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僕が死んだら、不幸を下さい。  作者: 春夫
『透の物語』
31/41

影響力

「放課後、教室に残ってて。」


俺は昼休み、小林梨絵さんに真剣な目でそう言われた。


いつにもなく圧が凄まじかったので、呆気にとられ・・・


「はい。」


そう返事をしてしまった。


そして放課後となり・・・


「なんだよ、これは。」


俺は肘をついてそう呟いた。


「天峰、俺、帰っていいか?」


隣の翆さんの兄、本堂康がつまらなさそうな顔でそう言った。


「知らんがな、小林さんに聞け。」

「駄目って言われたからお前に言ってるんだろ?」

「なら諦めろ。俺は帰っていいと許可して小林さんに恨まれたくない。」


ちくしょうと隠す気のない舌打ち。

こいつモテるのにここが残念だ。


「結局、梨絵さんは何で僕たちを集めたのかな?」


康が愚痴を言ったと思ったら、今度は隣の愁が疑問を口にした。


「・・・ん〜、予想は出来るけど・・・」


俺がその疑問に答えようと思ったら・・・


「ねぇ、なんで私までここにいるのよ。」


愁の隣に座る女子で一番足が早いとされる坂口さんが康と同じように不満を口に出す。

不機嫌そうな表情を隠そうとなんてしていなかった。


俺・・・この人と喋ったことないんだけど・・・。 


「それはね、私達で翆ちゃんの元気を取り戻すためだよ。」


変なところでコミ症を発揮させていると、俺達の真ん前に小林さんが来てくれた。


「いやいや、なんで当然って顔しるのよ。

私関係ないし、今日も練習があるんだけど・・・ひっ!?」


坂口さんが反論を言うと、小林さんが睨み黙らせる。

その目で肉体的に強いであろう坂口さんを抑え込む。


「・・・女の子は睨んで怯ませるっていうパッシブスキルを持ってるもんなのかね?」

「翆さんとは違う怖さですよね。」


俺はコソコソと愁に話しかける。

愁の言葉に確かにと思ってしまった。

翆さんの睨みは獲物を狙う狼のようで、小林さんは・・・子猫を守る母猫のようだった。


「おい、翆に関する事なら俺こそ関係ないだろ。」


双子の兄である康は、小林さんの睨みに臆さずそういう。

こんな怖い顔をする小林さんに話しかけるなんて度胸すげぇな。

俺と愁は思わず感心してしまった。


「何言ってるの?翆ちゃんのお兄さんなんだから妹を助けるのは当たり前のことでしょ?」


小林さんの目から光が消える。

こめかみに怒りマークが浮かんでいるのは幻覚だろうか?

ってか、この人、翆さんが関わると必死だな。


「知らん、あいつがどうなろうと知ったこっちゃない。」


おぉ、辛辣な意見。

これを聞いたら翆さんはなんていうかな。

多分関節技を決めるのは決定していることだろう。


「兄妹なのに?」

「あいつは妹だが妹なんかじゃない。・・・化け物だ。」


まるで宿敵を見たかのような表情をする。

まぁ、理不尽を合わせ続けられている康からしたらその通りだわな。


「分かるかっ!俺は今までアイツにどれだけ苦しめられてきたかっ!」


そのどれもが翆さんの気を損ねる、空気を読まない発言のせいってのは言わないでおこう。


「いいか!俺はあいつをもう妹なんて見ていない!

敵だ・・・圧倒的な敵だ!」


ガバッと立ち上がり怒りを顕にする康。

翆さん。・・・あんた兄にこんなに嫌われてるよ。

少しは優しくしてあげな・・・。


「それに・・・双子だが俺とアイツでは似てるところなんてない。」


康はふんっ、と座り込む。

イケメンは怒った顔も絵になりますね。


・・・ん?翆さんと康が似てない?


