第66話 “メッセージ”
俺達はそのまま車で移動し、出発してから約2時間後。
山梨県にある、智の実家へと到着した。
俺と芽依は運転手の勇次を残して、一旦車の外へと降りる。
「ここか……落ち着いた、いいところだな」
そこはとても静かな田舎町といったところだった。
智の実家は平屋で、とても大きなお家だ。
15分ほど前に、芽依がそろそろ着くことを電話で伝えていたためか、家の外で智のお母さんが待ってくれている。俺達を出迎えてくれていた。
「あら、久しぶりね! みんな! 大きくなっちゃって!」
小学校の頃、よくみんなの家に出入りして遊んでいたので、それぞれの両親とは全員面識がある。
実際俺達は、去年の智の葬式の時に智の母親には会っているのだけど……
あの時の精神状態では、俺達の顔などよく覚えてはいないだろうな。
「すみません。今日は突然の連絡で、お邪魔する形になってしまって」
「いいのよ! 智も喜ぶことでしょうし! 車はその辺に適当に停めてもらって大丈夫だから。さぁ、何もないところだけど、上がってちょうだい」
勇次が車を停めるのを待った後、俺達は智の実家へと上がらせてもらうこととなった。
・・・
「まさかあなたが、あの芽依ちゃんとはね。綺麗になっちゃって。誰だか分からなかったわ」
「いえ……ありがとうございます」
おばさんは昔から明るく、よく話す人だ。
まずは智の仏壇へと案内してくれているらしい。
俺達は家の廊下で、おばさんと他愛もない会話をしていた。
「誠人君もあんなに小さかったのに、随分大きくなっちゃってねぇ」
「はい、昔はかなり背が小さかったですから。智とは兄弟とよく間違われたものです」
「あら、そんなことあったっけ? でも勇次君は……ちっとも変わってないわね。見た瞬間、すぐ誰だか分かったわ!」
「えぇっ! そうですか……喜んでいいのやら、何のやら……」
長い廊下を歩いた後、俺らは智と久しぶりに再会する。
「ほら、みんなが会いに来てくれたわよ。智」
智に話しかけるように、仏壇に向かって、おばさんは明るく声をかけていた。
「智……」
仏壇の上には、亡くなる直前の智の写真が何枚か飾られている。
中学を卒業以来、智とは数えるほどしか会っていなかったため、俺達の知らない智の姿が写真には収められている。
1枚の写真からでも真面目さが窺える黒い髪の毛に、ほんのり焼けた小麦色の肌。いかにも好青年といった感じだ。
智……遺影だけではよく分からなかったけど……こんな風になってたんだな……
俺がまじまじと写真を眺めていると、おばさんは寂しそうな声で言った。
「あまり写真という写真がなくてね。これしかなかったの……もっと写真、撮っておけばよかったわ」
確かに、女子ならまだしも……
男の俺には気持ちがよく分かる。どうも歳を重ねるにつれ、写真を撮るのが小っ恥ずかしくなってくるんだ……
俺ももうちょっと、今からでも写真を撮るようにしとこうかな。
俺達は1人1人、線香をあげながら、智と会話をした。
特に俺は、“どうか力を貸してくれ”……そう強く願った。
智との対話を終えた後、おばさんは居間でお茶を入れてくれた。
ちょうどこの部屋からでも仏壇を眺めることができる。
そのため、智も交えた気分になって、昔話に花を咲かせた。意外にも、おばさんとの思い出話も多い。
あれだけ俺達は仲良く、常に一緒にいたんだ。
俺達が小さい頃の記憶を覚えていないだけで、おばさんは色々と覚えているみたいだった。
「あぁ、そうそう。これ、渡しとくわね」
会話の途中で、おばさんは何かを思い出したかのように、突然立ち上がる。
ゆっくりと智の仏壇へと向かい、仏壇の引き出しから、“あるもの”を取り出した。
「はい、これ」
そして、おばさんは偶然近くにいた俺に、その“あるもの”を、そっと手渡す。
「──これって……」
俺が手にしたもの……それは──“1枚の写真”だった。
昔よく遊んでいた、あの頃の懐かしき写真である。
そこには、笑顔の俺達4人の姿が写っている。背景からして、智の埼玉時代の家の前で撮ったものだろうか?
しかし、この写真……おかしな点がある。
随分と折れ曲がり、汚れているというか……かなり濡れた跡が残ってしまっているのだ。
「これ……なんでこんなに濡れて……」
「それね、智が亡くなった時に、お財布の中に入ってたものなの」
そういう……ことか……
俺は今のおばさんの発言で、ピンと来ていた。
智が亡くなったとされる場所は、山梨県のとある川だ。水難事故に巻き込まれ、突然の死を迎えている。
それを知ってから改めて写真を見ると、この折り曲がった跡や、濡れた跡は……いかにも生々しい。
「──川での事故だったからね……中々遺品は出てこなかったんだけど、バッグの中の財布のその写真は、不思議と綺麗に残ってたのよ」
「そうなんですね……」
ふと、何となくで俺は、その写真の裏側を見てみた。
すると、そこにはマジックか何かで、文字が書かれている。
「なんだこれ……」
俺はその文字を読もうとしてみたが、水で濡れてしまったせいか、真ん中辺りに書かれていた範囲が認識できない。
端の辺りだけは、かろうじて読むことができるため、その読める部分だけを、とりあえず読み上げてみる。
「“みんな────ように”……かな? 後は、ほとんど滲んで読めないな」
隣に座っていた勇次は、疑問に感じていたのか、おばさんに写真のことについて尋ねていた。
「この写真って、大人になるまで財布に入れてたんですかね? 昔からずっと」
「いえ……違うと思うわ。あれは亡くなる半年くらい前かしら。急に智が『昔の写真はないか?』って、騒ぎだしたのよ。財布の中なんて普段覗かないから分からないけど、きっと入れたのはその時だと思うわ」
ここで芽依は、何かを思い付いたかのように、強引に俺から写真を奪い取る。
「ちょっと貸して」
「おっと……」
食い入るように写真を眺めた芽依は、この謎の文字に、ある違和感を覚えたようだ。
「おばさんの言う通りかも……この字……明らかに大人になってからの字ですもんね。智は字が綺麗だった記憶はあるけど……さすがに子供の書く字じゃない」
確かに……言われればそうかも。
どうみても、この当時写真を撮ったときに書かれた文字ではない。
だとしたら、なぜ智は急に俺達の写真を……
これは……もしかして、俺らに対するメッセージなのか?




