第48話 “閉幕”
まさに勇次は正義のヒーローだった。
諦めかけていた俺には希望を与え、犯人である男には絶望を与えている。
「勇次……おまえがどうしてここに……」
俺がそう尋ねると、勇次は照れ臭そうにしながら、右手で後頭部を数回掻いた。
「俺にはこの悪夢が見えてたからな。簡単なことだよ。来ないつもりが……おまえらが心配で、結局来ちまったじゃねぇーか!」
やはりこの抜け道が車によって塞がっていたのは、偶然なんかではないようだ。
勇次が意図的に、この場所に車を停めていたのである。
勇次は悪夢として、男の逃げるルートが分かっていた。
どうやら俺の悪夢で逃げた出口は記憶違いで、勇次の悪夢の方が正解ルートだったらしい。
それを思うと、俺の悪夢は事件現場となる場所と、犯人の特徴を捉えるために必要だったのだと考えられる。
しかし、芽依が偶然、この公園の場所を知っていたおかげで、俺の予知夢の効果は半減。
本来芽依の役割は、事件の“その瞬間”を確かめるためのものだったのだろう。
残された智の悪夢は、犯人が睡眠薬を入れるところでも目撃していたのかもしれない。
まぁいくら推測を立てようが、真相は闇の中だ。
何にせよ、結果的に犯人の男を追い込んだことに変わりはない。
「何なんだこいつらは……どうしてこうも、俺の行動が読まれる……」
男は膝から崩れ落ち、その場に座り込んだ。
何としてでも逃げるために、別ルートを探すかと思っていたが……
それよりも男は、俺らに対する“恐怖心”の方が勝っていたみたいだ。
なぜか睡眠薬のことを知る、謎の女……
その時点で頭は真っ白であったのに、今度は自らの行動を読みきったように、突如別の人物が現れる……しかもその人物は、俺らの知り合いだ。
これでは、男の理解が追い付かないのも無理はないだろう。
きっと俺らのことが怖くて怖くて仕方がなかったはずだ。
男は観念した様子で、涙を流しながら俺達に動機を明かした。
「許せなかったんだ……あいつが!! あいつは……浮気をしてやがったんだよ!! だから……だから……」
男は地面に顔を伏せ、両手に握りこぶしを作って何度も地面を叩いている。
男の涙ながらの話をよく聞いてみると、どうやら2人は正式に付き合っていたカップルだったらしい。
だが、彼女は彼の純粋な気持ちを裏切り、浮気をしていたそうだ。
それが男はどうしても許せなく、彼女殺害の計画を立てた。この初デートをした、2人の思い出の地である公園で。
男は悔しかったのか、それとも自分自身が許せなかったのか……どちらかは分からないが、泣き崩れていた。
この哀れな姿を見ると、同情してしまいそうでもある。
しかし、殺害を企てようなんて……例えその理由が何であろうと、決して許されることではない。
数分後、パトカーがやってきた。
芽依が男が逃げている隙に、警察に電話をかけていたのだと思われる。
男は殺人未遂で、その場で逮捕。
ほぼ男による自首に近かったが、そうさせたのは紛れもなく俺達だろう。
しばらくして眠らせていた女性も目を覚まし、警察に保護される形となった。
見事な推理を見せた芽依──おいしいところを全部持っていた勇次──そして、俺のささやかな活躍により……この事件は幕を閉じた。
・・・
──数日後。
俺達は事件を無事に終えた喜びを分かち合うため、祝賀会を3人で開催していた。場所はごく普通の居酒屋だ。
「いやー、本当に無事に終わってよかったよ」
「ほんとね。2人でどうなることかと思ったわ」
ほっと一息をつく俺と芽依。
今日は一段と酒がうまい。勝利の美酒だ。
「よくやったよ。俺抜きでよ。でも……結局最後は、俺の力が必要だったみたいだけどな」
やたらと勇次は得意気に語っている。
何だか鼻につくな……俺と芽依は愚痴をこぼす。
「調子いいなー。こっちは日にちも時間も分からず、大変だったんだからな!」
「そうよ。勇次がいれば、時間だって簡単に分かったはずなのに」
勇次は俺らの文句をものともせずに、笑い飛ばした。
「はっはっは! そうかもな。俺には時間や逃げるルートが見えていたからな。だからあの場所に車を停めれたわけだしよ」
「その時間が分からなかったせいで、俺達ずっと公園で張ってたんだぞ!? もう見飽きたよ! あの景色は!!」
「まぁそう言うなよ! 結果的にうまくいったんだから、もういいじゃねぇか!」
勇次はケラケラと笑っている。
本当はもっと怒りたかったところだが……何だかその笑顔を見ると、自然と俺の怒りは消えていた。
あれだけのことがあったのに、わだかまりなど俺達には一切ない。
すっかり元の関係性に戻っている。もしかしたら、それが何よりも俺は嬉しかったのかもしれない。
勇次もよほど嬉しかったのか、絶えず笑いっぱなしだ。
どうも俺は、この男の笑顔に弱いらしい……
なぜかこの笑顔を見ると……すべてを許せてしまうような……そんな気がするんだよな。
彼の笑顔には、そんな不思議な魔法の力があった。