「結構似てるくない?」

「ですね、僕もそう思います。」


愁もそう思っていたのか俺の疑問に肯定を返してくれた。

だよな、やっぱり似てるよな。


「あぁ?・・・どこがだよ。」


不機嫌な康に俺と愁は口を合わせていった。


「「馬鹿さ加減。」」

「おし、お前ら外でろ。殴り飛ばしてやる!」

「ほらそこ!めっちゃ反応似てる!」

「こんな所が似るわけ無いだろ!」

「じゃあ、そういう反応をしない翆さんを見たことありますか?」

「・・・。」


康は思い当たるフシがあるのか、何も言わなくなる。


「やっぱり、図星つかれたり、正論ぶつけられると黙っちゃうところなんてそっくりや。」

「おい、天峰。それ以上そのふざけた口を開くな。

ニヤニヤしたその面見るとイラッとくる。」


失礼な、どこがニヤニヤしているというのだ。

こちとら真顔だというのに。


「ぷっ。」


あ、やべ。あまりにも反応が似てるから笑っちまったぜ。


「ぶっ飛ばすっ!!」

「わぁァァァァァァ!?や、やめろぉぉぉ!!」


襲いかかってきた康の手をなんとか両手で防ぐ。

こいつ自分の攻撃が当たると思ったら全力でしてくるから怖いんだよな。


「黙りなさァァァァァァァい!!」


俺達が戯れていると、耳に怒声が響く。

俺達は恐る恐る声の聞こえたほうを振り向く。

もう小林さんのしていた表情は言わなくてもわかるだろう。


「・・・座れ。」

「「サァっ!イエッサァァァ!!」」

「「情けない。」」


俺達が椅子の上に正座するほど、彼女はお怒りだった。

残り二人がなにか呟いたが気にしないでおこう。


「・・・で、お兄さん。翆ちゃんが変わった原因に心当たりは?」


やっと小林さんが本題に入る。


「・・・ない。ほとんどあいつは部屋にいたからな。

掃除も洗濯も自分でしてるから母さんも部屋に入らないし、仲の良い兄貴は忙しいからな・・・誰も知らん。」

「・・・。」


ふむ、確か俺の兄も親が部屋に入ってくるのは嫌がってたからな。

翆さんがそうするのになんの不思議もない。

小林さんは悔しそうにしてるけど・・・。


「・・・なぁ、愁。

俺達の訓練の時に変化あったっけ?」

「う〜ん・・・いつもより上の空だったときが多かったのは覚えてるよ。」


うん、それは俺も覚えてる。

そのおかげで俺と愁はサボれたんだし。


「それ以外は別にない・・・かな?

いつものテンションだし、いつもの厳しさだった。」


まぁ、俺も同じような光景が記憶にあるな。

石段の上で座る翆さん。

地面の上で汗を流し、互いに組手をする俺と愁。

負けた方は腕立て。

そして『弱者』と書かれた鉢巻を巻いた姿を笑ってくる翆さん。


・・・あ、やべぇ、困ってるならもっと困らせてやりたくなった。


「言っとくが、あいつは本心なんて家族の誰にも見せないぞ。

いつも上から物を言ってくるんだ。」

「え?」


俺が困っている翆さんの姿を想像し、面白がっていると康がそんなことを言った。

俺はその言葉に疑問を覚える。

翆さんが本心を見せない?


「・・・それはわかります。

彼女はいつも何かを隠してるように僕も思います。」

「・・・。」


え?ガチ?

俺が教えてって言ったら意地悪はしてくるけどちゃんと教えてくれるぞ?

それに俺をからかうときなんてめちゃくちゃ幸せそうに笑うんだぜ?


「あぁ、私にも心当たりがあるわね。

前に競争して足を泥に取られて転けた時、彼女足擦り傷だらけになっても泣かなかったわ。」


あ、前に泥と傷だらけになって来たときがあったけどそれのせいか。

いや・・・てか、それは見栄を張ってるだけだぞ?

