第49話 “いつもの光景”
勇次の笑顔に見事やられ、すっかり心を許した俺に対し……
芽依はまだ不安が残っていたのか、勇次の心境の変化について問いかけている。
「それにしても突然どうしたの? あれだけ参加しないって話だったのに、協力してくれてさ。その心変わりは何だったのよ?」
「それか……俺はおまえらに事件の場所を知らせないために、全部黙ってたつもりだったけどよ……それでもおまえらは必ず無理するだろう? 何としてでも、事件を防ごうとする」
「うん」
芽依による、何の曇りもない一言。
やはり自分の考えは間違っていなかったのだと、改めて勇次は確信を持つ。
「……だと思ってよ。そしたらおまえらのことが気になって気になって、仕方がなくなっちまった。突き放すつもりが、気付けば余計にな……しまいには現場にまで向かう始末よ」
「なるほどね。最初っから、気にしないってのは無理があった話なわけね。だったら──もうあの辞めるって件は、無かったことでいいのかしら?」
自ら去った勇次からしたら、今の芽依の言葉は助け船となったはずだ。だいぶ救われたに違いない。
「あぁ……おまえらが頼りなさすぎるからよ。仕方ねぇから一緒にやってやるよ! 仕方なく……だぞ?」
勇次はお得意の上から目線で、“仕方なく”を強調する。
しかし、それでも俺は否定することせず、あえてその勇次の言葉に乗っかって見せた。
「そうだな。仕方なく……な」
俺達3人は笑顔に包まれる。
本当は誰が一番、離ればなれになるのが辛かったのか、耐えられなかったのか……俺には分かっていた。
でも、そこはもう言及する必要もないだろう。
いつもの勇次が戻ってきたんだ。それだけでいい。
ちょっと甘い気もするけど、別に勇次は悪いことをしてたわけじゃない。今回の件は、一時的な考え方の不一致によるものだしな。
とにかくすべては、うまい酒と一緒に飲み込もうか!
俺達は一斉に酒を胃袋に流し込んだ。
これで綺麗さっぱり水に流れた……ってわけだ。
大学生でも、たまには親父ギャグを言ったっていいだろう?
「あ、そうだ。2人にいいものを見せてやろうと思ってよ!」
勇次はこのいい流れになったところで、話を切り出す。
「何? いいものって」
芽依はテーブルに身を乗り出し、早くも興味津々だ。
「これだよ。ここ、よく見てみろ」
勇次が持ってきたのは、昨日の新聞だった。その新聞をテーブルの上に広げ、ある1つの記事を指差している。
俺と芽依は一緒になって、その記事を読んだ。
「なになに……『お手柄!! 大学生3人組が殺人を防ぐ!!』──だって!?」
その記事には、何と俺らの事が書かれていたのである。
それはとても小さな記事で、あまり目立ったものではない。
しかし、その記事には白黒写真が付いており、大部分は逮捕された犯人が写されているが……その隣に俺達3人が、ちょろっと写真付きで載っているのだ。
「凄いわね。勇次。こんな小さな記事、よく見つけたわね!」
「当たり前だろ。俺を舐めるなよ? 何社か見たが、この新聞一社しかなかったがな」
あぁ……なるほど。めちゃくちゃ探したわけだな。
俺達の活躍が記事になってないか、新聞を買い漁って探し回ったんだ。
容易にも、そんな勇次の姿が俺の目にすぐ浮かぶ。
「なんだ。誠人。そんなこれが気になるのか?」
「──えっ?」
俺は単に勇次の必死こいて新聞を探していた姿を、思い浮かべていただけなのに……
勇次の目には、俺がよほど食いついているように見えていたのか、勇次は新聞を手に取って俺に差し出した。
「だったらこの新聞、おまえにやろうか?」
「いや、いいよ。これは勇次のものなんだろ?」
「大丈夫だ。だって──」
勇次はバックを開け、中からまた何かを取り出す。
「──5つも買ったからよ。なんなら芽依の分もあるぜ?」
そう言って、勇次はテーブルの上に同じ新聞をズラリと並べた。
「そ、そう……いいかな。私は」
「なんだ? 遠慮してるのか? ほら! 誠人も、芽依も! ほら! 受けとれよ!!」
何だか……やっぱりこいつは、やかましいやつだ。
まぁ何はともあれ、“あの”勇次が帰ってきたんだ。俺達の知る、いつもの勇次が。
彼の底抜けの明るさは、決して折れてなんかいやしなかった。
勇次が笑えば、俺達も笑う。
俺達は──普段通りの光景を取り戻した。
・・・
俺達が祝杯をあげ、若干1名が浮かれている頃。
“ある人物”の元に、俺達が見ているものと全く同じ新聞が回ってきていた。
「見ましたか。この新聞の記事」
「新聞?」
「えぇ、これですよ。小さな記事でしたけど、たまたま見つけたんです。これ、どう思います? “現田警部補”は」
その、ある人物とは──埼玉県警の現田である。
現田は部下からもらった新聞の記事を見た。
「──これは……」
それは白黒写真の、ほんの僅かな部分。
この“3人”のシルエットを現田が忘れるわけがない。
「また彼らはやってのけたのか? その──“悪夢”とやらの力を使って」
「そうかもしれません。やはりそうですよね。この写真」
「間違いないだろう。よく見つけたな。よし……今一度、彼らを徹底マークするぞ!」
「はい!」
※ここで、5章は終わりです。次の章は、また一風変わった悪夢をお届けします。
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