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星が墜ちた夜から  作者: Guru
8章 友達
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第69話 “ラストチャンス”

 俺は散々言い続けてきた。

 この悪夢には──“意味”があると。


 その意味も、ようやく分かった気がする。

 俺達は……今回の事件を防ぐために、今まで戦っていたんだ。


 いち早く予知夢に目覚めた智を救えなかったことを、勇次は悔やんでいたが……

 今はもう、へこたれている場合ではない。


 目の前にある事件に全力を尽くし、智の分まで戦わなければならないはずだ。

 勇次だけでなく、全員がそのことを分かっていた。

 俺達はそう、更に結束を固めたところで、その日は解散する。

 

 恐らくこれが最後となる、悪夢の事件だ。

 俺はその夜……またしても同じ夢を見ることになる。




ーーー




 この日も同じ場所から、俺の悪夢は始まった。

 21日から今日まで、これで3日連続だ。

 明日の24日が、この夢の事件当日となるため、今回がラストチャンスだろう。


 もうメリーゴーランドの上や、コーヒーカップ付近に落ちるコースターの位置も把握している。

 あとはフリーフォールの支柱が倒れる、その位置だけだ。



『何度やっても間に合わないんだよな……だったら……』


 俺は芽依が言っていた言葉を思い返した。


 “無理なものは諦めて、別の方法を取る”──と。

 

 俺は支柱が倒れる連絡通路とは見当違いの方角の、ジェットコースター乗り場へと一目散に走った。


『これも芽依が下見の時に言っていた! 乗り場の階段を昇れば、連絡通路が見えてくるって!』


 連絡通路までの道のりは遠くても、ジェットコースター乗り場なら比較的ここから近い。


『頼む……悪夢……終わらないでくれ!!』


 俺は無駄だと知りながらも、悪夢に願いを込めた。

 


 それがどんなに(むご)い結末でもいい……

 一生のトラウマになってもいい……


 だから……悪夢よ終わらないでくれ!!

俺にどうか悪夢の続きを……結末を教えてくれ!!



 全力疾走を続けた俺は、なんとかしてジェットコースター乗り場の階段へと辿り着いた。

 ジェットコースターの搭乗場所は4階にあるが、この時点ですでに、俺の足は吊りそうだった。けれど、それでもノンストップで階段をかけあがっていく。


『そういえば、このジェットコースター乗り場……屋根がついてるな。だからか! 芽依の悪夢で雨が降ってないと錯覚していたのは!』


 ここに来て、芽依の悪夢の天候の違いに今更ながら気付く。

 しかし、もはやその情報はたいした情報でもない。必要なのは、支柱の倒れる位置のみだ。

 俺は階段横の柵から、外を覗き見た。

 

 ここにある柵は、少しでも待機の人の退屈を凌ぐためか、外が見える作りになっている。

 今いるのは2階……まだここでは連絡通路付近の景色は見えてこない。

 俺は横目で外を見ながら、そのまま3階にあがっていく。そして、その時……


『──見えた!!』


 僅かではあるが、倒れていく支柱を確認することができた。

 だが、見えたのは支柱の一部と、その連絡通路と球場の外周にいるであろう、何百といった数の人だかりだけ……



──ここで、俺の悪夢は終わりを告げる。




ーーー




「はぁ……はぁ……分かった。なんとかギリギリ見えたぞ。倒れるのは一般道路ではない……“連絡通路”の方だ!!」




・・・




 24日当日。夜7時半。

 待ち合わせ場所は前回と同じ、噴水広場の前。


 俺達3人と、ゲンさん、金子さん、全員が一度集結する。



「──前回との相違点は、こんなところです」


 早速俺はゲンさんに、新たに分かった被害場所を伝えた。


「そうか。分かった。記憶しておくよ」


「けど、ゲンさん……やっぱり遊園地の閉鎖は無理だったみたいだね……」


 またしても、警察の要請に園長の大原は応じなかったらしい。

 遊園地は普通に営業しており、園内には人が大勢いる。


「あぁ……君達も週刊誌の件は知っているだろう? あれが尾を引いてな……中々園長も要求を飲んでくれやしない」


 やはりそうか……

 あの週刊誌に載ったマイナスイメージは、かなりの悪影響を与えていたようだ。



「──そうだ勇次。おまえ、野球に詳しかったよな」


「まぁ人並みにはな。それがどうした?」


 実のところ、俺は昨日の悪夢で、更なる発見をしていた。

 その点について、勇次に尋ねる。


「さっきみんなに話したように、悪夢の中で、チラッと連絡通路が見えたんだ。そこには信じられない数の人がいた気がして……」


「ん? それと野球の、どう関係が?」


「いや、前回の20日の時……あの時は、連絡通路を封鎖していたにせよ、あそこまで人は溢れてなかった気がしたんだ」

  

