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星が墜ちた夜から  作者: Guru
5章 正義のヒーロー
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第45話 “一か八か”

 この男女はカップルなのだろうか。腕を組みながら歩き、やけにべったりと引っ付いている。


 俺は女性の方に目を向けた。

 露出度の高い派手な服装、(まだら)に茶色く染められた長い髪の毛……

 いくつか特徴を捉えたが、一番に目を惹かれたのは彼女の口元だった。


 なぜならば、彼女の口からは太いストローが伸びており、手に持つコーヒーをすでに飲んでいたからだ。

 中には睡眠薬が入っている……そうとも知らずに。


 カップルは悪夢と同様に、“コ”の字の下の横線に位置するベンチへと腰をかけた。


 俺達は、女性だけが先に1人で来ると予測していたため、男が来る前に女性に話を持ちかければ、事件を阻止しやすいと考えていた。だが、その作戦は早々に崩れ去る。

 しかも最悪なことに、女性はすでに睡眠薬入りのコーヒーを飲んでしまっているのだ。これでは眠くなるのも時間の問題だろう。

 

 隣のベンチに座っている俺達には、カップルの会話がよく聞こえていた。


「どうしたの? リュックなんて珍しいじゃん」


「まぁな。覚えてるか? この公園」


「当たり前でしょ。私達が初デートした思い出の場所なんだから」


「だよな。その思い出の場所で、プレゼントでも渡そうと思ってさ」


「えっ!? プレゼント!? 何くれるの?」


 女性はプレゼントの言葉に心躍り、わくわくとしている様子だ。

 それでも男は冷静で、静かな口調で言い返す。


「ほら……後でな。まだ人もいることだし……」


 男は俺達の方に目線を向けた。

『早くそこをどけよ』とばかりの目である。

 


 誰がどくもんか……それに、中にはプレゼントなんて入ってないんだろ?

 それとも殺害することがプレゼント──だとも? そんなサプライズは勘弁だ。

 しかも、初デートの場所で彼女を手にかけるなんて……よほど怨念がこもっているのだろうか。



 男は上にジャージを着用していた。スポーツ用というよりは、ファッションとしても着こなせるような緑と黄色のカラフルなデザインである。

 きっとこれが、返り血を防ぐために用意した上着。水を弾くような素材で、もってこいだ。


「てか、それ暑くないの? 脱いだら?」


「暑くないから平気さ。夜は涼しいかと思って着てきたんだ」


 やはりこの時期にその服装はおかしいのか、彼女にも指摘されている。しかし、頑なに男は上着を脱がない。


 それにしてもこの男。テンション高めの女性に比べ、とても物静かである。

 元々がこういう性格なのか、それともこれから人を殺すとなると、自然と口数が少なくなってしまっているのか……どちらかは分からないが、いずれにせよ不気味だ。


 俺達はずっと目を見張り、カップルを見続けていた。

 その間、まったく会話はなく、それがあまりにも不自然と感じたであろう芽依は、俺に話を振った。


「ねぇ、そう言えばバイトは見つかったの?」


「──ん? あぁ……まだかな……中々難しくてね」


 俺は芽依の質問に適当に相槌を打つ。

 正直、何を話したかなんて覚えていない。

 恐らく芽依も同じなはず。無言でさえなければ、とりあえずは何でもよかったのだ。


 俺達がそんな他愛もない会話のラリーをいくつか続けていると、彼女に変化が現れる。


「なんだか……私……眠くなってきちゃったな……」


「そうか。なら少し寝ればいいんじゃないか?」


「そう……ね……」


 急に彼女の目がうつろになっていく。

 全身の力が抜けていくようにも見え、彼女は男性の方に向けて倒れ込んだ。

 膝枕の体勢となり、彼女は手に持つコーヒーを──地面へと落とした。


 中に入っていた氷と、飲みかけのコーヒーが地面にぶちまけられる。

 その音に俺と芽依は自然に反応し、目で追っていた。

 

 視線を感じた男は、帽子を深々と被り直し、今一度顔を隠す。

 そして、こちらを向き、何でもない出来事とアピールするために、見知らぬはずの俺達に声をかけて来たのだ。


「こいつ、だいぶ酔ってたんですよ。それで眠くなっちゃったみたいで」


「はぁ……」


 どうみても彼女が酔っているようには見えなかったが、普通の人ならばその言葉を信じたかもしれない。

 だが、俺達はそれでは騙されない。


 しばし沈黙が流れた。

 彼女は寝ているため、男は黙るしかなく、それは当然のこと。  

 

 よって、不自然なのは俺達の方なのである。

 沈黙を破ろうと何か喋らなければと思ったが、これから起こるであろう出来事の前に、中々口を開くことができなかった。


 本来なら、この辺りで男は刃物でも取り出したのだろうか?

 しかし、俺達が目の前にいることで、男は“それ”すらもできないのかもしれない。


 俺達は作戦のひとつとして、ある考え方をしていた。

 このまま男と我慢比べでもしてるかのように、俺達がこの場に居座れば、事件が起きることはないと予測できる。

 けれども、男の殺意が消えるわけではないはずだ。

 

『今日のこの日を諦めるだけで、また別の日に犯行に及ぶのでは?』


──そう考えていた。

 そうなれば、この場を凌いでも意味がない。血は流れてしまう。


 だから俺達は、男を誘い出す作戦を取ることにしたのだ。

 居なくなったと見せかけ、犯行に及ぼうとした直前を抑えるしかない。 

 もちろん危険は伴うが……ここは一か八か、賭けてみるしかないだろう。


 俺達は犯人を誘い出すために──動き出す。

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