第64話 “実家”
結局、二度目の悪夢でも、俺はフリーフォールの倒れる位置を見ることはできなかった。
あの連絡通路までは、けっこうな距離がある。
どれだけ全力疾走しても、その場所を確認する前に、悪夢は終わりを告げてしまう。
たが、その中でも確認できたこともあった。
日時は俺が前回見てた通りの、24日の夜9時04分。
また、天気は雨だったこと。
それらを再確認できただけでも、十分価値はある。
ひとまず俺はその情報をメモし、眠りにつくが……
翌朝、またしても今までにはない現象が起き、俺は目覚めの悪い朝を迎えた。
昨夜見た、二度目の悪夢……それを見たのはなんと俺だけで、勇次と芽依は悪夢を見ていなかったのだ。
これは早急に2人と話さなければ。
俺達は急遽その日に、いつものバーに集まることとなった。
──22日の夜。バー・眠れる羊にて。
「おう、来たか。誠人。なんだっておまえ……また同じ悪夢を見たらしいな」
この点はいつも通りで、勇次が誰よりも早くバーに来ている。
「あぁ、こんなこと初めてだ。最悪だよ……2回も見るなんて……」
「気の毒ではあるが、その分、予知夢としての情報も増えるはずだ。ポジティブに考えてけ」
「そうだけどさ……見てるのが自分じゃないから、そんなこと言えるんだよ……それより、芽依とゲンさんは?」
「ゲンさんは仕事で今日は来れないらしい。芽依は15分くらい遅れるって、今さっきメッセージが来てた」
ゲンさんは俺ら学生と違って忙しいから仕方ないな。特に今日は急な集まりだし。
何か分かったら、連絡を入れるようにしよう。
芽依が遅れてるのは……きっと俺があの“頼み事”をしたせいだ。
──それから約15分後。芽依が遅れてバーに到着する。
「お待たせ、2人とも。一度実家に帰ってから来たから、遅くなっちゃった」
「実家? 芽依の実家って、埼玉のままだよな。何で突然、実家に……」
勇次がきょとんとしていると、芽依は俺を睨み付けた。
「誰かさんに……頼まれ事をされてね……」
「そんな顔するなよ。で、あったのか? 俺も一応実家に帰って探しては見たけど……見つからなかった」
「あったわよ。ちゃんと大切にしまっといたんだから。本当にだらしないわね!」
芽依はバックから、俺が頼み込んでいた“あれ”を取り出し、テーブルの上に置いた。
「ん? これって……」
何のことか見当もつかない勇次は、まじまじとその品を眺める。
「──智が亡くなった時に、智の実家から送られてきたハガキじゃねぇか」
「えぇ、そうよ。これを失くすなんて……信じらんない!」
芽依は俺を軽蔑したが、俺は見苦しい言い訳で誤魔化した。
「智が亡くなったのが信じられなかったんだよ。だからもう見たくもなくて……」
「いいです。そんな言い訳は。神奈川から埼玉行って、それでまた都内に来たんだからね!」
芽依は文句を垂れていたが、その話すら聞かされていない勇次は、納得のいっていない様子だった。
「おい! 俺、こんな話聞いてすらいないぞ!」
「だって……勇次も俺と同じで、どこやったか分かんないと思って……」
「あぁっ!? ん……まぁ、そうかもしれないけどよ……」
一度キレては見たものの、語尾に勢いはなくなっていく。
やはりそうだ。最初から勇次には期待していない。だから勇次には話していなかったんだ。
「それで、わざわざこれを持ってこさせてどうするつもり? 誠人」
芽依に尋ねられた俺は、気持ちを一度切り替えた。
その真剣な眼差しは、きっと2人に伝わったと思う。
「あぁ、俺達の悪夢は、まだ終わっていなかった。どうして俺だけが、同じ夢を見たのかは分からないけど……」
「もしかして俺が前言った、“夢の濃さ”が関係してるのか?」
「さぁ……それかどうかは分からない。けど、今回の事件はかなり大きな規模のものだろ? だから、少しでも智の力を借りようかと思ってさ!」
「力を借りる……なるほどね! 会いに行こうってわけね! 智に!」
どうやら芽依は、俺の意図を汲んでくれたようだ。
「あぁ、線香でもあげに家まで行こう。俺達の顔を智に見せてやろうぜ」
「智の実家があるのは……山梨県。なるべく早く行きたいわね。できることなら明日にでも」
「そうだな、勇次。明日、車出せるか?」
「そういう話なら任せとけ! 例え親にだめと言われても、カージャックするぐらいのつもりで、持ってきてやるぜ!」
こういう時は頼もしいな。勇次の破天荒っぷりは。
「仕方ないから、粗相がないよう私が智のお母さんに連絡をつけてあげる。あなた達じゃ不安だし」
「頼むよ。ありがとう芽依」
「その代わり、2人とも朝早くちゃんと起きてよ? 今日はもう遅いから明日電話するからさ。いつでも出発できるように!」
「「おう!!」」
こうして俺達は明日、智の実家を訪ねることとなった。