「そういう話か。前回は別の球場で試合をやってて、東京球場は使ってなかったみたいだからな。だが、残念ながら今日はここで試合が開催される日……球場には大勢の人が集まっているに違いない」


 東京球場の収容人数は最大5万人だ。

 すでに学生達は夏休みに入っているし、今日もさぞ満員となっていることだろう。


 しかし、それを聞いても俺にはまだ疑問に残る点があった。

 その点について、再度勇次に尋ねる。


「それはまさに残念な話だけど…….そんなに野球の試合って早く終わるもんなのか? 試合中なら、そこまで外に人がいることもないと思うんだけど……」


「基本ナイターの場合だと、夜6時から試合が始まって、終了まで平均3時間半くらいはかかる。でも、稀にあるんだよな……エース級同士のピッチャーの投げ合いで、誰も打たないもんだから、3時間切るほど早く終わっちまう試合がよ!」


「じゃあ……それが今日……」


「かもな。不運にも、その日に当たっちまうのかもしれねぇ」


 最悪だ……そのせいか。

 悪夢の中で、球場の外周や連絡通路に、人が溢れかえっていたのは……

 どうしてこうも、不運は重なってしまうのか……


 俺がそう肩を落としていると、今の話を隣で聞いていたゲンさんは、更なる悲報を俺達に告げる。


「だとしたら、余計厳しい状況になるかもしれないな……今回は2回目とあってか、前回ほど人員を用意できなかった。最低限の配置しかできない……一般道路の封鎖などは、厳しいかもしれん」


 警察の方も人手不足か……まぁそれもそうだよな。

 ゲンさんや金子さんみたいに、全面協力してくれる方のが珍しい。

 ましてや、事故が起きる証拠は何ひとつないんだ。

 僅かでもいてくれるだけ、ありがたいと考えるべきか。 


 

 球場からの溢れ出る客……警察の人員の少なさ……不安要素はいくつもある。

 

 それらを知った上で俺は、あるひとつの決断を下す。

 正確には、決断と言うより──“決意表明”と呼べるのかもしれない。 



「なぁ、ゲンさん。ひとつ提案があるんだ。本来俺が夢でいた位置は、メリーゴーランドの前だった……でも、そこは警察の人に対応してもらえれば、なんとかなるはずなんだ。だから──俺の持ち場は、支柱の倒れる“連絡通路”にさせて欲しい」


 元々その危険な位置は、ゲンさんと別のもう1人の刑事さんが、対応する場所のはずだった。

 その場所を、警察以外の素人の人間に変更するとは……

 ゲンさんは真っ先に俺の意見に反対した。


「いや……だめだ。その場所は一番危険が伴う場所……ここは我々に任せて、誠人は元の位置にいるんだ」


 ゲンさんのことだ……そう言うと思ったぜ。

 

 でも、ここは折れるわけにはいかない……

 どんなに危険が待っていようと……ここは俺がやるしかないんだ。その理由だって、ちゃんとある。


 俺は闘志を剥き出しにし、気持ちの全面をゲンさんにぶつけた。


「いや、行かせてくれ!! 俺にやらせてくれ、ゲンさん!! 俺は昨日の悪夢で、支柱が倒れる位置を見ている。俺以外、その倒れる位置を見た者はいない! だからこれは……俺にしかできないはずなんだ!!」


 警察の人では、支柱が倒れる位置は分からない。

 そうなれば、ここは危険が迫ろうとも、俺がいるべき場所であるはずだ。


 ゲンさんは、じっと俺の目を見た。

 俺は一切目を反らさず、意思を貫き通す。


 正直、自分でも驚くくらいに、この時の俺は頑固だった。

 でも……これだけは何があっても譲れない。


 普段とはまるで違うであろう俺の姿を見たゲンさんは、ぼそりと呟いた。


「君も……持っていたんだな? 鋼の意思を」


「……あぁ!! もちろんだ!!」


 ゲンさんはそう言って微笑み、渋々俺の意見を──飲んだ。

 

「だったら任せよう。誠人!! 君の持ち場は私と同じ、連絡通路の前だ!!」


「了解!! 恩に着るぜ、ゲンさん。俺が智の代わりになって……必ず全員を事故から防いでやる!!」

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