俺の前でも笑顔でいたけど足引きずってたり、傷を抑えてたし。

俺が指摘して傷の治療したら、泣きながら抱きついてきたし。


「・・・もっと私達頼ってくれていいのにっ!」


小林さんは本当に悔しそうにグッと握る力を強くし、舌唇を噛む。


あれ?・・・もしかしてコイツラ何一つ翆さんのことわかってないのか?


あの人は頼りたいときは頼るぜ?

俺に掃除とか押し付けるまであるしね。


多分翆さんが何も言わないのは、その困り事を自分一人で解決したいからだと俺は思うんだが。


そう思った俺は、一度今まで観察してきた翆さんとその周りを思い出してみる。


いつもしたい事には全力を出す翆さん。

それに憧れるこいつ等。

全力を出してない奴の嫉妬の声。


「・・・あー、なるほど。」


なんかこいつ等の翆さんを見る目がわかった気がする。

友人じゃないな。

尊敬、畏怖の対象で目標なんだ。

対等なんて思ってないんだろうな。


多分この目には翆さんも気づいてるな。

ま、そんなことを気にする翆さんでもないか。


「なにっ!?何か思いつくことでもあった!?」


俺の言葉を勘違いした小林さんがいきなり詰め寄ってくる。

近い近い近いっ!


「違います。ただちょっと俺の悩み事が解決できただけです。」

「紛らわしいっ!黙ってなさいっ!」

「はいっ!申し訳ございませんっ!」


怖い、女性怖い。

睨んでくる小林さんの目は多分メドゥーサ超えてるな。


俺はまた再開する会話を聞き耳だけ立てておく。

その一方で溜息をつく。


(まぁ、でもコイツ等の言い分もわかる。

翆さんのあんな寝不足で隈のある不機嫌な表情は珍しい。

もう一週間も続けば流石に何かあったんじゃないかって思うわな。

俺だって思ったし。

多分あの人は今、我武者羅に解決に突っ走ってんだろうな〜。)


でも俺の知っている翆さんは辛いときは他人を利用する賢い人だ。

そんな人が頼らないとなると、俺達の実力じゃにもならないか、元々他人が力になれる物事ではない・・・ってことかな?


例えば・・・何があるかな・・・?


「喧嘩・・・とか可能性ありませんか?」


俺が考えていると愁からそんな声が聞こえた。

その声に周りは・・・


「・・・ないだろ。

もしそうなら翆はいつもの帰宅時間に帰ってこない。

もっと遅くなるだろ。」

「そうね、私達か放課後ほぼ一緒にいるんだからそんな時間はないよね。」


安堵する小林さん。

まぁ、それには俺も賛成だな。


「てことは、勝負事は違うってことになるの?」

「いや、勝負事ではあるだろうな。

あいつは俺が知る限り、一番の負けず嫌いだ。

何を敵にしているかはしらんが、それは間違いないはずだ。」

「まぁ・・・そうね。」


坂口さんも康の発言には賛成らしい。

おい、翆さんよ。

あんた意外と習性把握されてるぞ。

てか、コイツ等、習性はわかってんのに肝心な性格は何も知らないのな。

・・・なんか表面しか見てないようで逆に理解されない翆さんが可哀想だ。


「あ、そう言えば・・・小林さん。」

「何?」

「翆さんと同じピアノ教室通ってたよね。

そこではどうだったの?」


俺が尋ねると少し考えるような仕草をして・・・


「ん〜、別に何も・・・変わったところは・・・ないね。」

「そっか・・・。」


ふむ、手がかりなしか。


「あ、でも、ここ最近は終わりにはいつも先生と話し込んでるのは見たよ。

・・・でもこれは最近じゃなくてもたまにあったことだからなぁ〜。」


わかんないと唸る小林さん。

他の奴らも思いつかずお手上げのやうな雰囲気だ。


(確か翆さんの将来の夢は芸術家だっけ。

そして高校生まで音楽の勉強をするとか言ってたっけ?)


