第22話 “引っ越し”
章タイトルはふざけてますが、これも歴とした悪夢のお話です。
いつとは違ったドキドキを、お楽しみください。
俺達の悪夢は“4人”揃って、初めてひとつのものとなる。
その事を告げたあの日の夜から、5日がたっていた。
あれから俺も悪夢は見るものの、例の自殺未遂事件以降、みんなで共有する夢を見ることはなかった。
もしかしたら、見る悪夢にも“ランク”のようなものがあるのかもしれない。
人の命に関わるような大事件は、みんなが同じ夢を見る……それ以外の些細な出来事は、個人の悪夢となる……
今回の事件は、そのランクで分けで言えば、最低ランクのレベルに当たる話だ。
ここらで一息、コーヒーブレイクじゃないけれど……
重い話ばかりじゃ胃もたれしてしまうはず。
たまには、そんな小話もいいだろう?
・・・
俺は探していた1人暮らしの物件をようやく見つけ、引っ越しの作業を行っていた。
初めての1人暮らしのため、一通り家具を揃えなければならない。出費が激しすぎる……
そんな金欠状態となっていた俺に、救いの神は現れた。
その神とは──勇次のことだ。
どうやら勇次も引っ越しをするらしく、いらなくなった家具をもらえることになったんだ。
俺らはこの悪夢によって、近頃頻繁に会っていた。きっとこれからも密に接していくだろう。
そうなると千葉に住む勇次にとって、毎度都内のバーに行くのは億劫だったようだ。
しかも、喜ばしいことに、どうやら勇次の引っ越し先は、俺の家の近くらしい。
やはり都内と埼玉では、家賃はかなり違ってくるからな……
俺の家の方からなら、そこまで都内に行くのも遠くないし、ありっちゃありだろう。
俺は勇次の引っ越しを手伝いがてら、家具をもらいに、勇次の新しい家へと足を運んでいた。
「本当にいいのか? こんなにもらっちゃって」
「あぁ、全然構わねぇよ。むしろ要らないもの引き取ってくれて、助かってるところだ」
俺はとりあえず先に家だけを借りている状態で、ほとんど家具がない。そのため、まだ実家に住んでいる。
少しずつ荷物や家具を揃えて、直に1人暮らしを始める予定だ。
俺と勇次は、いくつかの家具を車の後部席に乗せていった。
この車は勇次の実家の車で、荷物運び用にわざわざ借りてきてくれたらしい。
基本みんなの実家は埼玉にあるため、距離的にはそこまででもない。
引っ越し会社に頼むと、それこそ金がかかるしな……
何から何まで、勇次には本当に感謝だ。頭が上がらない。まさに神と言える。
「なぁ、誠人。俺さ……」
荷物を運んでいる途中に、神……いや、勇次が俺に話しかけてきた。
「──ん? 何だ?」
「俺……好きな人ができたかもしれない」
突然の勇次のカミングアウトに、俺は動揺する。
「お、おい! なんだよ急に! 今そんな話は止めろよ!」
今は勇次からもらうテレビ台を運んでいる最中だ。
ここで手を離したりでもしたら、俺の足が死ぬ……変な話はやめてくれ。
なんとか手は離さず運び終え、俺達は車の中へと乗り込んだ。
勇次の運転で、俺の家まで向かう。
その間、俺は先程の話の続きを始めた。
「さっきの続きなんだけどさ。好きな人ができたんだって? それにしても、随分急な話だな」
「あぁ、なにせ昨日の話だからな。これぞまさに、運命の出会いってやつなのかもしれねぇ」
あぁ……だめだ。これは。勇次は完全に“あっち”の世界に入ってやがる。
とりあえず俺は半ば呆れながらも、詳しく話を聞くことにした。
「それで……誰なんだよ? 昨日はどこかに出掛けたのか?」
「昨日はバイトだったんだ。こっちの埼玉の、新しく始めたバイトのな。そこで出会ったんだよ。一目惚れってやつだ」
どうやら勇次は、すでに新たなバイト先も決めていたらしい。
俺なんて、ようやく引っ越し先を決めたばかりなのに……
本当に勇次の行動力には驚かされる。
引っ越しから新たなバイト先まで、思い立ったらすぐ行動に移す。
悪く言えばせっかちだが、何をするのものんびりな俺からしたら、尊敬すら覚える。
しかも、恋に落ちるまでも早いとは……
とてもじゃないが、真似できない。
「ここか。誠人の家は。もう着いたのか。本当に近いな」
俺と勇次の家は、駅ひとつ分くらいの距離だった。車ならあっという間で着く距離だ。
もう少し詳しく話を聞きたいところだったが、早くも目的地へと着いてしまったようだ。
一旦話は終了とし、荷物を家の中まで運ぶ。
わざわざ勇次も家の中まで運ぶのを手伝ってくれた。
本当に優しくていいやつだ。勇次は。
たまに周りが見えなくなって、自分の世界に入ってしまうとこがあるのは、ご愛嬌だろう。
「いやーほんと助かったよ、勇次! 今度飯でも奢らせてくれ!」
「いいって。金ねぇんだろ? 無理すんなって」
「……まぁな。わりぃな。でも、こうして家も近くなったし、飯はマジで行こう! その時、さっきの恋愛話の続きを聞かせてくれ」
「そうだな。誠人には相談に乗ってもらうかもしれねぇな……そん時は頼む!」
「あぁ!」
俺は勇次に別れを告げ、勇次は車で実家へと帰っていった。
・・・
──その日の夜。
俺はいつもの如く、悪夢にうなされて目を覚ます。
「はぁ……はぁ……今のは……本当に起こる出来事なのか?」
見る夢すべてが、予知夢とは限らない。
ただし、それが悪夢ならば、高確率で予知夢となる。
俺が見た夢には、勇次が出てきていた。
その夢の出来事は、まさに俺にとっては悪夢だったのだ。
「勇次に……彼女ができる? 俺を差し置いて、そんなバカな……」
今回の話は、題して──“勇次に彼女ができる事件”だ。
なぁ? くだらない事件だろ?
けど、これでも当の本人は真剣です。一大事なのです!!




