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星が墜ちた夜から  作者: Guru
8章 友達
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第71話 “ズレ”

 ジェットコースターの搭乗場所は4階に位置しているため、1階を封鎖しておけば、搭乗場所に行くことは不可能と踏んでいたが……

 実は、4階には従業員のみが通れる、別通路が存在したのだ。


 同じく4階にある園長室の窓から、ジェットコースターを眺める大原は、してやったりとほくそ笑んでいた。


「誰が諦めるものか……ただでさえ警察のせいで、イベントの客足が伸び悩んでいるんだ。今日のイベントは決行するぞ!」



 9時02分。

 2分遅れで、イベント開始時に流れる音楽が鳴り始める。


 ジェットコースターに明かりが点灯した。

 この時点ですでに、コースターは最高地点に到達している。


 芽依と金子は、大急ぎで階段をかけ上があった。


「どうやって……誰がジェットコースターを……」


「さぁ……分からないけど、警部補は園長を説得できなかったのか!?」


 階段の2階と3階の間の階段付近で、若い男性スタッフと2人はすれ違う。

 金子はそのスタッフに警察手帳を差し出した。


「警察だ! 君……こんなところで何をしている!」


「えっ、警察!? 俺はただ、園長に頼まれてジェットコースターを動かすよう言われて……」


「なんだと!? 今すぐ止めるんだ!」


「止めるって言われても園長命令だし……」


「いいから早くしろ!!」


「後で怒られたくないから、あなた達で勝手にやってくださいよ……鍵は貸すので──」


 事の重大さを知るわけもないスタッフは、気だるそうにして鍵をズボンのポケットから取り出す。

 その鍵が見えた瞬間、芽依は手を伸ばし、スタッフから鍵を取りあげた。

 そして、そのまますぐに階段をかけ上がっていく。


「ジェットコースターは私が止める!! 園長が何か裏で動いているのかもしれない!! 金子さんは他のアトラクションの安全を確保して!!」


「……分かった!!」


 芽依の迅速な対応により、金子はこの場を芽依に任せる。

 金子は反対に階段を下り、誠人が本来いるはずだった、コースターの一部が落ちると言われているメリーゴーランドのもとへと走った。



「何なのよ……この私の悪夢は……ちっとも役に立たないじゃない!! だったら初めから搭乗場所の4階にいなさいよ!!」


 芽依はそう文句を垂れたが、悪夢には警察の存在や、園長にイベント中止を求めるような出来事はなかった。

 その新たな動きにより、芽依の予知夢にも変化が訪れているのかもしれない。


 更に、過去に起きていた悪夢は、幾度となく誠人達の予想を上回り、あらゆる手段で襲ってきていた。

 それらをいつもギリギリのところで凌いでいる。

 やはり悪夢を完璧に防ぐことは、至難の技のようだ。


 

 園長室から監視する大原は、自らの指示に従わないスタッフの面々に、苛立ちを覚えていた。


「なぜ、ジェットコースターに続いて、他のアトラクションが動き出さない……照明だって点いたままじゃないか……」


 いくら責任者がインカムで指示を出しても、所詮はその場のスタッフは雇われたバイトの身だ。

 警察の指示に逆らうわけがない。きちんと警察の言いつけを守っている。


「さては、警察が絡んでいるな? 誰がそんなもの許可した……現田め……すべてはヤツの仕業か!!」


 大原は、これでも現田の意向を汲んだつもりだった。

 口は悪くとも、決してこの男は悪人ではない。すべては遊園地の経営のためを思ってのこと。

 

 大原は現田から、“ジェットコースターで事故が起きる”としか、知らされていなかったのだ。

 コースターが脱線した後、フリフォールに直撃し、事故が連鎖する事実を彼は知らない……


 もちろん、現田も必死に大原に伝えようと努めた。

 だが、いくら伝えようとも、大原は現田を煙たがり、聞く耳をまるで持たなかったのである。


 そのため、大原は……


『ジェットコースターで事故が起きるのならば、ジェットコースターに人さえ乗っていなければ、差し支えないのでは?』

 

