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星が墜ちた夜から  作者: Guru
8章 友達
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第74話 “奇跡”

 今から飛び込んでも、どう考えても間に合わない。

 ましてや、距離的にも男の子に届くかどうかすら怪しい。

 それでも俺は、体が勝手に反応し、無我夢中で飛び込んでいた。


 すると、まるで時が止まったかのように……

 辺りは突然、真っ白な何もない世界に包まれる。



──えっ……なんだこれ……?



 俺の体は空中でダイブしたままだ。

 それでもほんの僅かではあるが、少しずつ体は前へと動いている気がする。完全に静止したわけではない。


 俺は右手に持っていた写真を離さぬよう、より一層手に力を込めた。



 あぁ……そうか……死ぬ時って、こうなるんだな……これが走馬灯ってやつか……

 

 なぁ、智……聞こえてるよな。

 おまえ……“運命”って信じるか?


『──運命?』


 あぁ、俺が今日……死ぬかもしれないっていう……運命だ。


『そういう話か……そうだなぁ……残念だけど、運命はあるものなんだと、俺は思う』


 そっか……じゃあだめか。俺も……


『でもよ……おまえ達はいくつもの予知夢と戦ってきたはずだ。今までそれは、全部うまく予定通りいってたか?』


 いいや……うまく行かないことだらけだったよ。予知夢なんて、俺らの行動次第で、いくらでも変わるもんさ。


『なら……この運命も、変えてみろよ』


 そんな……どうやって、こっから……


『じゃあさ、誠人。俺からも質問だ。おまえ……“奇跡”って信じるか?』


 奇跡か……俺は信じるよ。

 こうして、おまえと今話してるのも、奇跡みたいなもんだろ。


『そうか……なら大丈夫だ。誠人。おまえには運命を変えられる素質がある』


 えっ……? どういうことだ?


『今から……奇跡を起こすんだよ。それが唯一……運命に抗える……方法だからな!!』



 そう智が言い終えると、真っ白な世界は消え、いつも通りの世界が訪れた。


 このまま元の世界に戻ったところで、どうやっても勢いは足りなく、間に合うわけがないはずなのに……


 ここで突然、“誰か”が俺の体を──後ろから押した。

 いや、正確には……突き飛ばしたに等しいか。


「ぐっ……」


 そのおかげで、ありえない速度がついた俺は、瞬時に男の子のところまで到達し、抱きかかえることに成功する。

 そして、俺の体はそのままの勢いで、数メートル先へと吹き飛ばされた。


──その刹那、背後に鉄の塊が落ちる。


 

 これが奇跡かよ……

 また随分乱暴な奇跡なもんだな……智。



 そこには一瞬だけ、背を向けて笑顔でこちらを振り返る、20歳の大人になった智の姿が見えた気がした。



「奇跡には違いないだろ。じゃあな、誠人」



 しかし、その姿が見えたのも、ほんの僅かな話で……

 鉄の塊が落ちると同時に、智の姿は見えなくなり、いつの間にか俺の手元から離れていた写真が、ヒラリと宙を舞いながらそっと地面へと落ちた。


「智……!!」


 男の子は何が起きたのか分からず、唖然としている。

 俺は落ちた写真を手に取り、メッセージが書かれた裏面を向けた。



「今思い出したよ。今の俺なら、すべて分かるよ……すべて……ありがとう! 智」



 そう俺が語りかけたところで、もう写真からは智の意識や言葉、あの温もりすらも一切伝わって来ず、何の返答もない。

 

 そうか……終わったんだ……これで。俺達の悪夢との戦いは。




・・・




 このようにして、夏の夜に起きた、ジェットコースター脱線事故。

 その大事故は、俺達や警察の協力もあり、死傷者は0、怪我人すら0に終えることができた。人への被害は全くもって出なかったのである。


 だが、その裏にあった俺らの予知夢による活躍が、公にされることはなく……事件の真相を知る者は少ない。


 後に危険地帯を封鎖していた警察は称賛されたけれども、その地帯を守りきった理由は明かされぬまま。

 

 これは俺達しか知らない真実。

 俺達だけが知る……夏の思い出だ。


 人々はこれを──“奇跡”と呼んだ。




・・・




──それから約1ヶ月後。

 夏の終わりを告げる、8月31日。


 俺達3人は、地元埼玉に集まっていた。



「あれから悪夢……まったく来ないな」


「終わったのよ。私達の悪夢は。何よ勇次、寂しいの?」


「ん~……ちょっとな」



 あれほど散々、悪夢で悩んでいたというのに……

 今となっては、無くなったことが、寂しくすら感じてしまう。



「まぁまだ1ヶ月しかたってないし、そのうちまた悪夢がやって来る可能性も……」


「往生際が悪いわね! 悪夢はないことに越したことないでしょう! こうやって、平穏な日々をこれからは過ごしていくのよ」


「ちぇっ……つまんねぇーでやんの!」



 悪夢とは……“悪い夢”のことだ。

 だから無くなることは、本来喜ぶべきはずのことである。なのに……


 こうも寂しく思えるのは……もう智には会えないから……なのかな?



「すみませーん! ここで1枚写真を撮ってもらえませんか?」


「は、はい……いいですけど……こんな何もないところでいいの?」


「いいんです。ここが私達の思い出の場所なんで!」


 

 そりゃ、単なる通行人には、ただの“空き家”にしか見えないよな。

 けど……ここは、俺達の大切な場所なんだ。



「じゃあ、撮りますよ」



「イェーーイ!!」


「ちょっと……あまり押さないでよ! 勇次!」


「はははっ! いつまでも変わらないな、2人は!」



「──はい、チーズ」



 でも、大丈夫だ。もう寂しくなんかない。

 だって、いるんだろ? 俺の隣に。


 “あの写真”と同じように……


 いつまでも隣に──おまえ()はよ。

※次回、エピローグ。最終話となります。

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