろうとするなんて、アホか! 魔法使いが魔力を使い切ったら、死ぬんだぞ! 知らなかったのか!?」

「知りませんでした……」

「知らなかったで済むわけないだろ!!」

「……すいません」

「モリトールも! 調節できる兆しがないのに、ひとりにするな! 少しは慣れたから置いてきたのかと思ったじゃないか!」

「……申し訳ありません」


 講堂でマルタンに怒鳴り付けられて肩を落とすファレロと正反対に、モリトールの胸中は穏やかではなかった。


 なんで俺まで怒られるんだ。

 魔法隊1の魔法の使い手だぞ。幼い頃からずっと優等生で、これまで怒られたことなんてなかったのに。

 だから指導なんてしたくないんだ。

 新人なんて足手まといでしかない。


 しかも潜在能力だけを見れば、この女のほうが上だと……!?


 自分の訓練する時間も足りないくらいなのに、なんで人の世話なんか。さっさと魔力調節を覚えさせて、指導役なんて辞めてやろう。

 マルタンは、ふう、と深呼吸した。


「まあ、雑談でモリトールを足止めをしたのも俺だし、シールドのおかげで材料はすべて揃ってるうえに、訓練所の構造もシンプルだから、建築には半月は掛からないらしい。耐魔石だから魔法が使えないせいで人の手による仕事になっちまうがな! それも国民の税金なんだぞ!!」

「……すいません」

「とにかく、今回は口頭注意に留めておく。モリトールはしっかり! 指導するようにな!」


 ぴしゃり、と人差し指を立てて言われてしまう。モリトールは頷いてみせたが、やはり納得いかない。去っていくマルタンが講堂を出ると、思いきり嘆息ついてしまった。


「もう面倒事は起こすな」

「はい、すいません……」

「食事と睡眠以外は特訓するからな」

「はい」

「まずは夕食だ」


 懐中時計を見る。夜の10時近い。


「……夜食に近いが、仕方ない。そのあとは見張りと見回りがある。付いて来い」

「はい!」


 踵を返して、食堂に向かう。すっかり隊員達はいなくなっていたが、ふたり分の食事は残されていた。




◇◆◇◆◇◆




「軍の施設内には見張り台がいくつもある。魔法隊が担当しているのは、そのうち1つだけだ」

「はい」


 食事のあと、部屋からローブを持って再び外に出る。惨状と化した14番館の脇を抜け、少し先にある背の高い細長の建物に入っていく。

 中は頂上まで空洞で階段しかなく、階段を登り切ると展望台になっている。吹き抜ける風が冷たい。昼はうだるような暑さなのに夜はローブなしではいられない。昼夜での気温差が激しいのも、この国の特徴といえる。


 隊員がいた。今年の新人1位合格のハンスと、その指導役のジョアンだ。


「交代だ」


 言うと、ハンスが敬礼をしてくる。右手を左胸に添えるのが軍隊ならではの敬礼だ。返礼をすると、ハンスはファレロを見て笑う。


「とんだ暴れ馬を引いてしまいましたね」


 それはモリトールへの言葉だった。


 カチンときた。

 なんだろうか、この不愉快な気持ちは。


 ファレロが厄介者であるのは本当のことだし、指導者なんて早く辞めたいと心底思っているのだが、なんだか新人の分際で嘲笑われるのは腹が立つ。しかし、ここは冷静にいこう。


「さっきはシールド形成に協力してくれて感謝する」

「いえ、先輩方との共同作業をこんなに早く経験出来るとは思っていませんでした。光栄でした。ありがとな、暴れ馬さん」


 こつん、とハンスがファレロの額を人差し指で小突く。


 ぴきっと、こめかみが痙攣するのを感じた。しかもファレロが目を伏せて黙っているのも気に食わない。さっきまでの破天荒はどこへ行ったのだ。言い返さないのか。


 先にジョアンが制止した。


「ハンス、辞めておけ」

「ジョアン先輩、これは失礼しました」

「もう行くぞ。午後10時57分、交代完了」


 ジョアンとモリトールは懐中時計を見合って頷いた。最後まで嫌味な笑顔を浮かべていたハンスが階段を降り始めるまで、モリトールは拳を握って怒りを耐えるのに苦労した。


「おい、早く魔力調節の練習をしろ」

「は、はい。でも、見張りは……」

「全方位警戒して、異常があったらこの鐘を鳴らす。それだけだ。今は俺がやる。君はさっさと魔力調節を身に付けろ。基礎中の基礎だぞ。それができなきゃ、他の魔法も教えられない」

「……わかりました」


 外に目を移す。

 さすが首都ともいうべきか。軍施設の外もまだ明るい。ぽつりぽつりと置かれた街灯だけでなく、家々に明かりが灯っていて闇という闇はどこにもいない。

 軍施設は壁で囲まれているものの、壁は高くないので外がよく見える。不審者や不審な動きが街にあればすぐにわかる。


 背後ではファレロが掌に魔力を込めては破裂させている。ぱっと輝いて弾けて暗くなり、またぱっと明るくなる。しばらくはこの鬱陶しい光の明滅に悩まされそうだなと、モリトールはうんざりした。


 ぼふん、と強い風が生まれてローブを膨らませる。


「おい、気を抜くな。集中しろ」

「は、はい!」


 そして、また掌に魔力を込め始める真剣な横顔。


 まあ、素直なのは長所だと認めてやろう。……なんて。


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