第57話 “鍵”
勇次の表現する──夢の濃さ。
聞いてる限りだと、確かに俺と2人では、その“濃さ”とやらの違いはありそうだ。
しかし、それだけを理由に、俺の夢が正しいと決めつけられては困る。
「おいおい……過信しないでくれよな。実際に俺の日にちと、決まったわけじゃないぞ?」
「分かってるって。その可能性が高いんじゃないかって話だ」
それでもやはり勇次の持ち出した説は何の根拠もなく、何だか腑に落ちない。
俺の見た悪夢の日にちは24日だが、勇次の場合は、俺の日にちよりも手前の20日だ。
こちらの可能性を否定するわけにはいかない。
「それにしても、まず今日から一番近い日にちは、勇次の見た悪夢だろ。これを無視はできないよな……」
今日は16日。まだ猶予はある。
慎重派の芽依は俺の意見に賛成だったのか、すべての夢の日にちを網羅するつもりだ。
「そうね。可能性があるかぎり、その日は東京遊園地に向かいましょう。タイミングもよく、そろそろ夏休みに入ることだし」
気付けばもう7月の終わり。学生は夏休みを迎える。特に大学生の夏休み期間は長い。
「そうだな。俺は明日、下見がてら遊園地を見に行ってみるよ」
積極行動の勇次は、早速明日、直接現場に足を運ぶようだ。
「俺も行きたいけど……明日は大学に行かなきゃなんだよな……」
「無理には大丈夫だ。誠人。それに全員が同じ行動を取っても仕方がない」
「そうね、それぞれが出来ることをしましょう。私も大学があるから、帰りに寄れたら遊園地に寄ってみるわ」
芽依は都内の大学に通っているため、比較的遊園地には近い。行ける距離だ。
とりあえず今日は、これにて解散することになった。
次の集合日時は、明後日の18日の夜に決まる。
・・・
──各々が情報収集を済まし、約束の18日の夜。バー・眠れる羊にて。
「俺は昨日遊園地に行ってみたけど、2人はどうだ? 何か分かったか?」
勇次が場を仕切り、スマホをテーブルの上に置いた。
「写真をいくつか撮ってきた。園内はこんな感じだ」
何十枚も色々な角度から写真は撮られている。
今一度、それぞれの夢の配置を確認しながら、その写真を眺めた。
「確か俺は前にメリーゴーランドがあったんだよな。そうだ、こんな感じだった」
俺の目の前で、2つの連なったコースターが落ちる。いくつかのメリーゴーランドの乗り物を直撃していた。
芽依がいたのはジェットコースター乗り場。
勇次はフリーフォールの傍にあった、コーヒーカップの近くだ。
確か、その辺りにもコースターは落ちるはず。それは倒れるフリーフォールの反対サイドに当たるはずである。
「写真を撮るときに気付いたんだけどよ……俺達の悪夢……誰もフリーフォールが倒れる位置にいないんだよな……」
そう……なんだよな。
非情なことに、一番犠牲が出たであろう、折損したフリーフォールが倒壊した位置……それが俺達には分からないのだ。
「もしかして……この悪夢を見たのが……智……」
やはりここに来て、最難関の問題が発生してしまう。
どうしていつもこう、智が“肝心な悪夢”を握っているのか。
「それでもフリーフォールだけじゃない……ジェットコースターには人が乗っていた。犠牲者は他にもいるぞ」
「あぁ、分かってる。もちろんその人達も助けなきゃならない。けどよ……」
悪夢では、フリーフォールが倒れる際、おびただしい数の悲鳴が聞こえていた。
果たして一体、どれだけの犠牲者が出てしまうのだろうか……想像しただけでも身の毛がよだつ。
「そう言うと思って、一応私も昨日見に行ったわ。私が行ったのは、遊園地ではなくて、“その隣”だけど」
どうやら芽依も昨日の大学終わり、遊園地に足を運んでいたらしい。
しかし、芽依が行ったのはその隣の施設のようだ。
この東京遊園地には、隣接してもうひとつの大型施設が存在する。
それは──“東京球場”。
最大5万人が収容できる、ドーム式の大型野球場である。
「勇次が遊園地を見てくれてると思って、私はこっちを見に行ってたわ。これがその写真よ」
芽依は勇次と違い、スマホで撮った画像を、実際の写真にして持ってきていた。
その何枚もの写真を、テーブルの上に並べていく。
「なるほど。こっちのが見やすいな。俺も必要な写真を現像してみるか」
勇次が感心したところで、俺はその写真に目をやった。
「──ん? この写真って……」
芽依が撮ってきた写真は、野球場が写されているのかと思いきや……どれもこれも、その外周。通路の写真ばかりである。
「どうして、“外”の写真ばかりなんだ?」
「それはね、私の夢の位置からは、なんとなく倒れる位置が見えたのよ。折れたフリーフォールは、球場の方までは届いてなかったはず。倒れたのは上の階にあたる通路の部分」
この遊園地は、当然の話だが、すべてのアトラクションは1階に建てられている。
しかし、隣の東京球場の入り口は“2階”にあるのだ。
道路を挟み、遊園地と球場を繋いでいるため、1階は一般道。2階は歩いて行ける連絡通路となっているわけだ。
そして、そのまま2階は球場の外周となっており、番号が振られたいくつもの通路と入り口が存在する。
「そうか……フリーフォールが倒れても、球場までは届くわけがない。連絡通路の上に倒れたか、それとも一般道の方に倒れたか……その2択になるって話なのか」
芽依が何枚も通路の写真を撮っていた意味が分かった。
だが、明確な位置までは芽依にも分からなかったようだ。
「だけど、倒れた詳しい位置が私にも分からなかったの……私はジェットコースター乗り場の下の階にいた。事態にいち早く気付いて、上まで昇ってれば見えたかもしれないのに……」
芽依は自分を責めた。勇次は慌ててフォローする。
「仕方ねぇよ。何が起こるか事前に分かるわけじゃねぇんだ。芽依が責任を感じることではない」
「でも……」
芽依は完全に意気消沈気味だ。本当に勇次の言う通りなのに。
確かに倒れる位置が分かれば、多くの犠牲者を防ぐことができるかもしれない。それだけに後悔の念が強いのだろう。
──しかし……その芽依の落ちた気持ちを、一瞬にして吹き飛ばすかのような出来事が、このあと起こる。
俺達のテンションは一時的に下がり、静まり返っていた。
そのせいあってか、黒のカーテンの外から、声が漏れ出ている。
「どうしたのです? こんなところで。中に入らないのですか?」
これは……店のマスターの声だ。
そのマスターと思われる声に続いて、今度は別の声が聞こえてくる。
「いや、私はここで大丈夫です。邪魔なら帰りますが……」
──あれっ? この声……どこかで聞いた覚えがあるな……
謎の人物とマスターとのやり取りに疑問を感じた俺は、ソファーから立ち上がり、思いきってカーテンを開けた。
すると……
「あなたは……ゲンさん!!」
そこには通称、ゲンさん。埼玉県警の現田警部補の姿があったのだ。