俺は翆さんに一ヶ月前に「覚えろよ。」と言われ貰った紙の内容を思い出してみる。

丸暗記したギターに関する情報。

そして、ギターの練習時に俺が「初めからこんなに練習すんのっ!?」と愚痴ったあとに、翆さんが言ったことが頭に響いた。


『すること為すこと全部、早いほうが経験の量も時間も手に入れられるんだから文句言わない。』


あ・・・なるほど・・・。


なんかわかった気がした。

あの人が今手にする問題は芸術に関することだ。

そしてそれを彼女は今一人で完成させようとしてるんだ。


「・・・ふはっ・・・。」


(そりゃぁ、そうだよな。)


俺は思わず笑ってしまった。


(芸術に関しては人の手助けなんて借りてしまえばそれは自分の作品にはならんもんな。

誰も頼りたくないわけだ。)


俺腹を抑えて小さく笑う。

翆さんは辛い目になんて合ってない。

ただ大きな壁にぶち当たっているだけなんだ。

たったそれだけなのに・・・こんな心配されてる翆さん。

や、やばいよ・・・じ、ジワジワ来る・・・!


「何がおかしいのっ!真面目に考えてよ!」


俺が笑っていることに気づいた小林さんは机をバンと叩く。

翆さんの現状の原因を思いついた俺にはもう威嚇は気にならない。

俺は笑いすぎて出てきた涙を指で拭い・・・


「いやいや、ごめん。ちょっと面白くてさ。」


そう言った。

煽られてると思ったのか顔を真っ赤にしてきた。


「・・・っ!」

「おっと、勘違いしないで。

貴女たちが面白かったわけじゃないよ。

翆さんの阿呆さが面白くて。」


俺は小林さんが怒る前に立ち上がる。


「ふぅ〜、小林さん、安心しな。

翆さんはちゃんと元に戻る。

いつになるかは実力次第だからなんとも言えないがね。

・・・いや、もっと逞しくなって戻ってくる可能性まであるな。」

「な、なんでそんなことが分かるのよっ!」


どうしようか、俺の考えを言えばこの人たちも多分だが納得はしてくれるだろう。

けどこれが当たっていたのなら、小林さんが無意識のうちに翆さんの邪魔をするかもしれない。


・・・うわ、言わないでおこう。


「・・・俺はなんとなくだけど大体分かったからね。」

「教えて!!」

「嫌だ。」

「・・・っ!?」


俺は首を振り否定する。


「あんたも翆さんの友達って言うなら翆さんがどんな女性かぐらいは知っときなさいな。

それも知らないのに俺は話せない。」


ま、俺のほうがこの人より一緒にいた時間は短いんだけどね。

そう思いながら俺はランドセルを背負い、出口を目指す。


「じゃ、俺はそろそろ帰る。」


勝手な行動に小林さんは怒っているだろうが止めたりはしない。

俺の言葉が突き刺さったからなのかは不明


「あー、アドバイスしとくと、放っておくほうがいいぜ。

余計な心配されるより、いつも通りの日常にしといてくれる方が翆さんにとって一番嬉しいことだろうし。」


納得がいかないと俺を適しするような視線を送ってくる小林さん。

恨まれたもんだなぁ〜。


「ま、翆さんはちゃんと困ったときは助けを求められる人なんだからさ。

そんな怖い顔してると逆に申し訳ないって悲しそうな顔にしてしまうよ。

スマイル イズ ベリー インポータント。」


俺は教室をでた。

走って帰路をたどる。

足は止まらなかった。


家につけばランドセルを投げ置き、制服をぱぱっと着替える。


過去最高速度を叩き出したのをこのときの俺は知らなかった。


着替えたら母親に「お菓子が買いたい」といい、お小遣いをもらう。

スーパーに行き、甘いものをたくさん買い、部屋に戻る。


そして俺は翆さんから貰った紙を机に平げ・・・


「置いてかれるのは・・・尺だよな。」


俺はやる気に満ちていた。

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