第29話 “時間稼ぎ”
銀行強盗事件が起きるまでの数日間、俺達はどうすべきか考えていた。
特に俺と芽依は、この現場に向かうことすら否定的だ。
しかし、日に日にその時が近づくにつれ……俺らに心境の変化が訪れる。
これが何度目になるだろうか。もう数えることをやめたくらいに、俺はこの悪夢の存在を恨んでいた。
こんな悪夢さえ見なければよかったのに……
知りさえしなければよかったのに……
いくら嘆いたところで、俺達は犯行の場所、日時、すべてを把握している。
やはり黙って指を咥えたまま、見過ごすわけにはいかない。
そのような心境の移り変わりがあったのだ。
余計な正義感が、俺達を危険にさらす。
そこで出た結論は、『命を最優先に』、『無理は絶対にしない』──主にこの2点。
それらをモットーとし、結局のところ俺達3人は、現場に向かうこととなった。
ただ、気を付けなければならないのは、俺達の悪夢は“不完全”であるということ。
智の分が補完できない……
そんな不安を抱えながらも、当日を迎える。
・・・
──事件当日。午後2時過ぎ。
俺達3人は、銀行前に到着した。
「ここだ。その銀行は」
三橋銀行駅前店。悪夢では外観は分からなかったが、ここで間違いないはずだ。
「誠人はこの系列の銀行を使っているのよね? それならいいでしょうけど、私と勇次は、この銀行の口座を持っていない……どうしたらいいかしら……」
芽依は銀行の目の前で、自分が銀行内に滞在する理由を探していた。
もしかしたら俺が夢の中に実在していたのは、この事が深く関係していたのかもしれない。
本来、勇次と芽依はこの銀行に来る用事はなく、その場にいたら辻褄が合わなくなってしまう。
だから、その可能性のある俺だけが、夢の中の事件に参加していた可能性が高い。
「まぁそこは誠人の付き添いってことで、座って待ってればいいだろ」
「2人は俺の保護者かよ。まぁうろちょろしてるよりはマシか」
勇次が適当な理由を付け、俺達3人は銀行の中へと入った。
入ると早速、受付の女性が俺の対応をする。
「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件でしょうか?」
「えっと~……保険のことについて知りたくて」
俺は銀行内を眺めた。
やはり夢の中同様、並びはすべて同じである。
俺が夢でいた場所は4番窓口。ずらっと横並びに並んだ窓口の、一番右奥のところだ。
即ち、窓口は全部で4つということになる。
だいたい銀行の窓口は、用件によって呼ばれる場所が決まっている。
奥の場所は、大抵時間の長くかかるものが利用されることが多い。だから俺はあえて4番窓口を使用するであろう、“保険”を選択した。
「かしこまりました。こちらの番号札を持って、お待ちください。お連れ様はどのようなご用件でしょうか?」
「私達は関係ないので大丈夫です。友人の付き添いで来ただけですので」
「左様でごさいますか。空いてるソファーにお掛けになってお待ちください」
俺達は空いていた中央のソファーへと移動し、腰をかける。
自動ドアを通って、ほんの少し真っ直ぐに進んだ位置だ。前方に窓口はなく、2番と3番窓口のちょうど中間辺りといった所か。
「まずは入れたな。あとは時間を待つだけだ」
事件が起きるのは2時23分。
今は2時過ぎのため、まだ大分時間はあるが、俺達はあえて現場に早めに来ていた。
なるべく夢の中と同じ状況にするために、俺は奥の4番窓口に座る必要がある。
時間ギリギリだと、座れないかもしれない。そのために早く来ていたわけだ。
しかし、平日の午後とあってか、銀行は比較的に空いていた。
想像よりも早く、俺の順番は訪れる。
まだ入店してから5分くらいしかたっていない。
「──もう呼ばれたか。だいぶ早いな。うまく時間を稼げよ。誠人」
「あぁ、分かってる」
勇次にそう忠告を入れられながらも、俺は4番窓口へと向かう。
席に着いてから、保険について担当女性から色々説明を受けた。
だが、正直俺はその話に興味がない。それに加え何だか難しい話ばかりしており……全然耳に入っていなかった。
言い訳に近いが、これから起きる大事件のことばかり、頭にあったからかもしれない。
数分間説明を受けた後、まだ早いと思った俺は時間を稼いだ。
「あの……すみません。もう一度、最初から説明してもらってもいいですか?」
「最初から……ですね。分かりました」
さすがのお姉さんも、露骨に嫌な顔をしている。
長々した説明を、また最初からやり直すなんて……とんだアホがやって来たと思っているに違いない。
俺はそんな無限ループを何度か繰り返していると……
左端の奥に、芽依が立っているのが見えた。
何やら芽依は壁にあるパンフレットを眺めている。
確か芽依が夢の中にいたというのは、俺とは反対側の1番窓口の辺りだ。
その近くに、背の高い強盗犯は現れるはず。すでに準備を始めているのだろう。
それに勘づいた俺は、スマホを取り出し時刻を見た。
時刻は2時22分。事件の起きる1分前だ。
とうとうその時が──来る!!
「手をあげろ!! ここは俺達が占拠した!! 貴様、このバックいっぱいに、ありったけの金を詰めろ!!」
来た……時間ぴったしだ。
俺達の悪夢との戦いが幕を開けた。