──そう考えていた。しかし、問題点はそこ(・・)ではない。




 やっとの思いで、芽依は4階へと辿り着く。

 そして、電話ボックスに似た、ガラス張りの操作室の鍵を開ける。


 装置の使い方など、芽依には一切分からない。

 けれども、誰が見ても分かるように、緊急停止ボタンとは備えつけられているものだ。

 芽依の視界には真っ先に、赤で彩られた丸いボタンが飛び込んできていた。


「──これだわ!!」


 芽依はそのボタンに手を伸ばす……


 が、ジェットコースターの始動に気付くまでのタイムロスが響いたのか……

 あと僅かといったところで、最高速の時速130キロに到達していたジェットコースターは……


 脱線し、宙を舞った。

 


 実際問題として、スタッフの日常点検による落ち度はなかった。機体チェック、閉園時にはテスト走行……いずれも問題なし。

 

 しかし、問題があったのは機体の方ではなく……“レール”。

 更に、不運なことに本日の天候は、“雨”だ。


 予期せぬ事態とは、いつくもの不運が重なるもの。

 老朽化していたレールの上を走るジェットコースターは、最高速度でコース一番のカーブを曲がりきる際、雨でスリップし……脱線を引き起こしたのだ。



「う、うそ……間に合わなかった……」


 芽依がボタンを押した頃には、すでにコースターは脱線した後だった。

 今更押したところで、ブレーキがかかるわけがない。


「ごめん……誠人、勇次、ゲンさん……私……私!!」


 芽依の頬には、大粒の涙が伝った。




・・・




 一方、コーヒーカップ付近にいた勇次。

 勇次の目には、空飛ぶジェットコースターの姿が映っていた。


「おい!! だめだったのかよ!!」


 勇次は前にあるトイレを見た。

 トイレはすでに立ち入り禁止となっているため、中に人はいないはず。


 しかし……

 その立ち入り禁止マークの深い意味を知らない、制服を着た男子高校生が、傘もささずにトイレへと直行していたのだ。



「あった! トイレ! 漏れる漏れる! って……まさかの清掃中!?」


 膀胱爆発寸前の彼は、立ち入り禁止などお構い無し。

 脇目も振らず、トイレの中へと入って行こうとしている。


「おい、危ないぞ!! それ以上近づいちゃだめだ!!」


 勇次はビニール傘をその場で投げ捨て、すかさず止めに入った。

 がっちりと男の子の背中を掴み、()方向へと移動させる。


「えっ、お兄さん何すんの!? ちょっとぐらいいいだろ! 清掃中だって!!」


「あれは清掃中の意味なんかじゃねぇ!! 死にてぇのか!!」


「死にたいって……そんな大袈裟な」


 男の子が『何言ってるんだ』、そう呆れていると……

 上空で凄まじい激突音が響き渡った。

 

「えっ……」


「伏せろ!!」


 勇次は男の子の上から覆い被さり、身を低くする。 

 そして、その僅か数秒後。衝突により分裂したコースターの1台が、トイレの左側(・・)へと落ちた。


 コースターは男子トイレがあった位置に落下しており、トイレの天井や壁が粉々となって、破片が辺りに飛び散っている。


 だが、勇次が身を低くさせたことが功を奏し、お互い無傷で済んでいた。


「大丈夫か!? おまえ!!」


「大丈夫だったけど……大丈夫じゃないかも……」


「はっ?」


 男の子に怪我はなかったものの、今の衝撃的な出来事により、どうやら小便をちびってしまっていたようだ。


「ばか野郎! 命が無事だったんだ。そんなもん我慢しろ!」


 勇次は男の子の頭を軽く叩き、ゆっくりと起き上がった。右手の甲で額の汗と雨粒を拭う。


「ふぅ……危ねぇ……誠人の言ってた通りだ。トイレの左に落ちるって言ってたからなぁ。けど……」


 誠人の話だと、トイレには直撃せず、左の道端(・・)に落ちるということだった。

 しかし、コースターは左にあった男子トイレの位置まで到達し、トイレは半壊している。


「誠人の悪夢と多少の位置ズレがある……誠人……本当におまえ……大丈夫なのか……?」

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