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星が墜ちた夜から  作者: Guru
5章 正義のヒーロー
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第46話 “仕立て屋”

 俺と芽依は事前のうちに、作戦を綿密に練っていた。

 待ち時間はいくらでもあったからな。




ーーー




『本当は事件が起きる前に女性を逃がすことができたら簡単だけど……それだけじゃ解決に至らないかもしれない。これでその理由は分かった?』


『あぁ、納得したよ。今日は平気でも、またいつかやるかもしれない。だから一番は、この場で犯人を捕まえるってことだろ?』


『えぇ、そうよ。だから逃がすよりはまず、女性に話を持ちかけて、捕まえることを考えましょう。もしそれが失敗に終わったら次は──』



 俺達の最終目標は、いつの間にか事件を未然に“防ぐこと”から、“解決すること”に変わっていた。

 男性をこの場で捕まえて、もう二度とそんな悪事をできないようにする。それが最善策だ。


 そのために俺達は、芽依主導のもと、いくつかの作戦パターンを用意する。

 順を追って芽依は作戦内容を説明してくれたが、俺は覚えることに必死で、口出しする余裕もなかった。


 ただ、それでも一点だけ、最大の不安要素は存在していた。

 そこがどうしても気になった俺は、芽依の話を一旦止める。


『ちょっと待ってくれ! 芽依。ひとつ問題があるんだ。そもそも論として、この俺に、大人の男性を捕まえることなんてできるのかな? 相手は刃物も持ってるわけだし……そこからして、まったくもって自信がないんだけど……』


『最初から誠人にそんなことは期待してないから大丈夫よ。それこそ勇次じゃないんだから』


『えっ? どういうこと?』


『体格のいい勇次が居たなら、そういった強行手段を取れたかもしれないけど……私達だけじゃそれは無理。だから“ここ”を使うのよ』


 そう言って芽依は、自分の頭を人差し指で差した。


『頭?』


『そう、頭脳で勝負よ。相手が刃物を持ってるんだったら、持ってない(・・)ときに勝負すればいいじゃない』


『持ってないときって……どういうことだ? さっぱり意味が分からないんだが……』


『まぁ見てなさいよ。これでも心理学も専攻してるんだから。今回はこちらの人数が少ない分、相手の心理をよく読む必要がある』


『そうかもな……見えてる予知夢が、いつもより少ないわけだし……』


『でしょ? だから、例え予知夢を見ていなかったとしても、まるで見ていたかのように、犯人を翻弄させてみせましょう!』


『へぇ~言ってくれるな。自ら予知夢をでっち上げるってか? 正確には予知“夢”ではないけども……お手並み拝見と行こうか』


『でっち上げって……もっと格好よく、“仕立てる”と言ってくれる? いい? 誠人。1回しか言わないから、よく聞いててよ! まず──』



 俺はこのあと、いくつもの相手の心理をつく作戦を耳にする……




ーーー




 よし……まさにこのタイミングだな。

 芽依が言っていた作戦を実行する、その時は。

 

 俺が中身を忘れないうちに、早いとこ始めようか。

 とりあえず一旦この場を離れて、犯行を誘い出す必要があるな。



 俺は芽依にアイコンタクトを送った。

 芽依は静かに頷く。

 

 お互いの準備もできている。

 これにて……作戦開始だ!!



「じゃあそろそろ帰るか? 時間も遅いことだし」


「そうね、帰りましょうか」


 俺達はベンチから立ち上がり、歩き出した。

 悪夢で見た、あのコンビニがある出口の方が近いが、反対方向へと進む。


 まず俺達は、男の向かいにあるベンチの後ろにあった、大きな木の裏に身を潜めるつもりだ。

 

