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星が墜ちた夜から  作者: Guru
8章 友達
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第73話 “運命”

 俺はフリーフォールの下敷きとなり、今日ここで死を迎える。


 10年以上前に見た、あの流れ星の悪夢は、俺達の最終ミッションであると共に……


 俺の命の危険を知らせる悪夢だったんだ。

 これこそが、流れ星が俺達に教えたかった──“真の意味”。


 

 なんだよそれ……ふざけんなよ。

 おまえら(悪夢)が呼んだから、俺は今ここにいるんじゃねぇか。

 前にも言ったけど、それじゃ順番が逆だろ?


 一切納得はいきやしないが……

 たった一言で、それらすべてを納得させる魔法の言葉がある。



 それは──“運命”


 すべてこうなることは、最初から決まっていたのだと。

 どう足掻いても、運命には逆らうことはできないのだと……



「智……」


 俺は後ろポケットの財布から、“あの写真”を取り出した。

 今の俺とは対照的に、そこには笑顔の幼き俺達4人の姿がある。


「どうすればいいんだよ……俺は……智……力を……力を貸してくれ!!」


 俺は願った。

 神にでも祈る気持ちで。


 この写真に写る小学生の頃の智なら、いつどんな時でも、俺達を助けてくれた。

 どんな逆境でも、俺達を正解へと導いてくれた。


「智……」




『なんだよ。誠人。らしくないんじゃないか。もう諦めたのか?』


「えっ……空耳……?」



 “何か”が聞こえたと思った、次の瞬間。

 何度も夢の中で聞いた、とてつもなくデカイ衝突音が園内に響く。


 それでも俺は、周りの騒ぎには目もくれず、その“何か”を聞くことに専念し続けた。


「今の……今の声って……!!」


 聞き馴染みのある、先程の声……

 今のは決して……空耳なんかじゃない!

 

 声の主は──『写真の中にいる』


 そう判断した俺は、折れ曲がった写真を必死に広げて伸ばし、笑顔の“智”の顔を見つめた。

 すると……俺の頭の中に、今までにはなかった、別の映像が流れ込んでくる。


「この映像は……もしかして……智の悪夢か!?」


 その映像に描かれていたのは、どうやっても見ることの出来なかった、悪夢の続きである。


「──倒れるフリーフォールの位置がはっきりと分かる!! 位置が……俺の悪夢とは違う!!」


 気付くと俺は、全力で“そこ”に向かって走っていた。


「ゲンさん! この場は頼む!!」


「お、おい! 誠人! どこへ行く!?」




 いくつもの悲鳴……逃げ惑う足音……

 園内はパニックに陥っている。


 その間にも、俺が右手に持つ写真は熱を帯び、何とも心地よい温もりが感じられていた。

 まるでそこからパワーを発しているかのように、頭の中にしっかりと意識が伝わって来ているのだ。

 入り込んで来るのは、智が見た悪夢だけではない……“智自身”そのものである。


 次第に俺の耳には、周りの悲鳴や足音など、一切聞こえなくなっていた。

 不思議と聞こえてくるのは、智の声だけだ。


「なんだこれ……予知能力に続いて、新たな超能力でも身に付いちまったのかよ!」


『さぁな……諦めてやがったからな。支柱が完全に倒れるまでには、僅かな猶予があるにも関わらずよ。だから、俺の悪夢をおまえに送ってやった』


「──!! これは驚いた……まさか会話までできちまうとは! ならば言わせてくれ……ありがとよ。智!」


『なぁに……約束しただろ? おまえは俺が守るってよ』


「えっ? なんだその話……」


『おいおい……忘れちまったのかよ』


 昔に俺と智がそんな約束をしたのか?

 正直、何のことか覚えちゃいないけど……


 それよりもまず、俺にはやらなきゃならないことがある。

 俺は連絡通路さえ死守しとけば、全員救えると思っていた。


 でも、それは俺の“記憶違い”。

 何も支柱は連絡通路に沿って、真っ直ぐ倒れるわけじゃない。

 斜め(・・)に倒れるんだ。影響は連絡通路、一般道路の両方に(・・・)及ぶ。


 斜めに倒れた支柱の先端は、連絡通路の端に激突し、更にそこで柱は折れて砕ける。

 そして、それは鉄の塊の凶器となり、下にある一般道路の方へと落ちていくのだ。

 不運にも、砕けた鉄の塊は……歩道にいた野球観戦帰りの親子3人に直撃してしまう。


 その未来図を智の悪夢で知った俺は、一目散に階段を降り、一般道路の方へと走っていた。


 ここまで来たら、犠牲者の1人も出してたまるかよ!!




・・・




「こうちゃん、野球楽しかった?」


「うん、楽しかった! お菓子いっぱい食べれたし」


「ははっ、まだ野球なんか見ても分からないか」


「ねぇ、あなた。何だか上が騒がしくない?」


「遊園地でイベントがあるみたいだからな。それが盛り上がってるんじゃないのか?」



 下の階に辿り着いた俺は、全速力で歩道を走り、親子連れを探した。

 幸運にもイベントを見るために残った客が多かったおかげか、案外歩道に人は少なく、すぐさま例の親子3人組を発見する。



 いた!! あの親子だ!! 呑気に楽しそうに歩いてやがる……

 そうか……ちょうどここは連絡通路の真下となっているから、上の様子が分からないのか。上では、大惨事となっているというのに……



「ここは危ない!! 今すぐ後ろに下がるんだ!!」


 反対側から走って叫ぶ俺の大声に、仲良く子供の手を片手ずつ引く両脇の夫妻は戸惑っていた。


「な、なんだ突然……」


「上から鉄の塊が降ってくる……だからこれ以上先に進んではだめなんだ!!」


「鉄の塊……? 何それ」

 

 夫婦揃って伝わらないか……確かにこれじゃ説明不足だけども……今はじっくり説明してる暇もないんだ!!


 目の前まで近寄った俺は、もう無理矢理、力で押し退けるしかなかった。

 一歩前に出ていた男性の方の体を、手で押して遠ざけさせる。

 

「ちょっと……何をするんだ!!」


 だが、男性も黙っていられるわけはなく、俺の手を振り払う。

 それでも俺はがむしゃらに対抗し、今度は全力で男性を突き飛ばした。


「いいから……早く!!」


 すると、男性はその場で尻餅を着き、俺を睨みつけるが……


「痛って……何なんだおま──」


「ねぇ、待って!! あれ!!」


「あぁっ!?」


 ここで、ようやく女性が、こちらに向かって倒れてくる巨大なフリーフォールの支柱の存在に気付いた。

 しゃがみこむ男性の肩を叩き、慌てて上を指差している。

 

「な、なんだありゃ!?」


 やっとの思いで、男性の方も自分達の置かれている危機的状況に気付き、これで一安心。

 あとはここから逃げるだけ……かと思いきや、今度は新たな別の問題が発生する。


「──えっ……こうちゃんがいない……」

 

 さっきまで女性の横にいたはずの、子供の姿が見当たらないのだ。


 くそっ……なんで子供の手をしっかりと握っていないんだよ!!


 オレンジのレインコートを着た、3歳児くらいと思われる男の子は、俺達がじゃれあっているように見えたのか……

 親の目を盗んで、行ってはならない道路の先へと、1人で勝手に進んでしまっている。



「へへぇーん。こっちだよー」


「ぐっ……間に合え!!」


 俺は助走をつけて、男の子を救うために飛び込んだ。

 もう支柱は、俺の頭上の連絡通路とぶつかる直前だ。

 俺はこの時、悟った……


 あぁ……ここか……俺の死に場所は……

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