第58話 “効力”
「ゲンさん……? それは私のことか?」
ゲンさんこと現田刑事は、聞き慣れない言葉に拍子抜けしている。
やっべ……いつも俺達で勝手に『ゲンさんゲンさん』呼んでるもんだから、本人の前でもつい……
──って、今はそんな話はどうでもいい。
「なんであなたがこのバーにいるんですか……」
「いや……それはだな……」
現田刑事はとても気まずそうにしている。
『これは悪いことをしてしまった』と感じてか、マスターは慌てて勇次に確認を取った。
「知り合い……でよかったんだよな? 勇次。この人に聞いたら3人のことをやけに詳しく知るものだから、つい案内してしまったのだけど……」
勇次は深い溜め息をつくも、渋々現状を受け入れる。
「……あぁ、大丈夫だ。知り合いだから気にしないでくれ。現田さん……立ち話も何ですし、中に入って座ってください」
勇次は現田刑事を招き入れた。空いている芽依の隣の席に誘導する。
「お飲み物は、何になさいましょうか?」
その場に居たついでに、マスターが現田刑事の注文を取った。
「これでも勤務中でな……お茶を頼む」
「かしこまりました」
注文を受けたマスターが離れたところで、早速俺は現田刑事に問いかける。
「ずっと……聞いてたんですか?」
「あぁ、悪いが盗み聞きさせてもらっていた」
相手が警察という立場にも関わらず、今はこちら側が優勢だ。
「そうですか……それに、さっきは聞きそびれましたが、どうしてここが分かったんです?」
「それは……君達をつけていたからだ」
「つけていた?」
「あぁ……この際だ。はっきり言おう。我々警察は、君達を要注意人物として、ずっとマークしていた」
マジかよ……以前、芽依が言っていた通りだ。本当に俺達、怪しまれてたのか……
現田刑事はカバンから、1枚の新聞を取り出した。
「この記事を見て、君達の警戒を更に高めた」
「これって……」
勇次が目を丸くして、その新聞の記事を見ている。
その記事は、神奈川の公園の殺人未遂事件の記事だった。俺達がちょろっと写真に映った、ほんの小さな記事。勇次が買い漁った、あの新聞である。
「──失礼します。お飲み物をお持ちしました」
「……ありがとう」
抜群のタイミングで、マスターは飲み物を運んできてくれた。現田刑事はお礼と共に飲み物を受け取る。
まだそこまで機密な話はしていない。本当にいいタイミングである。
現田刑事は一口お茶を飲み、ここに至るまでの経緯を簡潔に説明した。
「何日間か、君達3人を尾行させてもらった。すると、君達は何やらこのバーで怪しげな会合をしているのが分かってな」
「それで、しまいにはこの店の中までついてきたってわけですか……」
「そうだ。だが、安心したまえ。今日は他の刑事はいない。私だけだ。皆、他にやらなければならない事件があるからな……」
今の意味深な発言に、芽依は疑問を抱いたのか、現田刑事に真意を求める。
「あの……それはどういう意味で? なぜ自ら1人だと、私達の警戒心を解く必要があるのですか?」
現田刑事は持っていた新聞をカバンの中へとしまい、小さく溜め息をついた。
「そうか……君がこのメンバーの“ブレーン”か……」
「えっ……?」
芽依は現田刑事の本音を、どことなく見抜いていたのだろう。
そのために、先程の言葉が出てきたと思われるが……
現田刑事は腹を括ったのか、率直な質問を俺達にぶつける。
「正直に話そう。先程の遊園地の話……あれは本当の話なのか? 知念君が事情聴取の時に言っていた、あの悪夢──“予知夢”とやらは……本物なのか?」
この言葉により、俺にも現田刑事が何を求めているのか、少し分かった気がした。
初めはマークされていたことに焦り、この作戦会議の場所もバレ、まずいことになったと思っていたけど……
どうやらそういった流れの話でもなさそうだ。
俺はこちらを見る現田刑事の目を、しっかりと見つめながら答える。
「……はい。本当の話です」
「おい! 誠人!!」
きっと勇次は聞かれても誤魔化すつもりだったに違いない。1人焦っていた。
現田刑事は残りのお茶を一気に飲み干し、この時期には暑苦しそうなジャケットを脱いだ。
「そうか……ならば信じてみよう! 協力しようじゃないか。話してくれないか? 詳しく。君達の見た、悪夢について!!」
「えっ!? 信じてくれるんですか!?」
勇次は現田刑事の発言に、誰よりも驚いている。
「あぁ。正直、君達と初めて会った銀行強盗の事件の時……あの時すでに、君達を信じるべきか考えていた。現場に居合わせた私は、君達の予測していたかのような不思議な動きを目の当たりにしている」
すでにこの時点で、現田刑事は俺達を信用しかけてくれていたようだ。
しかし、これだけでは決定力に欠ける。
「それだけでは信用ならなかったが、君達は別の事件をも解決させていた。更に、聞いていた話だと、大事故がこれから起こるというのだろう? これは放っておくわけにはいかない!」
現田刑事に笑顔が溢れる。
その顔に釣られる形で、自然と俺達も笑顔になった。
やはり俺の目に狂いはなかったみたいだな。
よかった……あの事情聴取の時、正直に現田さんに話しておいて……
だいぶ時間差はあったが、ここに来てその効力は、ようやく発揮される形となった。