 こちらのベンチから死角となっているならば、それは同様に反対側から見ても死角になるということ。隠れるには、もってこいの場所のはずである。



 俺達はある程度遠ざかり、しばしの時間を置いた後、忍び足で木の裏へと戻った。


 付近にある花壇も利用し、できる限り身を低くして、少しでも隠れるようにしながら。

 地面から生える草木に、洋服が擦れる音が鳴るが、それは最小限に抑えた。



 よし……なんとかバレずにここまでは来れたぞ。


 芽依も無事に、計画していた場所へと移動している。

 俺と芽依は多少の間隔を空けて木の裏に位置を取り、ここから男の行く末を見届けるつもりだ。

 やはりこの場所は俺達の予想通り、今の暗い夜の時間帯なら、木々の間からでもバレることはなさそうである。

 

 反対に、男の座るベンチから街灯はそこそこ近いため、俺達の方からは男の動きがよく見えわけだ。まさに最高の位置関係と言える。



 男は膝に乗せていた彼女の頭をゆっくりとベンチに降ろし、辺りをきょろきょろと見渡し始めた。明らかに怪しい動きである。

 次に、男はベンチに置いていたリュックを開け、中から何かを取り出す。


 黒の手袋だ。

 恐らく凶器に指紋を残さないために、手袋をする必要があるのだろう。

 そして、ついに男は──凶器である包丁を手に取る……これぞ決定的な瞬間だ。



──決まりだな。あとは男を取り抑えるのみ。

 芽依が言っていた“流れ”をよく思い出して……と。



 俺は芽依と事前に話していた、相手の心理をついた次なる作戦を決行することにした。

 

 脳内で、芽依の声が再生される。


『いい? 誠人。1回しか言わないから、よく聞いててよ! まず──男が刃物を取り出したら、誠人は足下にある草木を揺らして』


 まずは草木を揺らす……と。


 俺は足首辺りまで生えていた草木を、右足で擦るようにしながら、大きく揺らした。


「──何だ!? 誰かいるのか!?」


 男は突然鳴り出した、草と草が擦れる音に驚きの声をあげている。


「風か……?」


 しかし、気のせいと判断した男は、再び刃物で女性を狙い始めた。

 そこで俺はまた草木を揺らす。先程よりも強く、大きく。


「──またか!! 気のせいじゃ……ないよな」


 男は木の裏に何者かがいることに確信を持つ。


『実際にそこに誰かいたとしても、殺害前ならいくらでも誤魔化しが利く。だから男は平然を装うために、きっと凶器を一旦リュックにしまうはずだわ。そこが狙い目よ。狙うのは相手じゃなくて、“リュック”の方。証拠を抑えましょう』


 男は芽依の予想通り、包丁を隠すために、一度リュックへとしまった。


 仮に殺害後に目撃されていたものなら、男は目撃者となる俺達もろとも手にかけたかもしれない。

 やはりこれは危険が伴う、一か八かの賭け。俺は息を凝らす。 

 

『武器を持たないこの時間が、まさにチャンスね。私が木の裏から飛び出し、凶器が入ったリュックを奪ってみせるわ』


 男は焦った様子で、リュックを両手で持ちながらこちらへと一歩、二歩、そっと近づく。

 その間、俺は“次の一手”のために、ここでじっと待機だ。芽依の考えた作戦を信じるのみ。


 そして、男はリュックを背負うために、一旦片手に(・・・)持ちかえた。


 来た……ここだ! 芽依!

 今がチャンスだ!! 行け!!


 まるで俺の心の声が聞こえたのではないかと思うくらいの抜群のタイミングで、芽依は木の裏から颯爽と飛び出す。

 

 芽依はまさに、リュックを背中へと回す、この瞬間を狙っていたのだ。

 一時的にリュックが宙ぶらりんとなる、その僅か一瞬の隙を。


「──何!? 一体どこから……」


 男は完全に不意をつかれていた。

 予想外の別の方角から、人が飛び出てきたのだから。


 ここで男の目に、街灯に照らされた芽依の姿が映し出された。


「おまえは……さっきまでそこに座っていた……」


「えぇ、そうよ。ずっとあなたを見張ってたの。“これ”を取るためにね」


 芽依は得意気に、男のリュックを右手で持ち上げあげている。

 見事、リュックを奪い取ることに成功したのだ。


 ひとまず俺達は、証拠となり得る犯人のリュックを抑え、第一段階を突破した。

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